国家試験の合格基準は,6割程度です。
6割程度は90点ということになりますが,難易度によって補正されますので,毎年合格基準点は上下しています。
合格基準点が発表されるようになったのは,第15回以降です。
今まで16回実施されており,最も合格基準点が高かったのは,第30回の99点,最も合格基準点が低かったのは,第25回の72点です。
6割(90点)を基準とすると
第30回はプラス9点
第25回はマイナス18点
これだけ振れ幅が大きいと,どれだけ点数を取ればよいのか不安になると思います。
合格基準点がどうなろうと6割程度の得点ができる実力をつけることが合格のために必要なことです。
現行カリキュラムの国家試験を検討した時,絶対評価であるべきであるが,問題の難易度によって補正するのが適切である,と意見されているからです。
絶対評価で90点となると,第25回では合格した人はおそらく5%もいなかったのではないかと予測します。
第25回までは,高い点数を取ることが極めて困難な試験が続いていたからです。
この試験があったからこそ
勉強した人は得点できる。
勉強が足りない人は得点できない
という国試が適切だと思うわけです。
さて,今回は,魔の第25回の国試問題を取り上げます。
国試問題が迷走を続け,最も得点するのが困難になった年の問題です。
第25回・問題71 2009(平成21)年度の国民医療費等に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 国民医療費の対前年度伸び率は,同年度の国内総生産(GDP),国民所得(NI)の伸び率を下回っている。
2 国民医療費の総額を前年度と比べると,65歳以上で増加しているが,65歳未満では減少している。
3 「平成21年度医療給付実態調査」(厚生労働省)によれば,65歳以上の年齢層では,高齢になるにしたがって,受診率,1件当たりの日数は低下するが,1日当たり医療費は増加する。
4 65歳以上の年齢層の国民医療費の総額は,それ未満の年齢区分の総額よりも大きい。
5 国民医療費の国民所得に対する比率は,依然として10%未満を保っている。
試験委員は,この問題の難易度は,6割程度の人が解ける問題だと思って作成したと思います。
しかし「保健医療サービス」は,現行カリキュラムで新設された科目なので,試験センターではどんな問題を出題すればどのくらいの正解率になるのか,といったデータが少なかったために,難易度を測り間違ったのではないかと思うのです。
この問題の難易度は高いですが,答えを導き出す糸口はあります。
ただし今はこの手の言い回しはほとんどされません。
なぜなら,言い回しで分かってしまう問題は不適切だからです。
勉強不足の人でも勘の良い人は解けてしまいます。勉強不足にもかかわらず,正解してしまうような問題は極めて不適切です!!
それでは解説です。
1 国民医療費の対前年度伸び率は,同年度の国内総生産(GDP),国民所得(NI)の伸び率を下回っている。
このようなピンポイントの知識が必要な問題は,出題されることはないでしょう。
答えは,2009年度の国民医療費の伸び率は,GDP,NIの伸び率を上回っているので,間違いです。
なぜなら,国民医療費は一貫して伸びているわけではなく,GDP,NIも年度によって上下しています。
特にGDP,NIは景気によって大きな影響を受けるので,上下に変化します。
つまりこの選択肢で生かされる知識は,2009年度だけにとどまります。汎用性がありません。クイズマニアの領域だと言えます。
しかし,深く考えなければ,一般的な知識では「国民医療費は伸びている」という認識があれば,この選択肢を消去できるでしょう。とは言うものの,この選択肢は実は極めて難しいのです。
2 国民医療費の総額を前年度と比べると,65歳以上で増加しているが,65歳未満では減少している。
これも間違いです。国民医療費が,前年度よりも減少したのは,平成12,14,18,28年度です。平成12年度は,医療費の一部が介護保険に移ったため,それ以外の年は,診療報酬や薬価引き下げが理由です。
国民医療費が減少するのは診療報酬や薬価引き下げという理由を考えると,65歳以上と65歳未満では,同じ方に動くと考えられます。この年は,どちらも増加しています。
3 「平成21年度医療給付実態調査」(厚生労働省)によれば,65歳以上の年齢層では,高齢になるにしたがって,受診率,1件当たりの日数は低下するが,1日当たり医療費は増加する。
これも間違いです。
医療給付実態調査という,何ともマニアックな報告書からの出題です。
これを事前に勉強した人はまずいないと考えられます。高齢になると医療が必要になることが多いので,受診率,1件当たりの日数,1日当たり医療費ともに増加します。
これらはセットなので,どちらかが低下して,どちらかが増加するという動きはしません。
4 65歳以上の年齢層の国民医療費の総額は,それ未満の年齢区分の総額よりも大きい。
正解はこれです。
65歳以上の国民医療費は約6割を占めます。
しかし正解できた人でも「答えはこれだ」と思った人は少なかったはずです。
ほかの選択肢を消去して,ようやくこの選択肢が残ったことだと思います。
5 国民医療費の国民所得に対する比率は,依然として10%未満を保っている。
これは間違いです。
対NI比は,10%を超えています。
ただし,対GDP比は,10%を超えていないので注意が必要です。
この選択肢を消去するポイントは,「依然として」です。
今はこんな表現はされないと思います。
もし,正解選択肢にするなら,国民医療費の国民所得に対する比率は,10%未満である。
で良いと思います。
<今日の一言>
第25回国試が難しかった理由は,それまでの問題を下敷きにして作らなかった問題が多かったためです。
そのために,今日の問題のように,今までの知識ではなく,想像力で消去しなければなりませんでした。
しかも正解選択肢も今まで出題されたことのないものが配置されています。
この反省のためなのか,その後第28回では,同じ内容のものが正解にされています。
第30回国試は,第25回国試とは逆に正解でき過ぎたものとなりました。
試験センターは,得点できない問題と得点できる問題のデータが取れたので,今後はその折衷で問題をつくるはずです。
つまり,勘で消去しなければならない選択肢を織り交ぜるということです。
このような選択肢が一つ含まれるだけで,正解率は大きく下がるのです。
しかし,すべてをそのような選択肢にすると正解率は低くなりすぎてしまうので,正解選択肢は,勉強した人なら解けるものを配置するはずです。
これによって,勉強した人は解ける,勉強不足の人は解けない,という国試としては理想的な問題が出来上がります。
このような問題で正解するためには,とにかく落ち着いて問題文を読むことが大切です。難しそうに見える問題でも,勉強した人なら解けるように仕掛けがされているからです。
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