それに関連した問題は,知識を事前に勉強しているものではないので,とても難しい問題となります。
出題基準の中には,「地域」があります。
現行カリキュラムで2回以上出題されているのは
ソーシャル・キャピタル 2回
これしかありません。
これ以外は,1回しか出題されていません。
ソーシャル・キャピタルは,第30回では「現代社会と福祉」でも出題されているので,計3回ということになります。
ソーシャル・キャピタルは
社会関係資本と訳され,「互酬性」「信頼性」「ネットワーク」による人と人のつながりのことです。
ソーシャル・キャピタルは,古典的な集団ではなく,人と人の弱いつながり(紐帯=紐帯)でつながっています。
この紐帯こそが,「互酬性」「信頼性」「ネットワーク」そのものです。
互酬性は,人に何かをしてもらったら,何かをして返すといったものです。「こうしてくれる」ということが信頼性につながります。
「してくれない」と思えば,互酬性は崩れます。
「互酬性」と「信頼性」は,1対1の関係性ですが,それが多くの人に広がれば「ネットワーク」となります。
ソーシャル・キャピタルは,本来はこのような自主的な結びつきです。
しかし,国は,地域活性化の切り札として,ソーシャル・キャピタルの活用を考えています。
そのため,ソーシャル・キャピタルは,「地域福祉の理論と方法」などの科目でも出題されていくことになるでしょう。
ソーシャル・キャピタルの出題
第27回・問題20 ソーシャルキャピタル(社会関係資本)の説明として,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 補助金などの形で政府や市町村が提供する資源
2 地域固有の景観や歴史的建造物などの資源
3 教育や職業訓練によって醸成される個人の能力という資源
4 信頼,規範,ネットワークなど,人々や組織の調整された諸活動を活発にする資源
5 道路などのように国民が共同で利用する公共的な資源
ソーシャル・キャピタルはどんなものなのかが分かれば,答えは選択肢4しか見えてこないと思います。
国試はこんなものです。決して深く掘り下げることはしないのです。
ソーシャル・キャピタルはこの辺にしておいて,一見さんの話です。
正解選択肢は以下のようになっています。
第22回 出題なし
第23回 ソーシャル・キャピタル
第24回 エスニック・コミュニティ
第25回 コンパクトシティ
第26回 パーソナルな関係
第27回 限界集落&ソーシャル・キャピタル
第28回 出題なし
第29回 コミュニティ政策
第30回 コミュニティ解放論
コミュニティ解放論は,「地域福祉の理論と方法」で第24回と第28回に出題されています。
そのほかは,ソーシャル・キャピタルと限界集落を除けば,すべて一見さんです。
これらの問題の難易度が高いのは,
国試は,少しずつ同じで,少しずつ違う
ではなく,
すべて違う出題だということです。
つまり知識が十分ある人でも,まったく知らない問題なのです。
別な言い方をすれば・・・
知識がなくても解ける可能性がある
と言えるのです。
さて,前置きが長くなりました。
攻略法です。
第24回・問題17 地域コミュニティに関する次の記述のうち,もっとも適切なものを一つ選びなさい。
1 大規模な災害が発生した直後では,非専門家の集まりである地域コミュニティによる身近な高齢者や障害者などの救援は困難であり,行政の専門防災組織の即座の救援活動が最も有効である。
2 日本のコミュニティ・スクールは,学校運営協議会制度によって保護者や地域住民などが学校の運営に参画し,画一的ではない特色ある学校づくりを目指すものなので,学校運営協議会が教職員の任命権も有している。
3 高度経済成長期に過疎過密問題が生じたので,国土の均衡ある発展を目標に1962年以来,数次にわたって市町村の都市計画マスタープランが策定されたが,過疎問題は解決せず,今日では農山村の地域コミュニティは存立の危機にある。
4 地方自治体が,地域コミュニティの住民,NPO,NGOや民間企業など,主要な利害関係者との協働によって利害調整と合意形成を図ろうとするあり方をコーポレート・ガバナンスと呼ぶ。
5 1980年代以降,日本の都市に新たに居住するようなニューカマーと呼ばれる外国人住民のなかで,民族や出身地域に基づいてエスニック・コミュニティを形成し,生活や仕事に必要な情報をお互いにやりとりする現象がみられる。
第25回・問題17 1970年代以降の都市のあり方に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 先進国の都市では人口や雇用の減少,財政の危機などによって都市の衰退力が問題となり,それまでの都市化現象から過剰都市化現象への移行が注目されている。
2 資本や情報の国際的移動を結節するグローバル都市では,そのグローバルな活動を担う管理職・専門職が増加し,低賃金移民労働者が減少する。
3 持続可能な社会を目指す視点から都市のあり方が問い直されており,都市形態の側面からは,中心市街地の活性化を図るコンパクトシティが提起されている。
4 脱工業化社会の到来を契機に登場してきたテクノポリス構想では,都市の発展は固有の文化や住民の創造性によってもたらされると説いている。
