2021年1月30日土曜日

危機介入について

今回は,危機介入について学んでいきたいと思います。


その前に,知っておきたい火災事故があります。


1942年にボストンのナイトクラブで500名近い人が犠牲になった火災事故が起きました。

多くの患者が運び込まれたのは,マサチューセッツ総合病院です。

同院は,この時の経験により,やけど治療技術を進歩させることになりました。

同院には,精神科医としてリンデマンが勤務していました。リンデマンは犠牲者の家族や親類,友人などに対して調査を行い,悲嘆反応を研究しました。


その後,キャプランらの研究と相まって,危機理論が作り上げられていきます。

それをソーシャルワークに応用したものが危機介入アプローチです。


危機介入で最も重要なことは,クライエントの対処能力を高めることです。

簡潔に言えば,危機に陥っている人の混乱を治めるようにかかわっていきます。


危機には,ライフサイクル上のものと,天災や事故などによるものがあることも押さえておきたいです。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題100 危機介入に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 クライエントのパーソナリティの再構成を目的とする。

2 家族療法の影響を受けて体系化されている。

3 キャプラン(Caplan,G.)は,危機から回復する要因として対処機制を挙げた。

4 回復をもたらすために時間を掛けてなされる。

5 リンデマン(Lindemann,E.)による悲嘆に関する研究を起源とする。


人名を覚えるのが苦手な人にとっては,鬼門となるような問題かもしれません。


特に危機理論には,リンデマンとキャプランという名前が出てきますし,リンデマンに似た名前として,リンゲルマンという人さえいます。混乱するのでここでは述べません。


社会福祉士の国家試験では,多くの場合,人名がわからないと解けない問題は本当に少ないです。


重要なのは,人名ではなくその内容です。


さて,今日の問題の正解はすぐわかりますね。選択肢5です。


5 リンデマン(Lindemann,E.)による悲嘆に関する研究を起源とする。


もしもボストンのナイトクラブで火災が発生していなければ,リンデマンは悲嘆に目を向けることなく,危機介入は今とは違ったものとなっていたかもしれません。

歴史の不思議なめぐり合わせです。


それではほかの選択肢も確認します。


1 クライエントのパーソナリティの再構成を目的とする。


危機介入は,クライエントの対処能力を高めることを目的とします。

もしパーソナリティの変容が必要だとしたら,それは危機を乗り越えることができたずっと先のことでしょう。


2 家族療法の影響を受けて体系化されている。


危機介入が影響を受けているのは,危機理論です。

また,ライフサイクルの危機に関しては,エリクソンのライフサイクル理論(心理社会的発達理論)の影響もあります。


家族療法の影響を受けているのは,家族システムアプローチです。


3 キャプラン(Caplan,G.)は,危機から回復する要因として対処機制を挙げた。


これが最もくせ者の選択肢です。

なぜこんな意地悪をするのかなぁと思います。


対処機制とは,防衛機制の別の言い方です。防衛機制と出題しないのが実にいやらしいと思いませんか?


しかも,この正解は,「対処機制」ではなく「対処能力」です。

国試会場で,この違いに気がつく人はそれほど多くはないかもしれません。


しかし,先輩が苦しんだからこそ,今は注意すべきポイントが一つ増えています。


めったにこれだけいやらしいものがありませんが・・・。


4 回復をもたらすために時間を掛けてなされる。


危機介入は,できるだけ早期にかかわり,短期で終了します。

もし,それで効果が出なかった場合は,ほかのアプローチを考えなければなりません。


<今日の一言>


危機介入アプローチは,ほかのアプローチとは少し異なるかもしれません。


時には,クライエントが危機から脱するために,ワーカーが指示的にかかわることさえあります。それはクライエントが混乱しているためです。

時間をかけてゆっくりかかわっている場合ではありません。


できるだけ早期にかかわることが必要な理由の一つには,自殺の可能性がありません。

そのために,危機理論は,精神保健分野で発展していきました。

現在では。ソーシャルワークのみならず,看護学など広い分野で活用されています。

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