慈善組織協会
貧困の原因は個人の問題 → 友愛訪問(イギリスでは地区訪問と呼ばれた) → ケースワークの源流
セツルメント
貧困の原因は社会の問題 → 社会改良 → グループワークの源流
このように,捉え方の違いから活動内容が変わります。
それでは今日の問題です。
第23回・問題84 イギリスの慈善組織協会の活動に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。
1 慈善組織協会は,「救済に値する貧民」と「救済に値しない貧民」に区別することなく,あらゆる貧民を対象とした援助活動を行った。
2 慈善組織協会は,個々の慈善団体が個別の業績を上げることを目的として,ロンドンの地区ごとに地区委員会を設立した。
3 慈善組織協会は,産業革命が生み出した貧困の予防対策として設立された。
4 慈善組織協会は,被救済者の登録を行って救済の重複や不正受給の抑制を行うことを意図して始まった。
5 慈善組織協会の貧困や社会問題に対する自由主義的な認識が,セツルメントや社会運動,労働運動の考えに継承されていった。
イギリスの慈善組織協会は,1869年,ロンドンで設立されています。
最新の研究によって,イギリスCOSではアルモナーと呼ばれる訪問ボランティアが地区訪問を行っていたことが分かってきています。いわゆる友愛訪問はアメリカCOSで使われた用語だったようです。
アルモナーも今までは,MSWの源流として,ロイヤル・フリー・ホスピタルに新しい職種として誕生したと言われていましたが,同じ研究によって,COSの活動を病院に取り入れたことが分かっています。
将来的には,このような出題も加わってくることもあるかもしれませんね。
しかし,今はまだ今までと同じ理解で大丈夫です。
さて,解説です。
1 慈善組織協会は,「救済に値する貧民」と「救済に値しない貧民」に区別することなく,あらゆる貧民を対象とした援助活動を行った。
COSは,貧困の理由を個人の問題だととらえていました。
つまり個人の道徳的な問題が貧困になると考えていました。そのため,救済の対象を「救済に値する貧民」と「救済に値しない貧民」に分けて,そのうち「救済に値する貧民」を救済の対象としました。よって間違いです。
救済に値しない貧民は,救貧法で救済しました。このようなボランタリーな活動と国の関係を「平行棒理論」と言います。
時代は大きく下がって,べヴァリッジ報告で知られるベヴァリッジは,1948に公刊した『ボランタリーアクション』では,社会が本当に豊かになるためには,国が国民の最低限度の生活を保障するだけではなく,ボランタリーな活動が欠かせないと述べています。
このようなボランタリーな活動と国の協働関係は,「繰り出しばしご理論」と言います。
2 慈善組織協会は,個々の慈善団体が個別の業績を上げることを目的として,ロンドンの地区ごとに地区委員会を設立した。
COSは,被救済者の登録を行って,救済の重複や不正受給の抑制を行うことを目的として設立されています。よって間違いです。
3 慈善組織協会は,産業革命が生み出した貧困の予防対策として設立された。
COSは,貧困の理由を個人の問題だととらえていました。社会問題だととらえたのはセツルメントです。
4 慈善組織協会は,被救済者の登録を行って救済の重複や不正受給の抑制を行うことを意図して始まった。
これが正解です。はじまりはこのような理由でしたが,COSが行った友愛訪問(イギリスでは地区訪問と呼ばれていた)がケースワークに発展していきます。
5 慈善組織協会の貧困や社会問題に対する自由主義的な認識が,セツルメントや社会運動,労働運動の考えに継承されていった。
COSは,貧困は個人の問題,セツルメントは,貧困は社会の問題だととらえていました。
認識も救済の方法論もまったく別なものです。よって間違いです。
イギリスで誕生したCOSとセツルメントは,アメリカにわたり,さらに発展していきます。
COSは,のちにケースワークの母と呼ばれたリッチモンドがケースワークに科学的な手法を持ち込み,発展していきました。
世界初のセツルメントであるトインビーホールのバーネット夫妻に教えを受けた,コイトはニューヨークでアメリカ初のセツルメントであるネイバーフッドギルドを開設します。
世界最大級のセツルメントとなったシカゴのハルハウスを設立したJ.アダムスもバーネット夫妻の教えを受けています。J.アダムスはその後女性問題や平和問題に取り組み,のちにノーベル平和賞を受賞しました。
リッチモンドとJ.アダムスの活動の違いも,もともとCOSは個人の問題,セツルメントは社会の問題ととらえていたところから生まれたものです。