社会福祉士の国家試験は150問あります。
その中には,白書,報告書などの問題が出題されます。
これらの多くは,参考書には掲載されていません。
そのため,事前に対策を行うのは難しく,難易度はかなり高くなります。
学校の先生の中には「〇〇白書に目を通しておくと良い」とアドバイスする人もいます。
しかし白書や報告書を見ても,どこから出題されるか分からないので,覚えるのはとても難しいものです。
本当に適切なアドバイスをするなら「〇〇白書の〇〇を覚えておくと良い」が効果的です。しかしそれはほぼ不可能です。その白書から出題されることは分かっていたとしても,ポイントを絞り込むことは困難だからです。
このタイプの問題で得点するには,実は「勘」が決め手になることが多いものです。
国試勉強のもう一つの勉強法には,過去問を解いて実力をつけるというものがあります。
過去問を解くときは,その内容を覚えることも重要ですが,問題を解く勘どころを養うことが極めて重要です。
それを意識しないで過去問を解くことは,とてももったいないことです。
それでは今日の問題です。
第27回・問題37 地域福祉のネットワーク推進に関する各種報告書や白書の記述として,正しいものを1つ選びなさい。
1 「地域福祉のコーディネーター」は,専門家や事業者,ボランティア等との連携を図るため,自治体職員が務めるものである(「地域福祉のあり方研究会報告書」より)。
2 サービス拒否や引きこもり,多問題世帯に対しては,「寄り添い型支援」を行う人員配置が必要である(「社協・生活支援活動強化方針」より)。
3 地域包括ケアのコーディネート役は,住民の中から育成すべきである(「地域包括ケア研究会報告書」より)。
4 平成26年3月現在での認知症サポーターの数は,女性より男性が多い(「特定非営利活動法人地域ケア政策ネットワーク報告書」より)。
5 自殺予防における「ゲートキーパー」は,周りの人の異変に気づき,行動する人のことであり,弁護士,司法書士,薬剤師などの専門職に限られる(「平成25年版自殺対策白書」(内閣府)より)。
この国試問題を見たとき,受験生はとてもびっくりしたはずです。聞いたことも見たこともないものが出題されているからです。
こんな問題を見た受験生は「今年の国家試験は,傾向が変わったね」と言います。
国試は,
少しずつ同じで,少しずつ違う
が特徴です。
どんなに勉強しても知らないものが出題されます。
たくさん勉強したはずなのに,知らないものが出題されたときの無力感は相当なダメージを受けます。
国家試験の合格率は,30%程度という極めて低いものです。
このような問題で得点できるかどうかが合否を分けることもあるでしょう。
一番大切なことは,どんな問題にも動じない強い気持ちを持って国試に臨むことです。
そうすれば,正解を導く糸口は必ずつかめます。
それでは,解説です。
1 「地域福祉のコーディネーター」は,専門家や事業者,ボランティア等との連携を図るため,自治体職員が務めるものである(「地域福祉のあり方研究会報告書」より)。
地域福祉のあり方研究会報告書は,第222・23・24・27回に出題されています。
ポイントは,自助,共助,公助のうち,共助を確立するために,福祉圏域を重層化すること,地域福祉のコーディネーターの重要性が提言されていたことです。
これは,参考書にも書かれていたことでしょう。
しかし,地域福祉のコーディネーターは誰が務めるのかは学んでいなかったはずです。
足りないピースを知っている知識を総動員して埋めていく作業が必要です。
右田紀久恵先生が提唱した「自治型地域福祉」の知識が足りないピースを埋めるものの一つになります。自治型地域福祉は,行政と地域住民の協働です。
このような時代に,自治体職員が前面に出ることはなさそうだと思えるでしょう。
そうすれば×をつけることができます。
もちろん間違いです。
自治体職員も務めることもあるとは思いますが,地域の実情に合わせて,適切な人が務めます。
2 サービス拒否や引きこもり,多問題世帯に対しては,「寄り添い型支援」を行う人員配置が必要である(「社協・生活支援活動強化方針」より)。
「社協・生活支援活動強化方針」は,第26回に以下のように出題されています。
全国社会福祉協議会は,2012 年(平成24年)に「社協・生活支援活動強化方針」を策定し,主として,今後急増する在宅の認知症高齢者の生活支援を,より一層充実させていくことを目的とした。
これは間違いで,生活支援は,在宅の認知症高齢者だけを対象とするものではありません。
過去問を解くと,この問題に出会っていたはずですが,出題ポイントが変わって「寄り添い型支援」となっています。
これが国試を難しくする理由です。
少しずつ同じで,少しずつ違う
答えは分からないので,冷静に▲をつけておきます。
結果的に他が消去されてこれが残ります。
3 地域包括ケアのコーディネート役は,住民の中から育成すべきである(「地域包括ケア研究会報告書」より)。
域包括ケア研究会報告書は,第23回に出題されています。第27回よりも4年前なので,3年分の過去問の中では出題されていません。
これも難しいものです。
しかし,地域包括ケアシステムは専門性の高いものです。コーディネート役は住民も務めることもあるかもしれませんが,報告書で住民を育成すべきだとは絶対に言わないだろう,と思えるはずです。
実際には間違いで,同報告書では,地域包括支援センターが務めるとしています。
4 平成26年3月現在での認知症サポーターの数は,女性より男性が多い(「特定非営利活動法人地域ケア政策ネットワーク報告書」より)。
定非営利活動法人地域ケア政策ネットワーク報告書は,初めて出題されたものです。
しかし,認知症サポーターは女性の方が多いだろうと想像はつくはずです。
なぜなら,地域とのつながりは女性の方が多いので,認知症サポーター養成講座を受ける機会は多いと考えられるからです。
実際に女性の方が多いので間違いです。
5 自殺予防における「ゲートキーパー」は,周りの人の異変に気づき,行動する人のことであり,弁護士,司法書士,薬剤師などの専門職に限られる(「平成25年版自殺対策白書」(内閣府)より)。
自殺対策白書が出題されたのは,第21回の一度きりです。ゲートキーパーが出題されたのは,第27回の一度きりです。
「ゲートキーパー」は,周りの人の異変に気づき,行動する人であるならば,弁護士,司法書士,薬剤師などの専門職に限られることは絶対にないと思えるはずです。
なぜなら,弁護士,司法書士,薬剤師などの専門職は身近にはいないからです。
もちろん間違いです。専門職に限られるものではありません。
このように見ていくと,結果的に選択肢3が残ります。
今は,すべての内容が参考書に掲載されているはずです。そのようにして,毎年どんどん参考書は厚くなっていきます。
しかし,国試はその分厚い参考書を勉強しても知らないものが出題されます。
そのことを覚えておきましょう。