2019年4月4日木曜日

ノーマライゼーションの理念はどのように生まれた?

ノーマライゼーションとは,「ノーマル(普通)」の派生語で「ノーマル化する」という意味です。

「ノーマル化する」のは,障害者の生活です。

世界で最初にノーマライゼーションを提唱したのは,デンマークのバンク-ミケルセンです。

1950年代のデンマークでは,保護の名のもとに知的障害者は大型施設に隔離されていました。

その処遇に疑問をもち,知的障害者の親の会とともに処遇改善を始めます。

知的障害者の生活を普通の状態に近づけることことを求めた活動が「ノーマライゼーション」です。

この理念は,デンマークの1959年法として実現します。

この法律が世界で初めてノーマライゼーションを明文化したものとなりました。

1960年代には,スウェーデンにもノーマライゼーション思想は広がっていきます。

スウェーデン知的障害者協会の事務局長だったニィリエは,ノーマライゼーションの8つの原理を提唱しました。

ノーマライゼーションの8つの原理

①ノーマルな1日のリズム
②ノーマルな一週間のリズム
③ノーマルな1年間のリズム
④ライフサイクルにおけるノーマルな発達体験
⑤ノーマルな尊厳
⑥ノーマルな異性との生活
⑦ノーマルな経済水準
⑧ノーマルな環境水準

これによって,ノーマライゼーションがどのようなものであるかが明確になりました。

スウェーデンでは,ノーマライゼーションの理念に基づく社会サービス法(1982年)ができています。同法は1990年代のエーデル改革の根拠となったものです。

北欧生まれのノーマライゼーションは,北米にも広がっていきます。

アメリカのヴォルフェンスベルガーは,障害者の役割に着目して「ソーシャル・ロール・バロリゼーション」を提唱しました。

ノーマライゼーションは,生活をノーマル化するものですが,ソーシャル・ロール・バロリゼーションは一歩進めて,文化的・社会的役割のノーマル化を提唱したのです。

その後,国連では,1971年「知的障害者の権利宣言」,1975年「障害者の権利宣言」,1981年「国際障害者年」と続いていきます。

自立生活運動(IL運動)なども相まって,施設から地域へという流れが生まれていきました。

ノーマライゼーションの理念は,現在では様々に広がっていき,障害のあるなしにかかわらずすべての人が包み込まれて生活できる「ソーシャル・インクルーション」(社会的包摂)という理念も生まれています。

それでは,今日の問題です。


第26回・問題93 ノーマライゼーションの理念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 すべての人間とすべての国とが達成すべき共通の基準を宣言した世界人権宣言の理念として採用された。

2 1950年代のデンマークにおける精神障害者本人の会の活動を通して生み出された。

3 ニィリエ(Nirje,B)が唱えた原理には,ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験が含まれる。

4 バンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen,N.)らの働きにより,スウェーデンにおいて世界で初めて法律の基本的理念として位置づけられた。

5 全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領(1996年採択,2008年改定)において,倫理的原理の一つとして明記された。


勉強が足りない人は,まったく歯が立たない問題でしょう。
しかし勉強した人なら,それほど難しくはないはずです。

それでは解説です。


1 すべての人間とすべての国とが達成すべき共通の基準を宣言した世界人権宣言の理念として採用された。


これは間違いです。

勉強不足の人はこれを正解にしそうな選択肢です。

いかにもそれっぽいですね。

しかし,世界人権宣言は,第二次世界大戦後の1948年に国連で採択されたもので,バンク-ミケルセンの活動よりもずっと以前です。

世界人権宣言の内容を知らないと解けないと思うと間違えそうですが,世界人権宣言の中にノーマライゼーションが含まれるわけがないのです。


2 1950年代のデンマークにおける精神障害者本人の会の活動を通して生み出された。


これも間違いです。

しっかり勉強した人でも間違いそうです。

バンク-ミケルセンは,知的障害者の親の会と一緒に活動しました。

精神障害者が地域で生活するには,薬剤が今のように十分に開発されていなかったその当時では,時期が早いと言えるでしょう。

精神障害者に対しては,1963年のいわゆる「ケネディ教書」が知られます。

脱施設化が目指されましたが,ホームレスが増加するなどうまくすすめることができませんでした。


3 ニィリエ(Nirje,B)が唱えた原理には,ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験が含まれる。


これが正解です。

ニィリエが提唱した「ノーマライゼーションの8つの原理」の中には,ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験が含まれています。


4 バンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen,N.)らの働きにより,スウェーデンにおいて世界で初めて法律の基本的理念として位置づけられた。


これは間違いです。

ノーマライゼーションと言えば,スウェーデンというイメージが強いので,この選択肢が作られたと思われます。

しかし,世界で初めて法に明文化されたのは,デンマークの「1959年法」です。


5 全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領(1996年採択,2008年改定)において,倫理的原理の一つとして明記された。


これも間違いです。

世界人権宣言や全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領を含めて出題しているのがこの問題のいやらしいところです。

この問題では,選択肢3を正解にできないと,世界人権宣言や全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領を正解にしてしまいそうです。

しかし,全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領には,ノーマライゼーションは明記されていません。



<今日の一言>

社会福祉士の国家試験は,合格率30%という大変厳しい試験です

みんなが正解できるとボーダーラインを調整して,合格率30%程度にしてしまうという荒業も登場します。

しかし,受験生みんなが勉強して受験しているわけではありません。

勉強不足で受験している人は半分程度いると思われます。

そういう人が合格できてしまう試験ではだめなのです。

勉強した人は解ける
勉強が足りない人は解けない

という問題が資格試験には最も向きます。

その観点から言えば,今日の問題は,社会福祉士の国試には最も適したものの一つだと言えます。つまり,勉強が足りない人と差がつく問題なのです。

社会福祉士の国家試験は出題範囲は広いですが,詳しい知識は必要とされません。

そのような問題を出題すると,合格基準点が過去最低の72点となった「魔の第25回国試」のようなものになってしまいます。

合格基準点は,ある程度高いところにならないと,受験生に差がつきにくいので,勘の良い人が合格できてしまうということも発生してしまいます。

そんな試験であってはなりません。


<おまけ>

国試は,知識に裏付けられた推測力がものをいう場面は多く見られます。

たとえば,今日の問題で言えば,選択肢5です。

全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領(1996年採択,2008年改定)と書かれています。

1970~80年代ならノーマライゼーションの理念が明文化していても不思議ではありません。

しかし,1990年代ではインクルージョンという理念も登場する中,ノーマライゼーションを明文化することの必然性を見出すことができません。

こういったことを考え合わせると,選択肢5正解として選んでしまうミスは起きないでしょう。

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