社会民主主義レジーム → スウェーデン,デンマークなど
保守主義レジーム → フランス,ドイツなど
自由主義レジーム → イギリス,アメリカなど
それぞれは,それぞれの発展の中で制度を作り上げてきたものであり,どれが劣っていて,どれが優れた福祉レジーム(体制)だということではありません。
どのように発展してきたことを知ることは,過去を学ぶのではなく,現在の福祉レジームを理解するうえで重要です。歴史を過去のものとしかとらえられないとすると,福祉政策の理解は薄っぺらいものになってしまうことでしょう。
さて,それでは今日の問題です。
第24回・問題24 福祉レジームの生成に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 アメリカにおいては,「生活上のリスクの処理は市場に委ねる」という考え方が根強く,公的老齢年金制度も第二次世界大戦後になって法制化された。
2 イギリスにおいては,労働者の健康を保全するため,19世紀の前半に工場法によって成人男性の労働時間の上限が定められることになったが,年少者や女性の労働時間は規制の対象にはならなかった。
3 スウェーデンやデンマークでは,労働組合の発達の遅れという歴史的事情があり,その結果として中央政府が個人の生活支援のために積極的に介入する福祉レジームが生まれることになった。
4 我が国では,日清戦争後に官民の大企業を中心として,共済組合ないし経営側自らの手によって生活上の事故に対する扶助の実施,あるいは日用品の供給施設を設置するものが現れた。
5 フランスの家族手当制度は,1930年代に個々の先進企業での企業内措置として発達し,第二次世界大戦後に法制化され社会保障体系に組み入れられた。
今日の問題では,前回にはなかったフランスが加わっています。
それでは,解説していきます。
1 アメリカにおいては,「生活上のリスクの処理は市場に委ねる」という考え方が根強く,公的老齢年金制度も第二次世界大戦後になって法制化された。
アメリカは,自由主義レジームの国です。福祉サービスの供給は市場が担い,それでニーズを充足できない場合,公的に供給します。
アメリカは,1929年に始まった世界大恐慌に対応するために,完全雇用を目指したニューディール政策を実施しました。昔学校でも習ったことがあるでしょう。
それでも救済できなかった者に対して,1935年の社会保障法を成立させています。連邦政府が老齢保険(OASDI),州政府が失業保険と公的扶助を運営しました。第二次世界大戦が終わったのは,1945年です。つまり,老齢保険は第二次世界大戦の前には法制化されています。よって間違いです。
2 イギリスにおいては,労働者の健康を保全するため,19世紀の前半に工場法によって成人男性の労働時間の上限が定められることになったが,年少者や女性の労働時間は規制の対象にはならなかった。
前回は,日本の工場法が出てきましたが,今回はイギリスの工場法(1833年)です。
規制の対象は,最初は児童,次は女性,そして成人男性と広げていきました。
よって間違いです。
3 スウェーデンやデンマークでは,労働組合の発達の遅れという歴史的事情があり,その結果として中央政府が個人の生活支援のために積極的に介入する福祉レジームが生まれることになった。
スウェーデンやデンマークは,社会民主主義レジームに分類されます。
前回は,スウェーデンが出題されました。自由民主党という政党が存在していたかどうかは分かりませんが,福祉国家を発展させたのは,社会民主党です。政党名は,政党のイデオロギーを示すので,支持母体は労働者団体であることが想像できます。
つまり早い段階から労働組合が発達したことが分かります。よって間違いです。
4 我が国では,日清戦争後に官民の大企業を中心として,共済組合ないし経営側自らの手によって生活上の事故に対する扶助の実施,あるいは日用品の供給施設を設置するものが現れた。
日清戦争は,日本の産業革命が進んだ中で起きました。戦争に勝利したことで,日本は多額の賠償金を受け取ることができて,祝賀ムードとともに好景気になりました。
その中で発生したのは,労働者の貧困問題です。それに対応するために,さまざまな対策を行う大企業が現れてくるようになります。よって正解です。
その後の日露戦争では,賠償金はなかったために,日本は不況になります。そこで国は,感化救済事業を実施して,防貧対策を図っていきました。
5 フランスの家族手当制度は,1930年代に個々の先進企業での企業内措置として発達し,第二次世界大戦後に法制化され社会保障体系に組み入れられた。
フランスは,実は社会支出は社会民主主義レジームの国々よりも多く,実は高福祉を実施しています。
特徴は,家庭福祉に大きく支出していることです。
家族手当の歴史はとても古く,1932年に法制化されています。よって間違いです。
福祉国家が形成されるのは,第二次世界大戦後だというイメージは強いかもしれません。
しかし,そこに至る過程で,さまざまな取り組みがなされてきたことが分かることでしょう。