2018年4月29日日曜日

国試に合格する勉強法~ニーズのとらえ方③

「現代社会と福祉」の中心テーマは,福祉政策です。

・社会ではどんな福祉ニーズが発生しているのか。
・どのように福祉ニーズを充足するか。

この2つに集約されることは前回紹介したとおりです。

少しイメージすることができたでしょうか。

福祉政策は,歴史的に見ると,古典的な自由主義による経済システムの欠陥で生じた貧困問題が出発点です。

そのため,所得保障が中心になります。

しかし,社会問題は,時代とともに変化し,抱える課題は多様化していきます。

この科目が難しくなる理由はいろいろありますが,他の科目が現行の法制度を押さえていくものであるのに対し,「現代社会と福祉」は,法制度はどのように作られていくのかを押さえなければならないからでしょう。


前回は,ソーシャルワークと福祉政策を重ねてみました。

ソーシャルワークでは,ニーズ把握には高度なスキルが伴うことはよくご存じでしょう。

福祉政策も同じく,高度なニーズ判定が必要です。

また,福祉政策にはもう一つの側面があります。

それは限りある財源をどのように配分するか,といった側面です。

この2つを意識しながら,中級編の問題を紹介します。


第22回・問題26 

福祉政策における需要とニーズ(必要)の概念に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 ニーズ(必要)に応じた分配とは,人々の出身,能力,貢献などとは無関係に,各人が必要とする資源を分配することを意味する。

2 福祉サービスの需要のうち,その存在が気付かれていないものを無効需要ないし潜在需要といい,気付かれているものを有効需要という。

3 必要即応の原則とは,福祉サービスは,年齢や性別など個人や世帯の相違を考慮して有効かつ適切に提供すべきことを意味し,社会福祉法で定められている。

4 福祉サービスに対する行政需要とは,国民の政府に対する要求や要望のうち,市場を通じて供給することが特に可能な消費者の需要のことである。

5 ブラッドショー(Bradsbaw,J.)のいう「エクスプレスト・ニード」とは,専門家が自らの経験に基づいて感じとったニーズ(必要)のことを意味する。


需要という用語がずらりと並んでいます。

それだけで難しいと感じてしまうかもしれません。

需要とセットになる用語は,供給です。

アダムスは「神の見えざる手」と表現し,経済は需要と供給の関係で動いていることを説明しました。

この思想が古典的な自由主義を支えることになりますが,先述のように,さまざまな問題が生じました。

この辺りのことは,次回の上級編で詳しく紹介したいと思います。

さて,需要と供給です。

需要は,福祉ニーズととらえて良いと思います。

ソーシャルワークの中では,デマンド(要望)とニーズ(必要)は明確に区別されます。

デマンドは,クライエント,あるいは家族からの要望です。ニーズは,古くは「要援護性」の意味合いで使用されたこともありますが,分かりやすく言えば「必要とされるもの」を指しています。

そのため,ニーズと簡単に表現せず,ニーズ(必要)とわざわざ表現しているのです。

実生活でも,他の人から見てこの人は〇〇が足りない,と思っても本人はそのことに気が付かないでいることが多いものです。

それでは解説です。


1 ニーズ(必要)に応じた分配とは,人々の出身,能力,貢献などとは無関係に,各人が必要とする資源を分配することを意味する。

分配には,ニーズ原則(必要原則)と貢献原則があります。

ニーズ原則は,ニーズがある場合に配分します。社会福祉制度,公的扶助制度がこれに該当します。

貢献原則は,貢献度合いに合わせて配分します。社会保険制度がこれに該当します。

正解です。

日本の制度では,厚生年金制度をイメージするとわかりやすいかもしれません。


2 福祉サービスの需要のうち,その存在が気付かれていないものを無効需要ないし潜在需要といい,気付かれているものを有効需要という。

潜在需要は,正しいですが,有効需要は実際にアクセスできるものです。
よって間違いです。


3 必要即応の原則とは,福祉サービスは,年齢や性別など個人や世帯の相違を考慮して有効かつ適切に提供すべきことを意味し,社会福祉法で定められている。

必要即応の原則は,生活保護の原則です。内容は正しいですが,定められているのは,社会福祉法です。よって間違いです。


4 福祉サービスに対する行政需要とは,国民の政府に対する要求や要望のうち,市場を通じて供給することが特に可能な消費者の需要のことである。

行政需要は,行政への要望です。市場を通じて供給することが特に可能な消費者の需要に限定されるものではありません。よって間違いです。


5 ブラッドショー(Bradsbaw,J.)のいう「エクスプレスト・ニード」とは,専門家が自らの経験に基づいて感じとったニーズ(必要)のことを意味する。

ブラッドショーは,ニーズを4つに分類しています。

分類
英語表記
内容
視点
感得されたニード
フェルト・ニード
本人がニーズがあることに気がついているニーズ
本人
表出されたニード
エクスプレスト・ニード
本人がニーズ充足のために実際に行動を起こしたニーズ
規範的ニード
ノーマティブ・ニード
行政や専門職が望ましくない状態だと判断するニーズ
他者
比較ニード
コンパラティブ・ニード
同じような状況に置かれながらも,サービス利用している人とサービス利用していない人がいる場合,サービス利用していない場合のニーズ


本人からの視点は,感得されたニード(フェルト・ニード)と表出されたニード(エクスプレスト・ニード)です。

第三者によってニーズがあると把握されるものは,規範的ニード(ノーマティブ・ニード)と比較ニード(コンパラティブ・ニード)です。

問題では,エクスプレスト・ニードは本人からの視点であるにもかかわらず,「専門職が~」となっているので間違いです。

次回は,ニーズシリーズの上級編です。

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