社会福祉士の国家試験は,現在は150問出題されています。第1・2回の国試問題は非公開だったため,本物の問題はわかりませんが,第3回国試問題は170問出題されているので,第1・2回も170問の出題であったと考えるのが順当でしょう。
精神保健福祉士の国試は,163問なので多いと思いますが,社会福祉士の国試はもっと多かった時代があったのです。
問題数は多くても,問題の作り方がシンプルなものが多いため,知識があればそれほど考えることなく答えられたのではないかと思います。
現在の問題の多くは,文章で構成されています。
文章問題は,よくよく読まないと勘違いをすることもあるので要注意ですが,逆に文章で判断できることもあります。
字面だけを追いかけていると,全体像が見えなくなりますが,ちょっと引いて問題を見てみると,答えが見えてくる問題があります。
それでは今日の問題です。
第30回・問題124 福祉・介護サービス提供体制の確保に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 福祉サービス第三者評価事業は,福祉サービスの質の向上を目的に創設された。
2 介護サービス情報の公表制度では,介護保険事業を行う全事業所への調査が義務づけられている。
3 社会福祉事業の経営者は,利用者等からの苦情の解決を所在地の市町村に委ねなくてはならない。
4 市町村は,社会福祉法に基づき,運営適正化委員会を設けなければならない。
5 個人データは,利用する必要がなくなった場合でも,電子データとして保存するよう努めなければならない。
焦ると混乱しそうな問題です。
正解は,選択肢1
1 福祉サービス第三者評価事業は,福祉サービスの質の向上を目的に創設された。
目的を聞かれるとドキッとしてしまいますが,よくよく考えるとそうなんだろうと思います。
ほかの選択肢をもう一度読んでみましょう。
2 介護サービス情報の公表制度では,介護保険事業を行う全事業所への調査が義務づけられている。
3 社会福祉事業の経営者は,利用者等からの苦情の解決を所在地の市町村に委ねなくてはならない。
4 市町村は,社会福祉法に基づき,運営適正化委員会を設けなければならない。
5 個人データは,利用する必要がなくなった場合でも,電子データとして保存するよう努めなければならない。
なんとなく,正解選択肢と違って,説明的な感じがしませんか?
簡単に説明します。
2 介護サービス情報の公表制度では,介護保険事業を行う全事業所への調査が義務づけられている。
これが正解なら
介護サービス情報の公表制度では,介護保険事業を行う事業所への調査が義務づけられている。
でよいはずです。「全」とつけているのは,本当は「全」ではないと推測することができるでしょう。
3 社会福祉事業の経営者は,利用者等からの苦情の解決を所在地の市町村に委ねなくてはならない。
社会福祉法では,「社会福祉事業の経営者は,常にその提供する福祉サービスについて,利用者等からの苦情の適切な解決に努めなければならない」とされています。
当然ですよね。解決をゆだねるのは他力本願すぎます。
また,市町村はそんなことを請け負う余裕もありませんし,社会福祉事業は市町村の管轄にはありません。
4 市町村は,社会福祉法に基づき,運営適正化委員会を設けなければならない。
運営適正委員会が出されるときのポイントは,たった2つしかありません。
①どこに設置されるか。
②何を行うのか。
①は,都道府県社協です。
②は,福祉サービスの苦情を受け付け,解決のためのあっせんを行います。
指導権限はもちません。また受け付けるのは苦情であって,審査請求ではありません。
5 個人データは,利用する必要がなくなった場合でも,電子データとして保存するよう努めなければならない。
これは解説するまでもないでしょう。
<今日の一言>
今日の問題のようなタイプは,勉強が足りない人でも正解できる可能性があります。
なぜなら,知識がない分,余計な考えを持たないからです。
勉強した人が解けないのは,悔しいですね。
そうならないように,呼吸を整えて,問題から目を遠ざけて,問題全体を眺めることをおすすめします。
そうすると,私が答えですよ,と正解選択肢がささやいているのが聞こえてくることでしょう。
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