「現代社会と福祉」は,旧カリキュラム時代は,社会福祉原論という名称の科目でした。
大学によっては今もその名称であるところも多いのではないでしょうか。
社会福祉原論は,福祉とは何かを学ぶための科目です。
「現代社会と福祉」は,福祉政策が中心テーマです。原論の中には,福祉政策も含まれますが,それは全体の一部です。
「現代社会と福祉」に変わってからの国試問題を分類すると以下の2点に集約することができます。
・社会ではどんな福祉ニーズが発生しているのか。
・どのように福祉ニーズを充足するか。
この科目は出題範囲が広いですが,実は意外とシンプルです。
ほかの制度系の科目は,領域ごとに分かれていて,福祉ニーズを充足するために作られた法制度をどのように運用するかが問われます。
そこがこの科目と他の科目の大きな違いです。
ポイントはシンプルですが,それを実際に展開するとかなり細分化されます。
そこでこの科目が難しく感じられる理由なのかもしれません。
社会福祉原論では出題されていた福祉哲学に関連する問題は,現代社会と福祉のではほとんど出題されていません。
それを憂いてのことなのか,近年では,「相談援助の基盤と専門職」の問題の中に含めて出題されるようになってきています。
それは,カリキュラムに対する試験委員のささやかな抵抗のように感じます。
さて,前回に引き続き,今回も「ニーズ」を取り上げたいと思います。
現代社会と福祉の出題ポイントは先述のように
・社会ではどんな福祉ニーズが発生しているのか。
・どのように福祉ニーズを充足するか。
に集約されます。
社会全体でとらえると難しく感じるかもしれませんが,対クライエント(ミクロ)に置き換えて考えると実は一緒です。
ソーシャルワークの場合は,
インテーク
アセスメント
プランニング
インターベンション
モニタリング
・
・
・
と進行していきます。
場合によっては,この中にケアマネジメントの手法も含まれてくることでしょう。
福祉政策とソーシャルワークを重ねてみると
どのような社会問題が発生しているのか → インテーク
どのような課題があるか → アセスメント
どのように福祉ニーズを充足するか → プランニング
といったようになります。
昨日から取り組んでいるニーズは,ソーシャルワークの中ではスクリーニングとアセスメントに当たります。
ニーズを充足するための制度設計は,プランニングです。
このように「現代社会と福祉」は,インターベンション(介入)に至る前までを対象としていると言えます。
さて,ニーズの出題頻度です。
第22,25,26,27,28,29,30,31回
出題されなかったのは,わずか第23回と第24回の2回だけです。
6年連続で出題されている超超頻出領域です。
絶対に得点したいです。
それでは,今日の問題です。
第28回・問題25 福祉サービス利用者のニーズに関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。
1 政府による資源配分では,ニーズ原則が貫かれている。
2 ニーズの質や水準にかかわりなく,サービスに定額の負担を課すことを,普遍主義という。
3 ニーズ充足の評価には,主観的評価も含まれる。
4 サービス情報が公開されていれば,ニーズが潜在化することはない。
5 その人の主観的な欲求が表現されたもの以外は,ニーズとはみなせない。
ニーズに関する出題は,ソーシャルワークに重ねて考えるのが最も効果的です。
その視点でもう一度問題を読んでみてください。
さて,それでは解説です。
1 政府による資源配分では,ニーズ原則が貫かれている。
資源をどのように配分するかは,制度設計に関連するものなので,プランニングに該当する部分です。
資源配分には,ニーズ原則(必要原則)と貢献原則があります。よって間違いです。
ニーズ原則は,ニーズがある場合に配分します。社会福祉制度,公的扶助制度がこれに該当します。
貢献原則は,貢献度合いに合わせて配分します。社会保険制度がこれに該当します。
2 ニーズの質や水準にかかわりなく,サービスに定額の負担を課すことを,普遍主義という。
普遍主義は,ニーズがある場合,所得を調査しないで,資源を配分します。
選別主義は,ニーズがある場合,所得を調査して,条件にあった場合,資源を配分します。
この選択肢は,普遍主義でも選別主義でもありません。よって間違いです。
サービスに定額の負担を課すのは,応益負担です。介護保険のサービス利用料がこれに該当します。
負担に関しては,支払い能力に合わせて負担を課す「応能負担」もあります。福祉サービス利用料,保育料などがこれに該当します。
3 ニーズ充足の評価には,主観的評価も含まれる。
評価は,クライエントが満足した,という定性的な主観的評価はとても重要です。よって正解です。
4 サービス情報が公開されていれば,ニーズが潜在化することはない。
サービスがあっても,それが知られていないとニーズは顕在化しないことはよくあります。
介護保険が導入当初よりも利用が増えたのは制度が周知されてきたこともあるでしょう。
5 その人の主観的な欲求が表現されたもの以外は,ニーズとはみなせない。
具体的な欲求はデマンドと言います。専門職のアセスメントによりニーズをつかむことは日常的に行っていることでしょう。
ニーズ把握は,表現されたものだけではないことはよく分かることでしょう。よって間違いです。
次回は,中級編です。
最新の記事
子ども・子育て支援法
子ども・子育て支援法は,これまでにも出題されてきましたが,正式に出題基準に含まれたのは,第37回国家試験です。 子ども・子育て支援制度は,市町村が実施主体になっています。 支給申請は,市町村に対して行います。 児童福祉法には,入所系があるので都道府県の役割がありますが,子ども...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...