前回まで4回にわたって,ニーズのとらえ方を解説してきました。
固定的なニーズは,窮乏(貧困)です。
そのため,窮乏をどのようにとらえたらよいのか,多くの人が試みてきました。
今回は,人はニーズをどのようにとらえてきたのかを切り口として解説していきたいと思います。
第27回・問題22 貧困及びニードのとらえ方に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 タウンゼント(Townsend,P)は貧困者には共通した「貧困の文化(culture of poverty)」があることを明らかにした。
2 リスター(Lister,R)は,「ノーマティブ・ニード」に加えて,「フェルト・ニード」を提案した。
3 ルイス(Lewis,O.)は,「相対的剥奪」の概念を精緻化することで,相対的貧困を論じた。
4 ブラッドショー(Bradshaw,J)は,絶対的貧困・相対的貧困の二分法による論争に終止符を打つことを目指した。
5 スピッカー(Spicker,P)は,「貧困」の多様な意味を,「物質的状態」,「経済的境遇」及び「社会的地位」の三つの群に整理した。
この問題は,
国試における「貧困」の出現数の年次推移~社会福祉士国試は時代を映す鏡です!!
http://fukufuku21.blogspot.jp/2018/02/blog-post_22.html
で紹介したので,覚えている方もいるいるでしょう。
それでは解説です。
1 タウンゼント(Townsend,P)は貧困者には共通した「貧困の文化(culture of poverty)」があることを明らかにした。
19世紀後半から20世紀の前半,イギリスではブース,ラウントリーによって貧困調査が行われました。
特徴は,生きるためのぎりぎりラインである貧困線を定めたことです。
それ以下の生活を送る人の貧困状態をあぶり出しました。これを絶対的貧困と言います。
それに対して,タウンゼントは,周囲の人が普通に行っていることができないことを相対的剥奪と呼び,その状態を相対的貧困だと定義づけました。
相対的貧困は,時代や社会によって変化していくことが特徴です。
ルイスという人は,5つのメキシコ人の家族を分析して,貧困者には,共通の「貧困の文化」があると考えました。
貧困の文化とは,貧困者は貧困状態を受け入れて,そこから抜け出そうとしない文化があり,その文化は親から子に受け継がれるというものです。
しかし,たった5つの家族の共通点を調べただけでは,それを普遍化する考察は深まらないでしょう。
2 リスター(Lister,R)は,「ノーマティブ・ニード」に加えて,「フェルト・ニード」を提案した。
リスターは,スピッカーとセットで覚えたいです。5でまとめて紹介します。
「ノーマティブ・ニード」「フェルト・ニード」は,ブラッドショーのニーズの分類です。
これは絶対に覚えておきたいです。
3 ルイス(Lewis,O.)は,「相対的剥奪」の概念を精緻化することで,相対的貧困を論じた。
相対的貧困を論じたのは,先述のようにタウンゼントです。
絶対的貧困と相対的貧困の違いをしっかり押さえておきたいです。
4 ブラッドショー(Bradshaw,J)は,絶対的貧困・相対的貧困の二分法による論争に終止符を打つことを目指した。
ブラッドショーは,先述のように,ニードを分類した人です。
絶対的貧困・相対的貧困の二分法による論争に終止符を打つことを目指したのかどうかは分かりませんが,絶対的貧困,相対的貧困とは違った貧困をとらえた新しい流れを作ったのは,アマルティ・センです。
センは,福祉的自由を行使できる機能の集合体である潜在能力(ケイパビリティ)に着目しました。潜在能力が欠如している状態を貧困だととらえたことに特徴があります。
このように貧困をとらえる方法をケイパビリティ・アプローチと言います。
貧困のとらえ方の流れは,
古典的な貧困である「絶対的貧困」,周囲と比べる「相対的貧困」,潜在能力に着目した「ケイパビリティ・アプローチ」
しっかり覚えておきたいです。
5 スピッカー(Spicker,P)は,「貧困」の多様な意味を,「物質的状態」,「経済的境遇」及び「社会的地位」の三つの群に整理した。
最後は,リスターとスピッカーです。
まずは,スピッカーです。貧困の「貧困の家族的類似」を提唱しました。
貧困に関する概念を分析すると,
「物質的状態」「社会的地位」「経済的境遇」に分類できて,共通するものとして「容認できない困難」があると述べました。
よって正解です。
リスターは,スピッカーの考え方を車輪に置き換えた「車輪モデル」を提唱しました。
車輪は丸いです。
車輪の中心部(ハブ部)に「物質的欠乏」を配置して,車輪部分に「非物質的欠乏」を配置して,その関係性を説明しました。
(2018/11/16追記)
リスターとスピッカーの貧困論を重ねてみます。
中心にあるのは,「容認できない困難」(スピッカー),「物質的欠乏」(リスター)。
周りにあるのは,「物質的状態・社会的地位・経済的境遇」(スピッカー),「非物質的欠乏」(リスター)
つまり,スピッカーのいう「容認できない困難」とは,物質的欠乏のことを言っているのだと思います。古典的な貧困です。
古い言葉で表現すると「絶対的貧困」でしょう。
そして,「物質的状態・社会的地位・経済的境遇」は,非物質的な欠乏のことと重なるでしょう。これらは新しい貧困と言えます。
スピッカーは物質も含めていますが,リスターが示した車輪部分は,絶対的貧困でもなく,相対的貧困でもない,新しい貧困です。
サスペンスドラマでは,周りの人が理解できない殺人事件の原因になりそうなテーマなのではないでしょうか。
これらを出題した理由は,複合的な福祉ニーズを理解するためのものと言えるでしょう。
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