システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。
それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。
システム理論は,多くの人が感じるように,冷たい響きがあります。
生活モデルは,クライエントの生活全体をとらえ,人と環境の交互作用に着目します。
生活モデルの対置概念は「治療モデル」です。
治療モデルの発祥は,リッチモンドです。
その後,診断主義派ケースワークに受け継がれていきます。
生活モデルのクライエントの生活に主眼を置いたものですが,治療モデルはクライエントの治療に主眼が置かれます。
様々なアプローチで改めて紹介しますが,ポストモダン系であるナラティブアプローチや解決志向アプローチは,治療は主眼点にはありません。
それでは,今日の問題です。
第25回・問題100 事例を読んで,C社会福祉士による生活モデルに基づいた対応に関する次の記述のうち,この段階で最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Dさん(59歳)は刑務所での生活が長かった。独身で身寄りはない。出所後のDさんの地域生活の支援は,相談支援事業所のC社会福祉士が担当している。療育手帳の発給を受けた後,Dさんは,現在,中学校時代の同級生が経営する会社で,廃品回収の職に就いている。社長は,Dさんのために,社長命令で若手社員をサポート役として付けた。しかし,Dさんは廃品回収の仕事をなかなか覚えることができず,知らない土地での寮暮らしのため精神的にも不安定になってしまった。DさんとC社会福祉士との信頼関係は構築されており,定期的な面接のなかではDさんからの不満も聞いている。そして,最近では,頑固なDさんとサポート役の若手社員との関係も悪くなってきており,社長自身も困惑している。
1 相手が年下の社員でも,敬語を使い低姿勢で接するようDさんに指導する。
2 Dさんが廃品回収業務で自立できるように,丁寧な技術指導を行う。
3 新人であるDさんのために,全入寮者による歓迎会開催を社長に提案する。
4 社長にDさんへの協力を再度求め,関係者による話合いへの同席を依頼する。
5 地元の自治会長にDさんを紹介して,地域活動への参加を勧める。
設問のテーマは「生活モデル」です。
生活モデルが,「人と環境の交互作用」に着目したものであることがわからなければ,答えはわからないと思います。
迷うところとすれば,選択肢3と5でしょうか。
しかし,もう一つのポイントは「この時点」です。
「生活モデル」に基づいたもので「この時点」で最も適切なのは,選択肢4です。
人と環境の交互作用に着目した生活モデルに基づいたものと言えます。
ほかの選択肢も解説します。
1 相手が年下の社員でも,敬語を使い低姿勢で接するようDさんに指導する。
Dさんにしかアプローチしていません。
Dさんの問題を変えるのは「治療モデル」だと言えます。
2 Dさんが廃品回収業務で自立できるように,丁寧な技術指導を行う。
Dさんにしかアプローチしていません。
技術指導も大切ですが,それでは「治療モデル」になります。
3 新人であるDさんのために,全入寮者による歓迎会開催を社長に提案する。
全入寮者という環境への働きかけがようやく出てきた選択肢です。
しかし,逆にDさんへのアプローチがありません。
5 地元の自治会長にDさんを紹介して,地域活動への参加を勧める。
これも自治会長という環境への働きかけがありますが,選択肢Dと同様にDさんへの働きかけがありません。
<今日の一言>
生活モデルに関する出題はたった一回しかありませんが,これからも出題される可能性は高いと言えます。
なぜなら「生活モデル」という言葉から,「人と環境」につながるのは,しっかり勉強した人だけです。
今日の問題に限らず事例では,「この時点」というポイントが重要です。
「次の時点」では適切かもしれませんが,「この時点」で最も適切なものを選択しなければなりません。
今日の問題では,選択肢3と5は,この時点でなければ正解になり得るものと言えます。
選択肢3は,Dさんが入職した時点。
選択肢5は,若手社員との関係がよくなって,仕事をうまく進めていくことができるようになった時点。
事例問題は,正解のほかに,正解になるものがあってはなりません。
そのためにある条件に当てはまるものを正解にするように道筋をつけていきます。
今日の問題は,選択肢1と2の作り方が下手なので,もしかするとそれほど迷わなくても済むかもしれません。
しかし,事例問題の中には,センスの良い問題もあり,受験生を迷わせるものも存在します。
そういった問題で,試験委員の仕掛けたトラップにはまることなく,正解するには「この時点」という視点で必要です。
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