ソーシャルワーク専門職のグローバル定義には,
ソーシャルワークの理論,社会科学,人文学,および地域・民族固有の知を基盤として,ソーシャルワークは,生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう,人々やさまざまな構造に働きかける。
という文章があります。
このうちの「地域・民族固有の知」というのは,ソーシャルワークは西洋生まれであることもあり,これまでのソーシャルワークは西洋の考え方に偏重していたことへの批判的な意味合いで,非西洋的な伝統的な知に注目することの重要性を指摘しているものです。
注釈では,特に先住民の知を強調しています。
今日のテーマとは直接的には関係がないですが,先住民族と少数民族の違いはわかりますか?
先住民族は,あとに移住してきた人たちによって,自分たちの民族としての文化・風習を守って生活することができなくってしまった民族のことをいいます。
少数民族は,民族としての人数は少なくても,自分たちの民族としての文化・風習を守って生活している民族のことをいいます。
先住民の知とは,今は忘れられてしまっているかもしれませんが,その地域で生まれてきた知恵のことだと言えるでしょう。
近年の社会福祉士の国家試験では,日本人の先駆者が再び出題されるようになってきたのは,グローバル定義の影響があるように思います。
日本でもこんな素晴らしい人がいたのだ,ということに気づかせる言わば「ディスカバージャパン」(日本再発見)です。
とは言ってもそれほど多くの人は取り上げられていないので,決して恐れることはありません。
それでは,今日の問題です。
第31回・問題94 日本のソーシャルワークの発展に寄与した人物に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 仲村優一は,著書『グループ・ワーク小團指導入門』において,アメリカのグループワーク論の大要を著した。
2 竹内愛二は,著書『社會事業と方面委員制度』において,ドイツのエルバーフェルト制度を基に方面委員制度を考案した。
3 永井三郎は,著書『ケース・ウォークの理論と實際』において,アメリカの援助技術について論じた。
4 小河滋次郎は,論文「公的扶助とケースワーク」において,公的扶助に即したケースワークの必要性を示した。
5 三好豊太郎は,論文「『ケースウォーク』としての人事相談事業」において,ケースワークを社会事業の技術として位置づけた。
この問題は,正解できるような道筋をつけていることが重要です。
丁寧に考えて作られた問題は,答えまでの道筋があるのです。
この問題が出題された当時の受験者が知っていたのは,
仲村優一先生
竹内愛二先生
小河滋次郎先生
だと思います。
今は,参考にそれ以外の人も書いてあるので,勉強している人にとっては違和感なく取り組めると思います。
しかし,実際の国家試験はそういうものではありません。
この問題の正解は,選択肢5です。
5 三好豊太郎は,論文「『ケースウォーク』としての人事相談事業」において,ケースワークを社会事業の技術として位置づけた。
これを知っていた人はまずいないでしょう。
しかし,知っている知識でこの選択肢を選び出すことができる仕掛けがあります。
これまでの出題実績です。
仲村優一 第12・14・20・25回に出題
竹内愛二 第8・9・15・19・30回に出題
永井三郎 初
小河滋次郎 第3・5・10・15・17・26・29回に出題
三好豊太郎 初
それでは解説です。
1 仲村優一は,著書『グループ・ワーク小團指導入門』において,アメリカのグループワーク論の大要を著した。
2 竹内愛二は,著書『社會事業と方面委員制度』において,ドイツのエルバーフェルト制度を基に方面委員制度を考案した。
3 永井三郎は,著書『ケース・ウォークの理論と實際』において,アメリカの援助技術について論じた。
4 小河滋次郎は,論文「公的扶助とケースワーク」において,公的扶助に即したケースワークの必要性を示した。
この4つのうち,判別してほしいのは,小河滋次郎先生です。
小河滋次郎先生は,大阪府の方面委員制度の考案者として知られています。
方面委員については,選択肢2に記述があるので,選択肢2と4は消去できそうです。
ここで気づいてほしいことは,入れ替えになっているのではないかということです。
そうするとこれまでの知識で,
仲村優一 → 公的扶助とケースワーク
竹内愛二 → ケース・ウォークの理論と實際(実際)
という判別ができます。
これらによって,選択肢1~4はすべて消去できることになります。
そして,選択肢5が残ります。
〈今日の一言〉
この問題を正解するためには,知識と知恵が必要です。
知恵とは,この問題の場合は入れ替えになっていることに気がつくことです。
問題を解くことに躍起になり,知恵を働かせることができない人は,正解できません。
知恵とは数学の図形問題で補助線を引くことに似ている,と表現していた人がいます。
うまいことを言うと関心したことを覚えています。
問題ごとに補助線をどこに引いたらよいか異なるのに,数学に長けた人は,どこに補助線を引けばよいのか,ひらめくらしいです。
それまでにたくさんの問題を解くことでひらめきが生まれます。
ひらめきは,知識が知恵になる瞬間でもあります。
過去問を解くのは知識を知恵に変える意味もあることを忘れないでいてほしいと思います。