ソーシャルワークは,欧米で誕生したものです。
そのため,専門用語には英語が多く使われています。
明治以降から戦前までなら,日本語に訳していたことでしょう。
こう書くと「日本語の方がわかりやすいのに」と思う人もいるでしょう。
しかし日本語に訳されるのも善し悪しでしょう。
第31回国試では,ウェーバーが提唱したのは何か,という出題がありました。
以前からウェーバーの社会学は「なぜ理解社会学と訳したのだろう」と思っていたら,そんなものが出題されてとてもびっくりしました。
おかしな訳をされるくらいなら,そのまま使った方が良いようにも思います。
社会福祉士に必要な知識は,理解社会学という名前でもウェーバーではなく,その内容です。
それはさておき,外国語の専門用語は覚えにくいかもしれませんが,出題される以上,勉強しなければならないことは間違いありません。
さて,アドボカシーは,権利擁護,代弁と訳されます。
国試では,なぜか,アドボカシーは自分が所属するために行うものである,といった内容が出題されることがあります。
アドボカシーという言葉の意味を知らなければ,言葉から推理することができないからでしょう。
しかし意味がわかっていれば,間違うことはないでしょう。
つまり・・・
勉強した人は解ける。
勉強が足りない人は解けない。
という理想的な問題が出来上がります。
それでは今日の問題です。
第26回・問題94 アドボカシーに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 利用者の権利を主張し,必要なサービスを要求する実践であり,その権利を擁護するためにまず法的手段を行使する。
2 福祉サービスの提供者が利用者のアドボカシーを行うことは,所属する機関への利益相反行為に当たり,専門職倫理から逸脱する。
3 マイノリティなど,特定のグループに属する人々の利益を主張・代弁する活動は行わない。
4 利用者の権利が侵害された状態が調整や交渉によっても解決しない場合は,福祉施設,行政機関などとも対決する。
5 利用者にとって最適な選択を専門的見地から決定し,利用者を説得する。
前回の問題とつながる内容が出題されています。
それでは解説です。
1 利用者の権利を主張し,必要なサービスを要求する実践であり,その権利を擁護するためにまず法的手段を行使する。
これは間違いです。
アドボカシーには,法的手段を行使する「法的(リーガル)アドボカシー」といいます。
一見,正解に見えますが,「まず」というところが間違いです。
アドボカシーには様々な方法があります。
その状況によって,手段は異なります。「まず」ということはないと言えるでしょう。
2 福祉サービスの提供者が利用者のアドボカシーを行うことは,所属する機関への利益相反行為に当たり,専門職倫理から逸脱する。
これも間違いです。
選択肢4と逆の内容になっています。セットであるとも言えるでしょう。
利用者のアドボカシーを行わないことの方が,むしろ専門職倫理から逸脱します。
3 マイノリティなど,特定のグループに属する人々の利益を主張・代弁する活動は行わない。
これも間違いです。
アドボカシーには,
クラス・アドボカシーとケース・アドボカシーがあります。
そのうち,特定のグループに属する人々を対象にするものは,クラス・アドボカシーといいます。
4 利用者の権利が侵害された状態が調整や交渉によっても解決しない場合は,福祉施設,行政機関などとも対決する。
これが正解です。
交渉はネゴシエーションといいます。ソーシャルワーカーはいつもクライエントの立場に立ちます。クライエント第一です。
5 利用者にとって最適な選択を専門的見地から決定し,利用者を説得する。
これも間違いです。
「説得する」というのは,いかなる場合でもだめです。
利用者が最適な選択ができるように情報提供を行います。
<今日の一言>
社会福祉士の国試は,第22回から現行カリキュラムになりました。
その際,新しい国試をどのような内容にするかが検討されました。
その中には,合格基準点が超えていても,ある選択肢を選んだら不合格にする,というものもありました。
結果的にそれは実現しませんでしたが,「説得する」というものがそれにあたるような内容でしょう。
現場では,実際に「説得する」ということもあるかもしれません。
しかし,「説得する」は地雷に相当するくらい不適切なものです。
地雷は踏まないようにしましょう。現場で行っているからといって,必ずしも正しいこととは言えないので要注意です。
最新の記事
児童手当法と児童手当
今回は児童手当法と児童手当を学びます。 児童手当法,児童扶養手当法,特別児童扶養手当法は,児童扶養手当法(1961年),特別児童扶養手当法(1964年),児童手当法(1971年)の順で成立していきました。 児童手当法の児童の定義は,18歳に達する日以後の最初の3月31日までの...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...