社会福祉士は,社会福祉士及び介護福祉士法に規定される国家資格です。
同法では以下のようなものが規定されています。
誠実義務
その担当する者が個人の尊厳を保持し,自立した日常生活を営むことができるよう,常にその者の立場に立って,誠実にその業務を行わなければならない。
信用失墜行為の禁止
信用を傷つけるような行為をしてはならない。
秘密保持義務
正当な理由がなく,その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。社会福祉士でなくなった後においても,同様とする。
連携
その業務を行うに当たっては,その担当する者に,福祉サービス及びこれに関連する保健医療サービスその他のサービスが総合的かつ適切に提供されるよう,地域に即した創意と工夫を行いつつ,福祉サービス関係者等との連携を保たなければならない。
資質向上の責務
社会福祉を取り巻く環境の変化による業務の内容の変化に適応するため,相談援助等に関する知識及び技能の向上に努めなければならない。
今日の問いである「社会福祉士の責務って何?」の答えは,
①誠実義務
②信用失墜行為の禁止
③秘密保持義務
④連携
⑤資質向上の責務
の5つです。
この後に,名称使用の制限が規定されています。
社会福祉士及び介護福祉士法に関する出題があるときは,必ずこれらを含めて出題されます。
これらの責務を果たさなかった場合に,社会福祉士及び介護福祉士法に罰則規定があるのは,秘密保持義務のみです。
秘密保持義務違反の場合の罰則
一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
信用失墜行為の禁止は,同法では罰則がありませんが,実際には名称剥奪等の処分がなされることもあります。しかし,社会福祉士及び介護福祉士法には,罰則は規定されていません。
それでは今日の問題です。
第29回・問題91 社会福祉士及び介護福祉士法に規定されている社会福祉士に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 社会福祉士の名称使用は,登録後でなければならない。
2 業務を行うに当たっては,クライエントの主治医の指導を受けなければならない。
3 専門性の維持・向上を目的として,資格更新研修を受けなければならない。
4 所属する勤務先の立場を優先して業務を行わなければならない。
5 資質向上の責務として,相談援助に関わる後継者の教育指導に努めなければならない。
前回紹介した問題と重なっている内容もありますね。
出題ポイントが決まっているのが分かるでしょう。
「相談援助の基盤と専門職」は,19科目ある科目の中では,中心をなすものです。
国試で出題される内容は,決して簡単ではありません。
しかし,社会福祉士を目指す者としては,この科目は本当に重要です。
ぜひ得意になってほしいと思います。
この科目で0点なんて取ることがあってはなりません。
それでは解説です。
1 社会福祉士の名称使用は,登録後でなければならない。
これが正解です。
社会福祉士は,試験に合格した後,社会福祉士登録簿に登録しなければなりません。
合格通知が届いた後,すぐ手続きすれば,4月初旬には社会福祉士登録証が届きます。
そうすると念願の「社会福祉士」の名前を使うことができます。
2 業務を行うに当たっては,クライエントの主治医の指導を受けなければならない。
これは間違いです。
これと似た規定は精神保健福祉士にはありますが,社会福祉士にはこのような規定はありません。
精神保健福祉士法では,
精神保健福祉士は,その業務を行うに当たって精神障害者に主治の医師があるときは,その指導を受けなければならない。
と規定されています。
社会福祉士は,その業務を行うに当たってクライエントに主治の医師があるときは,その指導を受けなければならない。
は間違いですが,
精神保健福祉士は,その業務を行うに当たって精神障害者に主治の医師があるときは,その指導を受けなければならない。
は正解となります。
実際には,今までこのような引っ掛けは一度も出題されたことはありませんが,出題基準には,「精神保健福祉士法」も含まれているので,注意が必要です。
3 専門性の維持・向上を目的として,資格更新研修を受けなければならない。
これも間違いです。
社会福祉士を始めとして,国家資格には更新制のあるものはありません。
更新制のあるのは,民間資格か,都道府県知事などから交付される「免許」です。
4 所属する勤務先の立場を優先して業務を行わなければならない。
これも間違いです。
誠実義務として,
その担当する者が個人の尊厳を保持し,自立した日常生活を営むことができるよう,常にその者の立場に立って,誠実にその業務を行わなければならない。
と規定されています。
常にクライエントの立場に立って,誠実に業務を行う義務があります。
勤務先の立場が優先されることはありません。
5 資質向上の責務として,相談援助に関わる後継者の教育指導に努めなければならない。
これも間違いです。
資質向上の責務として,
社会福祉を取り巻く環境の変化による業務の内容の変化に適応するため,相談援助等に関する知識及び技能の向上に努めなければならない
と規定されています。
後継者の教育指導に努める責務はあるかもしれませんが,それは法で定められているものではありません。
「法に規定される」という問題なのに,法に規定されないものを選んでは当然のごとく間違いとなります。
結構やりがちでから気をつけなければなりません。
<今日の一言>
先に述べたように,「相談援助の基盤と専門職」は,19科目の中心をなす科目です。
バートレットは,ソーシャルワーク実践の共通基盤として「価値」「知識」「技術(介入)」を示しました。
この科目は,まさにソーシャルワーカーとしての「価値」「知識」を学ぶものです。
難しいものもたくさんありますが,避けてはだめです。
一年後には,得意科目になることを期待しています。
そして,社会福祉士になったあともずっと追い求めていきましょう。
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