変わったものは出題されるよ
という人がいますが,多くの人が思っているほど,最新のものは出題されていません。
法制度の科目の多くは,7問の科目なので,重要なものを出題すると,最新のものを出題するほどの余裕がないのかもしれません。
理論系の科目を苦手にしている人は多いです。
しかし,国家試験で出題されるのは,説が定まったものです。
そのため,出題ポイントはどうしても同じようなものになります。
「他人と過去は変えられない」とよく言われます。
過去が変わったらびっくりします。
しかし,新しい研究によって,今まで定説だと思われていたものが変わることがあります。
それが,前回の問題で取り上げた
第27回・問題33・選択肢2
2 ロンドンで設立された慈善組織協会(1869年)は,慈善活動を組織化するとともに友愛訪問を実施し,ソーシャルワークの形成に大きな影響を与えた。
です。これは現在のところ,正解だとされているものです。
日本社会福祉学会第62回秋季大会で富樫八郎先生が,
ロンドンC.O.S「友愛訪問員」及び病院「アルモナー」記述に関する検討
という興味深い研究を発表しています。
富樫先生の研究によると,イギリスのCOSでは,友愛訪問(Friendly Visiting)という用語は使われていなかったいうものです。
イギリスのCOSの代表的な人物だったロックは,COSの訪問ボランティアを「アルモナー」と呼んでいたという記述をしている著書を残しています。
これによると,イギリスのCOSでは,友愛訪問を「地区訪問(District Visiting)」と呼んでいたとされます。
多くの教科書類は,イギリスのCOSでは友愛訪問が行われたと記述されていますが,それは間違いで,友愛訪問という用語が使われたのは,アメリカのCOSだったようなのです。
さて,もう一つ興味深いことがあります。
ホーザンキッドという人が1914年の著書で,COSのアルモナーを外来に配置することを提案したことを記述しています。
多くの教科書類では,医療ソーシャルワーカーの源流は,イギリスのロイヤル・フリー・ホスピタルに新しい職種としてアルモナーが配置されたことだとされています。
最初に配置されたのは,スチュアートという女性ですが,彼女はCOSでアルモナーを務めていることが分かっています。
MSWの源流であるアルモナー制度は,新しくできたものではなく,イギリスCOSのアルモナーを病院に配置したもののようです。
富樫先生の研究によると,イギリスCOSの訪問ボランティアは「アルモナー」と呼ばれ,行っていた活動は「地区訪問」であること,病院のアルモナー制度(現在のMSW)は,新しく作られたものではなく,COSのアルモナーを病院に配置した,ということになります。
おそらく,これから出版される本は,このように変わっていくはずです。
そうすると,
ロンドンで設立された慈善組織協会(1869年)は,慈善活動を組織化するとともに友愛訪問を実施し,ソーシャルワークの形成に大きな影響を与えた。
は,現在のところでは正解となっていますが,やがて「友愛訪問」ではなく「地区訪問」と覚えていくことが必要になる時代がやってくることでしょう。
〈今日のまとめ〉
過去は変わりませんが,新しい発見によって,歴史は変わっていきます。
だからこそ・・・
定まった説があるものしか出題されません。
出題ポイントも決まってくるのです。
つまり・・・
歴史や理論は,繰り返し同じように出題されることになります。
歴史が苦手な人は多いですが,それを乗り越えたら得点しやすい領域になることは間違いないです。