福祉政策で言えば,利用過程は出口の部分に当たります。入口にはニーズですね。
それでは,早速今日の問題です。
第22回・問題31 福祉制度の利用に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 T.H.マーシャル(Marshall,T.H.)はシティズンシップの三要素のうち,「社会の標準的な水準に照らして文明市民としての生活を送る権利」を含む諸権利を市民的権利と呼んだ。
2 真に福祉サービスを必要としている人々を選別する仕組みを導入することによって,福祉制度の利用に伴うスティグマ付与の要因を排除することができる。
3 医療や福祉サービスのような専門的サービスで生じやすい情報の非対称性を是正するためには,利用者に関する個人情報をサービス提供者に開示し,エンパワメントする必要がある。
4 日本では1990年の社会福祉事業法等の改正により行われた社会福祉基礎構造改革に基づき,福祉サービスの利用関係が契約による利用制度から行政が関与する支援費制度に変更された。
5 社会福祉法では社会福祉事業の経営者に対して,自らその提供する福祉サービスの質を評価することなどによって,良質で適切な福祉サービスを提供するよう努めるべきことを定めている。
この科目が嫌いになる理由がよく分かるような問題ですね。
しかし,今まで紹介してきたものも少しずつ重なって出題されているので,分かる選択肢もあるでしょう。
それでは,詳しく解説していきます。
1 T.H.マーシャル(Marshall,T.H.)はシティズンシップの三要素のうち,「社会の標準的な水準に照らして文明市民としての生活を送る権利」を含む諸権利を市民的権利と呼んだ。
この国試を受験した人は,まずマーシャルという名前で,びっくりしたことでしょう。それまでシティズンシップ(市民権)について出題されたことがありませんでした。
シティズンシップ(市民権)は,別の言い方をすると基本的人権とも言えるものです。
日本国憲法が定める基本的人権を古典的に分類すると
自由権
社会権
参政権
国務追求権
となります。
古典的というのは,かつてはこのように分類することが多かったのですが,近年はさまざまな分類が出てきているようです。詳しくはよく分かりません。
さて,マーシャルは,シティズンシップを3つに分類しました。
市民的権利
社会的権利
政治的権利
です。
自由権は,市民的権利
社会権は,社会的権利
政治的権利は,参政権・国試追求権に相当します。
「社会の標準的な水準に照らして文明市民としての生活を送る権利」は,分かりにくい表現になっていますが,生存権などの社会的権利です。
自由権を市民的権利と表現しているのは,自由権は,市民革命などによって市民が手にした権利だからです。国家から干渉されない権利です。
それに比べると社会的権利は,国家によって積極的に保障されなければなりません。
2 真に福祉サービスを必要としている人々を選別する仕組みを導入することによって,福祉制度の利用に伴うスティグマ付与の要因を排除することができる。
普遍主義,選別主義がまた出て来ました。スティグマを感じさせないのは,普遍主義です。
3 医療や福祉サービスのような専門的サービスで生じやすい情報の非対称性を是正するためには,利用者に関する個人情報をサービス提供者に開示し,エンパワメントする必要がある。
情報の非対称性と,サービス提供者と利用者の情報量の差を言います。持っている情報が少ないのは利用者です。利用者に対して多くの情報が開示されなければなりません。
4 日本では1990年の社会福祉事業法等の改正により行われた社会福祉基礎構造改革に基づき,福祉サービスの利用関係が契約による利用制度から行政が関与する支援費制度に変更された。
2000年に変更されたのは,従来の措置制度から契約制度です。
支援費制度は,障害福祉サービスの契約制度で,2003~2005年までの3年間に実施された制度です。支援費制度で注意なのは,精神障害者は対象外だったことです。精神障害者が含まれるようになったのは,2006年の障害者自立支援法からです。
5 社会福祉法では社会福祉事業の経営者に対して,自らその提供する福祉サービスの質を評価することなどによって,良質で適切な福祉サービスを提供するよう努めるべきことを定めている。
社会福祉法第78条では「第七十八条 社会福祉事業の経営者は、自らその提供する福祉サービスの質の評価を行うことその他の措置を講ずることにより、常に福祉サービスを受ける者の立場に立つて良質かつ適切な福祉サービスを提供するよう努めなければならない。」と定めています。よって正解です。