国民医療費をずっと続けていますが,いよいよ大詰めです。
国民医療費の出題確率は100%ですが,決して簡単ではないのが特徴です。
なぜなら,報告書関係は,見るべきポイントが多いので,それを見たからと言って,覚えていられることは少ないからです。
学校の先生は,「〇〇白書は出題されるから目を通しておくように」と言います。
しかしそれは専門家だから見るべきポイントが定まっているので,見たら覚えられるのだと思います。
一般的には,過去に出題されたポイントを押さえていくことになるのだと思います。それ以外のところが正解選択肢になると得点するのは難しくなります。
今日の問題は,難易度が高い問題です。簡単そうで難しいのです。
それでは今日の問題です。
第29回・問題70 「平成25年度国民医療費の概況」(厚生労働省)に基づく,我が国の医療費に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 年齢階級別の割合をみると,65歳以上の医療費よりも65歳未満の医療費の方が高い。
2 制度区分別に金額をみると,国民健康保険の総額よりも被用者保険の総額の方が多い。
3 医科診療医療費の傷病分類別の割合をみると,呼吸器系の疾患が最も高い。
4 医科診療医療費の診療種類別の割合をみると,入院医療費よりも入院外医療費の方が高い。
5 国民医療費の総額をみると,初めて40兆円を超えた。
このような問題を見ると,国家試験で得点するのは難しいと思ってしまいますが,このような問題はめったにはありません。
難しい理由は,後述します。
それでは解説です。
1 年齢階級別の割合をみると,65歳以上の医療費よりも65歳未満の医療費の方が高い。
これは間違いです。
65歳以上は約6割,65歳未満は約4割です。これを消去するのはそれほど難しくないです。
2 制度区分別に金額をみると,国民健康保険の総額よりも被用者保険の総額の方が多い。
これも間違いです。ただし「この時点において」です。
おそらく専門家の中では,被用者保険よりも国民健康保険の総額の方が多いというのは常識的なものだったのではないでしょうか。
しかし一般的なイメージでは,被用者の方が加入人数は多いので,総額も被用者の方が多い,と思われがちです。
しかし,実はずっと国保の方が多かったのです。
とはいうものの,被用者保険の金額は増えてきて,とうとう平成28年度では逆転してしまいました。
現在は,一般イメージと事実が同じとなったわけです。
この問題の出題はしばらく封印されることでしょう。
頻繁に順位が入れ替わる問題は出題されませんし,頻繁ではなくても順位が入れ替わったものは,それが固定されたと思われる時点ではないと出題されないからです。
3 医科診療医療費の傷病分類別の割合をみると,呼吸器系の疾患が最も高い。
これも間違いです。最も多いのは「循環器系の疾患」です。「呼吸器系の疾患」ではなく,「新生物」と出題されていれば,正解にした人が多くなっと思います。しかし一般イメージでも「呼吸器の疾患」が最も多いとは思わないでしょう。
4 医科診療医療費の診療種類別の割合をみると,入院医療費よりも入院外医療費の方が高い。
これも間違いです。
入院外医療費よりも入院医療費の方が高くなっています。患者数は圧倒的な入院外(つまり通院)の方が多いですが,入院した場合の医療費は高いのは誰もが納得するところでしょう。
5 国民医療費の総額をみると,初めて40兆円を超えた。
これが正解です。
<今日の一言>
国民医療費は40兆円を超えていることは,ある程度勉強した人なら誰もが知っているとものです。
しかしそれがいつ超えたのかを問われると答えられる人は決して多くはないでしょう。
後から歴史的に振り返れば,40兆円を超えた年は区切りとして認識されるかもしれません。
しかしその時代に生きている人は,いつのことだったかを正しく認識している人は少ないものです。
マニアにとっては,「40兆円を超えた年は平成25年度」と覚えることに意味があるかもしれませんが,マニアではない人にとって,それは平成24年度でも平成26年度でも良い話のように思います。
この出題は「国民医療費の総額は,40兆円を超えている」で良かったのではないでしょうか。
それよりもこの問題の難易度が高くなったのは,
2 制度区分別に金額をみると,国民健康保険の総額よりも被用者保険の総額の方が多い。
この選択肢の影響です。
わずか3年のうちに逆転してしまい,平成28年度ではとうとう被用者保険の方が多くなってしまいました。
国家試験の合格基準点の6割程度という数字は,別の角度から見ると,受験生の6割が解ける難易度で国試を構成しているということに他なりません。
この問題も決して難易度を高く設定した問題ではなかったと思いますが,選択肢2という伏兵にやられたという感じではないでしょうか。
最新の記事
成年後見人の職務
成年後見人の職務は,身上監護と財産管理です。 法務省の資料によると,それぞれ以下のように説明しています。 身上監護とは,ご本人の生活や健康の維持,療養等に関する仕事です。例えば,ご本人の住まいの確保,生活環境の整備,施設に入所する契約,...
過去一週間でよく読まれている記事
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
ソーシャルワークは, ケースワーク グループワーク コミュニティワーク(コミュニティオーガニゼーション) とそれぞれの専門領域で発展していきました。 ソーシャルワークの統合化とは,それらのソーシャルワークとしての共通基盤を明確にすることを意味しています。 そのきっかけとなったのが...
-
様々なアプローチが第31回国試までに出題された回数を整理すると以下のようになります。 アプローチ名 出題回数 ・心理社会的アプローチ 9 ・機能的アプローチ 4 ・問題解決アプローチ ...
-
リッチモンドは,「人と環境」について ソーシャル・ケース・ワークは,「人と社会環境との間を個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる過程」である。 と述べています。 リッチモンドがこう述べたのは,1922年のことです。 しかしその後,「個」...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
ソーシャルワーカーは,場面によってさまざまな役割を演じます。 今日は前説なしに,ソーシャルワーカーの役割についての問題です。 第 31 回・問題 107 ソーシャルワークの援助過程におけるソーシャルワーカーの役割に関する次の記述のうち,最も適切なもの...