認知行動療法は,学習理論を用いて,行動や認知を変容させるものです。
心理学の発展はすごいなぁと思います。
さて,学習理論の中には,条件づけがあります。
条件づけは,レスポンデント条件とオペラント条件づけがあります。
今回取り上げる系統的脱感作法は,レスポンデント条件を応用したものです。
系統的脱感作法は,国家試験の出題を借りれば,クライエントは,個別に作成された不安階層表を基に,リラックスした状態下で不安の誘発度の最も低い剌激から徐々に刺激が増やされ,段階的に不安を克服していくものです。
レスポンデント条件を応用したものには,暴露療法(エクスポージャー法)があります。
暴露療法は,不安を感じるものにさらすことで不安に慣れるものであるのに対し,系統的脱感作法は,最初から強く不安を感じるものにさらすのではなく,不安があまり強くないところから徐々に慣れていきます。
例えば,満員電車の中で,パニック発作を起こす人の場合では,個別に作成した不安階層表で,最も不安が少ない,空いている電車に乗る,というところから始めて,最後は,満点電車に乗って,不安を感じなくなるとゴールとなります。
それでは,今日の問題です。
第29回・問題13 系統的脱感作法の説明として,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 自分や周囲に対して過度に否定的で,挫折感に浸っている不安やうつなどの気分障害のクライエントに対して,考え方や感じ方を肯定的な方向に変化させていく。
2 受動的注意集中状態下で,四肢の重感,四肢の温感,心臓調整,呼吸調整,腹部温感,額部涼感を順に得ることで,心身の状態は緊張から弛緩へ切り替えられる。
3 「すべての人に愛されねばならない」という非合理的な信念を,「すべての人に愛されるにこしたことはない」という合理的な信念に修正していく。
4 観察者はお手本(モデル)となる他者の行動を観察することで,新しい行動を獲得したり,既存の行動パターンを修正する。
5 クライエントは,個別に作成された不安階層表を基に,リラックスした状態下で不安の誘発度の最も低い剌激から徐々に刺激が増やされ,段階的に不安を克服していく。
なかなかの難問です。系統的脱感作法を正しく理解していないと,正解できない問題です。
勉強した人は正解できる,勉強不足の人は正解できない,という国家試験の理想的問題です。
それでは,解説です。
1 自分や周囲に対して過度に否定的で,挫折感に浸っている不安やうつなどの気分障害のクライエントに対して,考え方や感じ方を肯定的な方向に変化させていく。
これは,認知行動療法の説明です。
2 受動的注意集中状態下で,四肢の重感,四肢の温感,心臓調整,呼吸調整,腹部温感,額部涼感を順に得ることで,心身の状態は緊張から弛緩へ切り替えられる。
これは,自律訓練法の説明です。
注意すべきなのは,「能動的」ではなく,「受動的」であることです。
能動的だと,体をゆるめることができません。
3 「すべての人に愛されねばならない」という非合理的な信念を,「すべての人に愛されるにこしたことはない」という合理的な信念に修正していく。
これは,論理療法の説明です。
認知療法に似ていますが,認知療法は自動思考を変化させていくのに対し,論理療法は,非合理な信念を変化させていくところに特徴があります。
この出題を例にとると,「すべての人に愛されねばならない」と考えるあまりに,嫌われたらどうしようと考えてしまい,対人恐怖になります。
しかし,もし,嫌われたとしても何も自分は変化するものではありません。あの人は自分のことを嫌っているのだな,と思えれば気持ちが楽になります。
人に嫌われるのは,人に迷惑をかける行為とは異なります。
人に迷惑をかける行為なら,人に迷惑をかけてはいけない,という信念は適切ですが,「すべての人に愛されねばならない」という信念が実現せずとも,誰も困る人はいないのです。
これが「非合理な信念」という意味です。
4 観察者はお手本(モデル)となる他者の行動を観察することで,新しい行動を獲得したり,既存の行動パターンを修正する。
これは,観察学習の説明です。観察学習を応用したものには,SST(社会生活技能訓練)があります。
5 クライエントは,個別に作成された不安階層表を基に,リラックスした状態下で不安の誘発度の最も低い剌激から徐々に刺激が増やされ,段階的に不安を克服していく。
これが正解です。