2018年5月10日木曜日

第31回国試に合格する勉強法~福祉の歴史編~その5

「歴史が苦手」という方が多くいらっしゃいます。

歴史が苦手という方は,学校時代には日本史や世界史が苦手だったのではないでしょうか。

確かに歴史の勉強は,想像もできない昔の出来事を「何年に何があった」と無味乾燥に感じるような勉強だったのでしょう。しかし,福祉の歴史は1601年のエリザベス救貧法から始まって,1834年の改正救貧法。1909年の救貧法改正に関する王立委員会報告。1942年のベヴァリッジ報告。ものすごく範囲が狭いです。そして出てくる項目はとても限られ,しかも頻出です。

日本では,1874年の恤救規則に始まって,1929年の救護法,1946年の旧生活保護法,1950年の現行生活保護法。そして現在につながる戦後施策です。

しかもこれらは,現代社会,地域福祉,低所得者と数科目にわたって出題される超頻出事項です。社会理論のように,3回以上出題されている項目がものすごく少ない科目とは違って,歴史は範囲が狭い中で出題されるので覚えることができたら得点源にすぐできるものです。

ここでは,一応「〇〇年」を記載しましたが,年号が分からないければ解けない問題はほとんどありません。

そんなことで,今日も歴史を学んでいきます。

第25回・問題24 福祉社会の歴史に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 スウェーデンでは,1960年代初頭に福祉サービスを体系化した社会サービス法が制定され,それに基づき高齢者福祉や児童福祉のサービスが急速に発展した。 
2 日本では,1960年代のいわゆる国民皆年金の成立を踏まえて,それを補完する形で企業による退職一時金制度の整備が行われ始めた。
3 アメリカでは,1960年代に,貧困層への対策として,食糧補助のためのフード・スタンプ制度や就学前教育としてのヘッド・スタート計画などが導入された。 
4 イギリスでは,1970年代まで母子世帯の母親は自らが稼ぎ手役割を果たすことが自立であるとする政策理念のもとに,就労促進策力が展開された。 
5 ドイツでは,1980年代の失業長期化への対応として,失業保険での失業手当の請求権を有しない者に対してミーンズ・テスト付きでの給付を行う失業扶助制度が導入された。 

歴史問題の中でも,この問題は最も難しい問題でしょう。
なぜなら,先述のような内容のものではないからです。

この時点では解けても解けなくても良かった問題だと思いますが,一度出題されると再び出題されることもあるので,一応見ていきたいと思います。


1 スウェーデンでは,1960年代初頭に福祉サービスを体系化した社会サービス法が制定され,それに基づき高齢者福祉や児童福祉のサービスが急速に発展した。

スウェーデンは,高福祉の国ということはよく知られていますが,その内容はあまり知られていないのではないでしょうか。

まず社会サービス法が知られていないと思います。しかし,先日も紹介したように,1930年代からスウェーデンは福祉国家を形作って発展してきています。

そこに気がつけば,社会サービス法が分からなくても,1960年代に急速に発展したということはなさそうだと見当がつけられそうです。

スウェーデンの社会サービス法は,それまであった法制度を統合する形で1980年に制定されたものです。

よって間違いです。
 

2 日本では,1960年代のいわゆる国民皆年金の成立を踏まえて,それを補完する形で企業による退職一時金制度の整備が行われ始めた。

日本の国民皆保険・皆年金は1960年代に成立したのは正しいです。しかし,退職一時金制度(いわゆる退職金)は,戦前から始まっています。


3 アメリカでは,1960年代に,貧困層への対策として,食糧補助のためのフード・スタンプ制度や就学前教育としてのヘッド・スタート計画などが導入された。

アメリカは,1935年に世界で初めて社会保障という名称をつけた法律をつけたことで知られます。

そのアメリカの転換点になったのは,1950年代から明らかになっていく社会問題です。
アメリカは,第二次世界大戦後大きく発展し「豊かなアメリカ」となりますが,その一方で,移民問題,それに関連する貧困問題が進行していきます。

1960年代には,暗殺されたケネディ大統領の次の大統領となったジョンソンが「貧困戦争」と名付けて,それに対抗する施策を打ち出していきます。

それが,フード・スタンプ制度やヘッド・スタート制度です。よって正解です。

同時期に導入されたものには,このほかにも,メディケア,メディケイドがあります。


4 イギリスでは,1970年代まで母子世帯の母親は自らが稼ぎ手役割を果たすことが自立であるとする政策理念のもとに,就労促進策力が展開された。

難しい問題のオンパレードです。

イギリスの母子世帯に対する施策がどうだったのか,これを知って受験に臨んだ人は少なかったことでしょう。

しかし,ヒントはあります。イギリスは1979年に首相になったサッチャーは,手厚い福祉が依存性を高め,それが国を疲弊させていると考えて,さまざまな改革を実施していきます。

1970年代はサッチャーが登場する前です。ということは,手厚い福祉が実施されていた時代です。母子世帯に対する施策も手厚いものであっただろうと想像できます。この当時は,まだ就労よりも福祉が中心の施策です。よって間違いです。

「福祉から就労へ」の施策を掲げたのは,1990年代のブレア首相です。

5 ドイツでは,1980年代の失業長期化への対応として,失業保険での失業手当の請求権を有しない者に対してミーンズ・テスト付きでの給付を行う失業扶助制度が導入された。


世界は,1970年代に二度の石油危機を経験し,経済が疲弊していきます。日本も大きな打撃を受けましたが,比較的早くに持ち直し,1980年代後半には,バブル景気を迎えます。

しかし,1980年代の欧米各国は,不況にあえいでいました。

ドイツ(当時は西ドイツ)も同様です。

1970年代には,失業扶助制度を導入しましたが,1980年代には失業者が増えたことで,就労支援策に転換していきます。


<今日の一言>

福祉国家は,資本主義で得られた利益を福祉の財源にして成り立っています。

今日の問題で見た通り,経済と福祉は関連しているがよく分かると思います。

知らない問題が出題されても,今までの人生の中で見聞きして知っている知識を総動員することで見えてくることもあります。

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