今回は,危機介入について学んでいきたいと思います。
その前に,知っておきたい火災事故があります。
1942年にボストンのナイトクラブで500名近い人が犠牲になった火災事故が起きました。
多くの患者が運び込まれたのは,マサチューセッツ総合病院です。
同院は,この時の経験により,やけど治療技術を進歩させることになりました。
同院には,精神科医としてリンデマンが勤務していました。リンデマンは犠牲者の家族や親類,友人などに対して調査を行い,悲嘆反応を研究しました。
その後,キャプランらの研究と相まって,危機理論が作り上げられていきます。
それをソーシャルワークに応用したものが危機介入アプローチです。
危機介入で最も重要なことは,クライエントの対処能力を高めることです。
簡潔に言えば,危機に陥っている人の混乱を治めるようにかかわっていきます。
危機には,ライフサイクル上のものと,天災や事故などによるものがあることも押さえておきたいです。
それでは,今日の問題です。
第28回・問題100 危機介入に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 クライエントのパーソナリティの再構成を目的とする。
2 家族療法の影響を受けて体系化されている。
3 キャプラン(Caplan,G.)は,危機から回復する要因として対処機制を挙げた。
4 回復をもたらすために時間を掛けてなされる。
5 リンデマン(Lindemann,E.)による悲嘆に関する研究を起源とする。
人名を覚えるのが苦手な人にとっては,鬼門となるような問題かもしれません。
特に危機理論には,リンデマンとキャプランという名前が出てきますし,リンデマンに似た名前として,リンゲルマンという人さえいます。混乱するのでここでは述べません。
社会福祉士の国家試験では,多くの場合,人名がわからないと解けない問題は本当に少ないです。
重要なのは,人名ではなくその内容です。
さて,今日の問題の正解はすぐわかりますね。選択肢5です。
5 リンデマン(Lindemann,E.)による悲嘆に関する研究を起源とする。
もしもボストンのナイトクラブで火災が発生していなければ,リンデマンは悲嘆に目を向けることなく,危機介入は今とは違ったものとなっていたかもしれません。
歴史の不思議なめぐり合わせです。
それではほかの選択肢も確認します。
1 クライエントのパーソナリティの再構成を目的とする。
危機介入は,クライエントの対処能力を高めることを目的とします。
もしパーソナリティの変容が必要だとしたら,それは危機を乗り越えることができたずっと先のことでしょう。
2 家族療法の影響を受けて体系化されている。
危機介入が影響を受けているのは,危機理論です。
また,ライフサイクルの危機に関しては,エリクソンのライフサイクル理論(心理社会的発達理論)の影響もあります。
家族療法の影響を受けているのは,家族システムアプローチです。
3 キャプラン(Caplan,G.)は,危機から回復する要因として対処機制を挙げた。
これが最もくせ者の選択肢です。
なぜこんな意地悪をするのかなぁと思います。
対処機制とは,防衛機制の別の言い方です。防衛機制と出題しないのが実にいやらしいと思いませんか?
しかも,この正解は,「対処機制」ではなく「対処能力」です。
国試会場で,この違いに気がつく人はそれほど多くはないかもしれません。
しかし,先輩が苦しんだからこそ,今は注意すべきポイントが一つ増えています。
めったにこれだけいやらしいものがありませんが・・・。
4 回復をもたらすために時間を掛けてなされる。
危機介入は,できるだけ早期にかかわり,短期で終了します。
もし,それで効果が出なかった場合は,ほかのアプローチを考えなければなりません。
<今日の一言>
危機介入アプローチは,ほかのアプローチとは少し異なるかもしれません。
時には,クライエントが危機から脱するために,ワーカーが指示的にかかわることさえあります。それはクライエントが混乱しているためです。
時間をかけてゆっくりかかわっている場合ではありません。
できるだけ早期にかかわることが必要な理由の一つには,自殺の可能性がありません。
そのために,危機理論は,精神保健分野で発展していきました。
現在では。ソーシャルワークのみならず,看護学など広い分野で活用されています。