2019年3月5日火曜日

質的調査における記録の方法と留意点~録音機材などの使用方法

質的調査は,面接やインタビューなどでデータを収集します。

面接やインタビューなどはフィールドワーク,フィールドワークの記録をフィールドノーツといいます。

現代では,録音や録画機材が手軽に活用できますが,そういったものがなかった時代の記録はとても大変だったことでしょう。

質的調査は文化人類学が起源です。

20世紀は,科学化の時代です。
エジソンによって発明された録音機は,文化人類学でも積極的に用いられました。

しかし,当時は倫理的配慮がなされるような時代ではありません。
人権を無視したような研究も行われました。

その反省もあり,現在の社会調査を含めた研究活動には,倫理的配慮が求められます。


それでは,今日の問題です。


第27回・問題90 質的調査における記録とデータに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 フィールドワークにおいてメモを取る際には,現場の人々の不信感,警戒感を引き起こさないような工夫が必要である。

2 メモを基に,フィールドノートに観察・考察したことを記載していく際には,出来事の時間的順序にこだわらず,思い浮かぶままに記載する。

3 インタビューにおいて対象者から録音を許可された場合には,録音された音声が正確な記録となるので,メモを取る必要はない。

4 質的調査の対象となる文書資料は,官公庁などの公的機関による記録のみであり,情報が正確である保証のない手紙や日記などの私的文書は含まれない。

5 アクションリサーチの過程では,主にフィールドノートの記録を用い,実験室における実験データや質問紙調査のデータは用いない。


文化人類学では,民族研究のために古老などにインタビューしたり,参与観察などを通して,その文化を研究しました。

電池で動かすことができる録音機材が登場した時,ビデオカメラが手軽に入手できるようになった時,最も喜んで,そして活用したのは,もしかすると文化人類学者だったかもしれません。


それでは解説です。


1 フィールドワークにおいてメモを取る際には,現場の人々の不信感,警戒感を引き起こさないような工夫が必要である。


これが正解です。

質的調査ではメモが重要です。

しかし社会調査で求められるのは,常に調査対象者への倫理的配慮です。
メモを取る理由は,調査対象者に事前に了解を求める必要があります。


2 メモを基に,フィールドノートに観察・考察したことを記載していく際には,出来事の時間的順序にこだわらず,思い浮かぶままに記載する。


これは間違いです。

面接やインタビューしたときのメモは早い段階で,記録化します。

なるべく早く行わないと忘れていってしまいます。
その際,出来事の時間的順序を追って記録化します。

忘れていってしまうので,思い浮かぶままに記録したくなる気持ちもわかりますが,時間的順序に沿って記録しないと,前後関係がわからなくなったり,意味がつかみにくくなったりすることもあるので注意が必要です。

また,発言の順番が意味を持つこともあります。


3 インタビューにおいて対象者から録音を許可された場合には,録音された音声が正確な記録となるので,メモを取る必要はない。


これも間違いです。

録音や録画機材を用いる場合は,事前に調査対象者に許可を求めなければなりません。
そして調査後に削除を求められた場合は。削除しなければなりません。

それはさておき,録音してもメモは必要です。

非構造化面接や半構造化面接では,調査対象者が発言した内容を確認したり,深める質問を追加することがあります。

そのような場合にメモが必要です。


4 質的調査の対象となる文書資料は,官公庁などの公的機関による記録のみであり,情報が正確である保証のない手紙や日記などの私的文書は含まれない。


これも間違いです。

公的文書,刊行物,そして私的文書などがドキュメント分析の対象となります。

前回,歌詞も研究対象になることを書いたように,ドキュメント分析の対象となるドキュメントは,目的に合わせて多岐にわたります。

手紙や日記は対象とならない,という出題は何度もされますが,実はとても重要な記録物です。

例えば,大量消費社会を研究するとき,私的文書の分析は非常に役立ちます。
昭和30年代に「三種の神器」,昭和40年代に「3C」が売れまくったことは,分かっています。

日記で,我が家にテレビがやってきたとき,冷蔵庫がやってきたときが記載されていたら,当時の人の思いが伝わってくることでしょう。

家計簿なども合わせてあれば,それも分析対象となります。今と違ってかつては,電化製品は,標準小売価格が設定されていました。それを実際にはどのくらいの金額で購入したのかが分かります。

こういったものは,公的文書では明らかにならないものです。


5 アクションリサーチの過程では,主にフィールドノートの記録を用い,実験室における実験データや質問紙調査のデータは用いない。


これも間違いです。

アクションリサーチの特徴は。調査の過程を通して,問題解決を図ることを重視することです。

ここが他の質的調査と異なる点と言えます。

研究手法として,PDCAサイクルが用いられますが,その過程で質的データだけではなく,量的データを用いることがあります。

プランの段階では,こんな運動をすると介護予防につながるといったデータを示すことも行われます。

実際の結果は,量的データにすると変化の推移が見えやすいですし,改善に向けた次の一手が見えやすくなります。

質問紙を使えば,住民の意識変化を把握することもできます。


<今日の一言>

質的調査に限らず,社会調査には,倫理的配慮が求められます。

「質的調査における記録の方法と留意点」では,そこに関連した出題が多くみられます。

しかし,フィールドノーツ,アクションリサーチなどの用語かしっかり理解できていれば,今日の問題のように,難易度はそれほど高くはないと言えます。

第31回では,「質的調査における記録の方法と留意点」が出題されたばかりなので,第32回には出題されないと予測されますが,倫理的配慮は,いつも底辺に流れています。

しっかり押さえておきましょう。

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