貧困調査と言えば,19世紀末にロンドンで貧困調査を行ったブースと,19世紀末から20世紀にかけてヨーク市で貧困調査を行ったラウントリーが知られます。
そのうちラウントリーが「社会理論と社会システム」で出題される理由は,貧困とライフサイクルを結び付けたことに他なりません。
社会福祉士の国家試験で出題されるブースには,貧困調査を行ったC.ブースと救世軍を創設したW.ブースがいますが,現行カリキュラムではW.ブースは出題されていないので,ブースといった場合は,C.ブースのことを指しています。
ラウントリーはブースと切りはなすことができないので,まずはブースを解説します。
ブースはイギリスの汽船会社の経営者です。その会社によって財をなしていました。
その当時,ワーキングクラスの団体が「労働者の25%が貧困状態である」という調査報告をしていました。
ブースは経営者として,この調査結果に納得できず,私財を投じて貧困調査を実施したところ,25%どころか,30%のロンドン市民が貧困状態であることが分かりました。
同時に,ブースは貧困になった原因を調査しました。それによって明らかになったのは,
貧困の原因です。
第1位は雇用の問題(臨時就労や低賃金など)
第2位は環境の問題(疾病や大家族など)
第3位は習慣の問題(飲酒や浪費など)です。
個人的な要因で貧困に陥ると思われていた当時の常識をひっくり返したのです。
ブースの貧困調査は,のちにナショナルミニマム(国家による最低限度の生活保障)を提唱した,ウェッブ夫妻の妻のベアトリスが参加することにより調査の精度を高めました。
ブースによるロンドンの貧困調査に影響を受けたのは,チョコレート製造で急成長した会社の御曹司であるラウントリーです。
ラウントリーはヨーク市で全数調査によって貧困調査を行いました。
その当時のヨーク市の人口は約8万人です。その規模が全数調査を可能としました。
ラウントリーが貧困調査に用いたのは,マーケットバスケット(買い物かご)方式と呼ばれる科学的な手法でした。
肉体を維持するためにどのくらいの栄養量が必要なのかの基準を設けて,第一次貧困と第二次貧困という貧困線を設定しました。
第一次貧困は,肉体を維持するギリギリライン
第二次貧困は,飲酒などをしなければ肉体を保持できる程度の貧困
この辺りまでは他の科目で出題される内容の説明です。
貧困調査を行ったブースとラウントリーのうち,ラウントリーが「社会理論と社会システム」で出題されるのは,ライフサイクルと貧困の関係を明らかにしたことによります。
これは,人の一生のうち,自分が子どものうち,子どもが生まれてから巣立つまでの間,高齢期の3回に貧困になるというものです。
それでは,本題のラウントリーの問題を確認しましょう。
①ラウントリー(Rowntree,B.S.)が労働者の総収入に注目し明らかにした,第一次・第二次貧困の考え方は,後に最低生活費の考え方の基礎となった。 (第26回・問題21・選択肢1)
②ラウントリー(Rowntree,B.S.)は,19世紀末イギリスの農民を調査し,その一生にわたる経済的浮沈を指摘したことから,ライフサイクル研究の祖といわれる。 (第23回・問題19・選択肢4)
現行カリキュラムでこの科目で出題されたのはこの2つです。
①は正解です。
②は,ラウントリーが調査したのは,ヨーク市民です。よって間違いです。
当時ヨーク市に農民がいたかどうかは分かりません。
ラウントリーはヨーク市民に全数調査を行ったことが特徴です。農民を調査するのではあれば,市民の全数調査にはなりません。
それよりも重要なことは,貧困は農民よりも都市生活者の方がより陥りやすい,といったことです。