今回は,生活保護の基本原理・原則に関する事例問題です。
その前に基本原理・原則を確認します。
元ネタの記事はこちら
生活保護法の基本原理・原則の注意ポイント
https://fukufuku21.blogspot.com/2023/11/blog-post_2.html
<生活保護法の基本原理・原則>
国家責任の原理 ➡ 国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行う。
無差別平等の原理 ➡ 困窮に陥った理由により差別を受けることなく,また信条・性別・社会的身分によって差別されることなく,保護を受けることができる。
最低生活の原理 ➡ この法律により保障される最低限度の生活は,健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。
補足性の原理 ➡ 保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。扶養義務者による扶養が保護に優先して行われる。
保護は最低限度の生活を送るのに不足する分を扶助するものです。
申請保護の原則 ➡ 保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる。
基準及び程度の原則 ➡ 保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし,そのうち,その者が金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。
保護基準は,要保護者の年齢別,性別,世帯構成別,所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって,かつ,これをこえないものでなければならない。
必要即応性の原則 ➡ 保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする。
世帯単位の原則 ➡ 保護は,世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し,これによりがたいときは,個人を単位として定めることができる。
それでは,今日の問題です。
第32回・問題68
事例を読んで,福祉事務所の生活保護現業員による保護申請時に行う説明に関する記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
Jさん(70歳女性)は,年金と息子からの仕送りで一人暮らしをしていた。息子が交通事故で仕事を失い,収入がなくなって仕送りができなくなり,年金だけでは暮らせないため,生活保護を申請した。
1 働くことが可能との医師の判断がある場合には,生活保護を受給できないと説明する。
2 Jさんに娘がいる場合には,娘からの扶養を受けることが生活保護を受給するための要件となることを説明する。
3 自宅が持ち家の場合,処分した後に生活保護を受給できると説明する。
4 収入に変更があった場合は,申告する義務があることを説明する。
5 保護申請は,福祉事務所指定の申請書でなければ受け付けられないことを説明する。
この問題自体は,基本原理・原則を正確に理解していなくとも正解はできそうですが,確実に正解するためには,やはり押さえておいたほうが良いです。
それでは,解説です。
1 働くことが可能との医師の判断がある場合には,生活保護を受給できないと説明する。
補足性の原理 ➡ 保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。扶養義務者による扶養が保護に優先して行われる。
稼働能力があると,それも活用します。
Jさんは,70歳なので,稼働能力があっても,すぐ働けるとは思えません。
まずは,保護申請を受け付けて,最低生活を下回る場合,保護を開始します。
そのうえで,稼働できて,最低生活を上回る収入があった時に,保護が廃止されます。
また,稼働できたとしても,最低生活を下回るときは,最低生活の基準までの分が給付されます。
2 Jさんに娘がいる場合には,娘からの扶養を受けることが生活保護を受給するための要件となることを説明する。
娘からの扶養は,保護に優先されます。
しかし,娘が扶養できない場合,娘が扶養しても最低生活を維持できない場合には,保護が実施されます。
3 自宅が持ち家の場合,処分した後に生活保護を受給できると説明する。
持ち家があった場合には,それも活用します。
しかし,持ち家があったしても,それを処分しても大した金額にならない場合もあります。
そのような場合は,借家生活するよりもそのまま持ち家に住んだほうが良い場合もあります。
持ち家があった場合,何が何でも処分しなければならないということはありません。
4 収入に変更があった場合は,申告する義務があることを説明する。
これが正解です。
保護を受けている者には,いくつかの権利と義務があります。
届出の義務
被保護者は、収入、支出その他生計の状況について変動があつたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに、保護の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならない。
5 保護申請は,福祉事務所指定の申請書でなければ受け付けられないことを説明する。
保護申請は,所定の申請書を提出することで行われます。
ただし,当該申請書を作成することができない特別な事情がある場合には,この限りではありません。
〈今日の注意ポイント〉
補足性の原理 ➡ 保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものを,その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。扶養義務者による扶養が保護に優先して行われる。
特に第2項「民法に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする」は注意が必要です。
扶養義務者の扶養は,生活保護に優先されますが,扶養が保護の要件ではないことを覚えておきたいです。