日本の医療保障は,社会保険制度です。
日本の医療保障は社会保険ですが,税によって運営されるイギリスの国民保健サービス(NHS)のようなタイプの医療保障を採用している国もあります。
NHSは,基本的に無料で医療サービスを受けられます。しかし医療サービスを受ける家庭医(GP)は決まっており予約する必要があるので,何か月も待たされることはよくあります。そのため,民間医療保険に加入する人も少なくないと言われています。
日本の医療保障は社会保険なので,社会保険料を納付する必要があります。しかしNHSと違い,どこでも自由に診療が受けられるフリーアクセスが特徴です。
さて診療には,医療保険が適用される保険診療と医療保険が適用されない保険外診療があります。
診療報酬は,そのうち保険診療を実施した場合に保険医療機関に支払われるものです。
診療報酬が支払われるためには,厚生労働大臣から保険医療機関として指定を受ける必要があります。
診療報酬の不正請求などで保険指定を取り消されることがあります。医療保険が適用されないことは,患者が100%負担しなければならないので,医療機関としては致命的です。
診療報酬の審査支払権限は保険者にあります。
実際には,被用者保険の場合は,社会保険診療報酬支払基金,国民健康保険と後期高齢者医療制度の場合は,国民健康保険団体連合会(国保連)に委託して,審査して合致していれば保険医療機関に診療報酬が支払われます。国保連は診療報酬のほかに介護報酬の審査支払も行っています。
診療報酬は,1点10円の点数表(料金表)の表され,全国一律です。介護報酬のように地域差は設けられていません。診療報酬の決定は,中央社会保険医療協議会(中医協)に諮問され,その意見をもとに厚生労働大臣が行います。
基本的には2年ごとに改定されています。介護報酬は3年ごとに改定されるので,診療報酬と介護報酬のダブル改定は6年に一度ということになります。2018年がダブル改定の年でした。次のダブル改定は2024年となります。
それでは今日の問題です。
第23回・問題64 保険診療は,被保険者,保険医療機関等,審査支払機関,医療保険者の4者によって構成されるが,その仕組みに関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 被保険者が受診するときは,所属する医療保険者が選んだ保険医療機関を受診しなければならない。
2 医師や歯科医師,薬剤師は,それぞれの国家資格を取得すれば病院や診療所において保険診療,保険の調剤ができる。
3 保険医療機関は,診療行為の費用を医師会が決める料金表を基に計算し,「レセプト」として審査支払機関に請求する。
4 審査支払機関は,「レセプト」が保険医療機関及び保険医療養担当規則等に合致しているか,また,医学的に妥当かなどを審査して,その療養の給付に関する費用を保険医療機関等に支払いをする。
5 審査支払機関に対し審査及び支払に関する事務を委託した医療保険者は,審査支払機関から送付された審査済みの「レセプト」に基づいて,保険医療機関等に診療報酬の支払いを直接行う。
(注) 「レセプト」とは,「診療報酬請求書及び診療報酬明細書並びに調剤報酬請求書及び調剤報酬明細書」のことである。
余計な話ですが,設問から今はないスタイルのものですね。
今ならおそらく「保険診療の仕組みに関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい」というシンプルな言い回しがされることでしょう。
それでは解説です。
1 被保険者が受診するときは,所属する医療保険者が選んだ保険医療機関を受診しなければならない。
これは間違いです。日本の医療保険制度の特徴は患者が自分で保健医療機関を選んで受診するフリーアクセスが特徴です。
2 医師や歯科医師,薬剤師は,それぞれの国家資格を取得すれば病院や診療所において保険診療,保険の調剤ができる。
これも間違いです。保険適用されるためには,厚生労働大臣によって保険指定を受けなければなりません。
3 保険医療機関は,診療行為の費用を医師会が決める料金表を基に計算し,「レセプト」として審査支払機関に請求する。
これも間違いです。診療報酬を決定するのは厚生労働大臣です。
4 審査支払機関は,「レセプト」が保険医療機関及び保険医療養担当規則等に合致しているか,また,医学的に妥当かなどを審査して,その療養の給付に関する費用を保険医療機関等に支払いをする。
これが正解です。保険者が審査支払権限を持っていますが,実際には審査支払機関に委託してレセプトの審査を行い,適切であれば審査支払機関が診療報酬を支払います。
5 審査支払機関に対し審査及び支払に関する事務を委託した医療保険者は,審査支払機関から送付された審査済みの「レセプト」に基づいて,保険医療機関等に診療報酬の支払いを直接行う。
これは間違いです。保険者は審査支払を審査支払機関に委託しています。言葉通り,審査だけではなく,支払いも審査支払機関が実施しています。
審査支払機関は審査済みの請求書を医療保険者に送り,医療保険者はその金額を審査支払機関に納付します。
審査支払機関は保険医療機関等に診療報酬を支払います。
たくさんの支払先があるので,保険者が診療報酬を直接保険医療機関に支払うのは大変なので,その部分も委託しているのです。
最新の記事
子ども・子育て支援法
子ども・子育て支援法は,これまでにも出題されてきましたが,正式に出題基準に含まれたのは,第37回国家試験です。 子ども・子育て支援制度は,市町村が実施主体になっています。 支給申請は,市町村に対して行います。 児童福祉法には,入所系があるので都道府県の役割がありますが,子ども...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...