5 都市住民の生活が高度な情報科学技術に条件づけられている情報都市では,空間の制約を受けない社会関係が発達し,次第に都市間のヒエラルヒーが消滅する。
答えを先に紹介ので分かると思いますが,エスニック・コミュニティとコンパクトシティです。
攻略法とは,この2つを覚えることではありません。
この試験は,社会福祉士の国試であることです。
社会福祉士に知っておいてもらいたいものが出題されます。
特にこの科目の出題基準の中の「地域」はその意図がはっきり見て取れます。
その視点でもう一度問題を見てみましょう。
第24回・問題17 地域コミュニティに関する次の記述のうち,もっとも適切なものを一つ選びなさい。
1 大規模な災害が発生した直後では,非専門家の集まりである地域コミュニティによる身近な高齢者や障害者などの救援は困難であり,行政の専門防災組織の即座の救援活動が最も有効である。
2 日本のコミュニティ・スクールは,学校運営協議会制度によって保護者や地域住民などが学校の運営に参画し,画一的ではない特色ある学校づくりを目指すものなので,学校運営協議会が教職員の任命権も有している。
3 高度経済成長期に過疎過密問題が生じたので,国土の均衡ある発展を目標に1962年以来,数次にわたって市町村の都市計画マスタープランが策定されたが,過疎問題は解決せず,今日では農山村の地域コミュニティは存立の危機にある。
4 地方自治体が,地域コミュニティの住民,NPO,NGOや民間企業など,主要な利害関係者との協働によって利害調整と合意形成を図ろうとするあり方をコーポレート・ガバナンスと呼ぶ。
5 1980年代以降,日本の都市に新たに居住するようなニューカマーと呼ばれる外国人住民のなかで,民族や出身地域に基づいてエスニック・コミュニティを形成し,生活や仕事に必要な情報をお互いにやりとりする現象がみられる。
1は,間違いだと分かると思います。
2は,コミュニティ・スクールとはどんなものかは分からないものです。しかし社会福祉士に関連するものなら,任命権の部分を強調するのではなく,違った部分を出題するはずです。
3は,1962年は昭和37年です。近年の政策では,ワンストップサービスなど,変な英語が普通に使われ,わざわざ英語で表現することに満足しているのではないかと思えるものもあります。変人と言われた小泉純一郎元首相が,厚生大臣だった1990年代に英語表記はやめて日本語にするようにという方針を出して,ショートステイが短期入所,アセスメントが課題分析なとど言い換えられました。1990年代であってもそうなのに,1960年代に「マスタープラン」という言葉は使わないだろう,と思えます。
4は,コーポレート・ガバナンスというものが地域に関係するものであれば,コミュニティ・ガバナンスといった言葉になるはずです。ガバナンスは統治のことをいいます。
5が正解です。どのような地域が形成されているのかを知ることはとても重要なことです。
このように考えれば,この問題は,外国人へのソーシャルワークを考えるために出題した,という意図が見えてくるでしょう。
そうすると,答えは,5以外には考えられなくなります。
第25回・問題17 1970年代以降の都市のあり方に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 先進国の都市では人口や雇用の減少,財政の危機などによって都市の衰退力が問題となり,それまでの都市化現象から過剰都市化現象への移行が注目されている。
2 資本や情報の国際的移動を結節するグローバル都市では,そのグローバルな活動を担う管理職・専門職が増加し,低賃金移民労働者が減少する。
3 持続可能な社会を目指す視点から都市のあり方が問い直されており,都市形態の側面からは,中心市街地の活性化を図るコンパクトシティが提起されている。
4 脱工業化社会の到来を契機に登場してきたテクノポリス構想では,都市の発展は固有の文化や住民の創造性によってもたらされると説いている。
5 都市住民の生活が高度な情報科学技術に条件づけられている情報都市では,空間の制約を受けない社会関係が発達し,次第に都市間のヒエラルヒーが消滅する。
1と2は,同じタイプです。1は日本も先進国の国なので,先進国の都市と言わなくても良いのではないか。2は,グローバル都市の問題。この2つは社会福祉士に直接的に関係するものではありません。
3が正解。地域活性化のためのコンパクトシティです。
4は,テクノポリス構想とは何かが分からなくても,「○○構想」は,国や地方公共団体が構想するものです。地域住民の創造で都市が発展するのでは,国や地方公共団体が構想する必要がありません。
5は,情報都市も社会福祉士に直接的に関係するものではありません。ここで出題する意義を見出せません。
〈今日のまとめ〉
「地域」という出題基準は,社会福祉士が地域を理解するための領域であることがよく分かったことでしょう。
社会学の古典であるシカゴ学派の研究などが論点にはならないし,現代社会であっても国際的なものも論点にはならないのです。
ここが理解できれば,この領域の得点力は確実に上がります。
正解選択肢は,他の選択肢と違うにおいがします。
そのにおいをかぎ分けることができるようになることが大切です。
過去問を解く意味はそこにあります。