2019年3月31日日曜日

ソーシャルワークにおける権利擁護

ソーシャルワークは,ケースワークは慈善組織協会(COS),グループワークはセツルメントの活動に源流があります。

そのうち,ケースワークは,リッチモンドによって科学性が導入され,発展していきます。

リッチモンドは,ソーシャル・ケース・ワークは「人と環境の間を,個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる諸過程である」と定義づけています。

その後,フロイトの精神分析理論に影響を受けた診断主義ケースワーク,ランクの意志心理学に影響を受けた機能主義ケースワークとして,さらに発展していきます。

1950~60年代には,黒人や移民など新しい社会的問題が発生しますが,ソーシャルワークは,個人的問題の解決に傾倒していたために,それらの問題に対応できていないと批判を受けることになります。

マイルズは「リッチモンドへ帰れ」,パールマンは「ケースワークは死んだ」と述べました。

そんな中,ソーシャルワークの新しい機能として,権利擁護(アドボカシー)が打ち出されてきます。

今日では,アドボカシーは,ソーシャルワークの重要な機能の一つですが,最初からあったわけではないのです。

現在は,過去の積み重ねでできています。

歴史を学ぶことは意義も確認できるので,ソーシャルワークのスキル向上にもつながることでしょう。

そんなことで,今回から数回に分けて,アドボカシーを学んでいきたいと思います。

それでは,早速今日の問題です。

第22回・問題88 アドボカシーに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 利用者が自分の要求を表明できない場合に,援助者がそれを代弁する機能のことである。

2 援助者のロイヤリティが所属機関にあることから,その第一の目的は,所属機関を擁護することである。

3 援助者個人の関心に基づき,特定の人たちの権利を維持・向上するために,政策や法律の変革を求める働きかけのことである。

4 利用者と利害関係のある相手の主張に対し,援助者は利用者が妥協できるように交渉することである。

5 援助者の治療的アプローチによって,利用者が無気力であった自己を積極的な自己へと変容させる援助者の活動のことである。


それほど難しくはないですが,カタカナ語に弱い人は,面倒だと思うかもしれません。

しかし,起源を外国に持つソーシャルワークでは,外国語が多く使われています。
苦手とは思わないで,慣れていることが大切です。

それでは解説です。


1 利用者が自分の要求を表明できない場合に,援助者がそれを代弁する機能のことである。


これが正解です。

アドボカシーには,様々な方法がありますが,利用者が自分の要求を表明できない場合に,援助者がそれを代弁するのもアドボカシーです。

そのため,アドボカシーは,権利擁護,あるいは代弁と訳されます。


2 援助者のロイヤリティが所属機関にあることから,その第一の目的は,所属機関を擁護することである。


これは間違いです。

ロイヤリティという意味のわからないものがあるので,混乱しそうになる人もいるでしょう。

こういった場合は,

アドボカシーの第一の目的は,所属機関を擁護することである。

と読み替えるのが適切です。

これだと間違いだとわかりやすいですね。アドボカシーの目的は,クライエントの権利擁護に決まっています。


3 援助者個人の関心に基づき,特定の人たちの権利を維持・向上するために,政策や法律の変革を求める働きかけのことである。


これは間違いです。

特定の人たちの権利を維持・向上するために,政策や法律の変革を求める働きかけのことは「クラス・アドボカシー」といいますが,その目的は,あくまでも対象者の問題解決です。

援助者個人の関心に基づくものであってはなりません。


4 利用者と利害関係のある相手の主張に対し,援助者は利用者が妥協できるように交渉することである。


これも間違いです。

交渉は「ネゴシエーション」です。ネゴシエーションもアドボカシーの一つになると思いますが,交渉するのは,クライエントの権利擁護のためです。

利用者が妥協するのでは何のための交渉なのか意味がわからなくなります。


5 援助者の治療的アプローチによって,利用者が無気力であった自己を積極的な自己へと変容させる援助者の活動のことである。

これも間違いです。

治療的アプローチは,かつての診断主義ケースワーク,今日の行動変容アプローチや認知行動療法など,クライエントの変容を目指すものを意味していますが,アドボカシーとは言えません。


<今日の一言>

アドボカシーには,

特定の個人を対象とした「ケース・アドボカシー」
同じニーズを持つ集団に対する「クラス・アドボカシー」

があります。

アドボカシーのために,ソーシャルワークの専門的な知識や技能が用いられます

「相談援助の基盤と専門職」は難しい科目かもしれませんが,ソーシャルワーカーが専門職であるためには,しっかり学ことが必要です。

むしろ法制度などより優先しなければならない科目だと言えるでしょう。

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