この科目は,何度も繰り返して出題されるものは少ない中で,ウェーバーに関連する出題は突出しています。
今回はその中でも,支配システムを改めて押さえていきたいと思います。
旧カリ時代も含めた出題回数は,以下の通り
合法的支配 5回
伝統的支配 2回
カリスマ的支配 2回
現行カリキュラムに絞ると,
合法的支配は,第22回,第24回,第27回,第28回に出題されています。
出題確率は実に44.4%です。
これだけの出題確率であるのに,第28回以降出題されていないのは不気味な存在です。
ウェーバーによる支配システムをおさらいしましょう。
①伝統的支配
神聖なもの,慣習によるもの,などによるものです。日本では昔の天皇制,家父長制(親の言うことは絶対的)などが伝統的支配の類型になります。
②カリスマ的支配
特別な能力(カリスマ)を持った人による支配です。「ちょっと極端だけれど,この人の言うことなら従える」と思えるようなものです。戦国武将の織田信長や豊臣秀吉などがカリスマ的支配と言えるでしょう。
③合法的支配
規則(法)による支配です。近代民主国家は,合法的支配です。伝統的支配やカリスマ的支配と違い,規則により命令し,人々は規則によって従います。
ウェーバーの支配システムは,この3つですが,特に重要なのは,合法的支配です。それは官僚制につながるからです。
それでは今日の問題です。
第27回・問題16 法と社会,そこに成立する秩序との関係に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ホッブズ問題とは,人々の私的利益の追求こそが,万人の万人に対する闘争状態を克服することを明らかにした議論のことをいう。
2 合法的支配とは,形式的に正しい手続きを経て定められた法に基づいていることを理由に,人々がその支配を受け入れていることをいう。
3 抑圧的法とは,支配者が被支配者を抑圧し黙らせるための手段として用いられるが,支配者自身もその法の支配を受けなければならないものをいう。
4 応答的法とは,法が政治から分離され,社会のメンバーすべてが等しく従うべき普遍的なルールとして形式化され,体系化されたものをいう。
5 自律的法とは,普遍性を維持しつつも社会の要請に応えるために,より柔軟で可塑的な運用を可能にする新たな法のあり方のことをいう。
この問題は,第27回の国試の中では難解な問題の一つだったと思われます。
しかししっかり勉強した人は得点できたと思います。
勉強不足の人は,混乱したことでしょう。
国家試験とは,本来はそういうものです。
今日の問題を見て「あれっ?」と思った人もいるのではないでしょうか。
それは,「自律的法」というものです。
実は,第30回国試では,以下のように出題されています。
第30回・問題15
日本の裁判員制度に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 裁判員制度は,一般市民の側からの要求に基づいて導入された。
2 裁判員制度の導入により,刑期が軽い方向へシフトしている。
3 裁判員を経験した人へのアンケート調査の結果では,あまりよい経験でなかったと感じている人が多い。
4 裁判員制度は,司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することを趣旨としている。
5 裁判員制度は,近代の自律的法としての普遍性を高めることを目的としている。
選択肢5に出現しています。
これで自律的法が出題されたのは2回目です。2回出題されるものは3回目があります。
ほとんどのものは,2回目がない一見さんなのです。
因みにこの問題の正解は,選択肢4です。
さて,それでは今日の問題を解説していきましょう。
1 ホッブズ問題とは,人々の私的利益の追求こそが,万人の万人に対する闘争状態を克服することを明らかにした議論のことをいう。
ホッブズ問題が出題されたのは,第24回に続いてこの時が2回目です。2回目があることは3回目があるので,要注意です。
ホッブズ問題とは,簡単に言うと,一人ひとりが自分の利益を追求すると,「万人の万人に対する闘争」になるが,なぜ社会秩序は保たれるのかの命題です。よって間違いです。
実は,ホッブズ問題は,第24回に出題されています。この時は正解選択肢でした。
過去問を解いて勉強するとき,答えだけを覚える勉強法を行うと,ホッブズ問題=正解,とインプットされるので気を付けなければなりません。そのような勉強法をした人は,第27回のこの問題を見たとき,正解にしてしまう傾向があります。
最近少しずつ分かってきたのは,
受験生は「見たことがないものは選ばない」
という傾向があることです。
この傾向を逆手にとれば,頻出のものを間違い選択肢として出題すれば,間違う確率が高くなることです。
しかも多くの受験生は,過去3回の過去問を使って勉強しているので,過去3回に出題されたもののうち,正解として出題されたものを間違い選択肢にすれば,勉強が足りない人は間違う率が高くなります。
しっかり勉強した人は,消去できます。
こんなところで合格基準点を超える得点が取れるようになっていきます。
2 合法的支配とは,形式的に正しい手続きを経て定められた法に基づいていることを理由に,人々がその支配を受け入れていることをいう。
前説に書いたので,これが正解だとすぐ分かったことでしょう。
結局は。合法的支配が正解となった問題です。
3 抑圧的法とは,支配者が被支配者を抑圧し黙らせるための手段として用いられるが,支配者自身もその法の支配を受けなければならないものをいう。
ここからが難しくなっていきます。
抑圧的法は,支配者が政治力(つまり権力=フォース)で被支配者を服従させるための法です。その中には理不尽なものもあるでしょう。そんなものに自分自身が従うわけはありません。よって間違いです。
4 応答的法とは,法が政治から分離され,社会のメンバーすべてが等しく従うべき普遍的なルールとして形式化され,体系化されたものをいう。
応答的法が最も理解しにくいものかもしれません。
そのために自律的法を先に解説します。
自律的法は,近代社会における法です。抑圧的法とは違い,政治力(権力)から離れて,誰もが納得できる普遍性がある法です。
それに対して応答的法は,自律的法のスピリットは残しつつ,政治力をプラスしたものです。
解説本にはこう書いてあるものが多いかもしれません。
これじゃあ,意味が分からないでしょう。
応答的の「応答」は,応える(答える)という意味ですね。
何に応えるのかと言えば,特定のニーズです。
この科目よりももしかすると,「現代社会と福祉」での出題の方が適切かもしれません。
というのは,普遍主義,選別主義につながるからです。
普遍主義 → 自律的法的
選別主義 → 応答的法的
ととらえると分かりやすいように思います。
選別主義は,スティグマを与えるものだというマイナスのイメージがあるかもしれません。しかし特定のニーズを充足するためには必要なものだと思います。
イギリスの福祉の歴史を振り返るとスティグマとの闘いだと言えるでしょう。これについてはまた別の機会に解説したいと思います。
さて,問題に戻ります。
応答的法とは,法が政治から分離され,社会のメンバーすべてが等しく従うべき普遍的なルールとして形式化され,体系化されたものをいう。
応答的法ではなく,普遍的なルールを体系化したものは自律的法です。よって間違いです。
5 自律的法とは,普遍性を維持しつつも社会の要請に応えるために,より柔軟で可塑的な運用を可能にする新たな法のあり方のことをいう。
「可塑的」は,形を変えることができるという意味です。
これが応答的法です。
よって間違いです。
先ほど提示した
裁判員制度は,近代の自律的法としての普遍性を高めることを目的としている。
これが分からなくてもこの問題の答えは出せたかもしれません。
一応解説すると,裁判員制度と自律的法は相容れる性格のものではありません。
裁判員制度 → 裁判の素人が裁判するので,過去の判例とは違った量刑の求刑につながる。
自律的法 → 誰もが納得するのは,過去の判例を参考にした量刑。
応答的法は難しいかもしれませんが,今後の福祉を考えるととても重要な意味合いがあるように思います。