社会福祉士の国試の合格率は,おおよそ25~30%です。
第30回国試の結果から,合格率は高くても30%程度にするという強い意志が感じ取れます。
つまり成績の上位30%しか合格できない試験であるということです。
国試問題を一問一問丁寧に見てみると,決して難易度が高い問題で構成されているわけではありません。
しっかり勉強すれば,正解できるようなレベルの問題で構成されていると言えます。
今日の問題もそういったものです。
第31回・問題122 「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針~利用者の笑顔と満足を求めて~」(厚生労働省)の内容に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。
1 利用者の自立的な生活を重視するほどリスクは高まるため,利用者の自由を制約するのはやむを得ない。
2 標準化されたサービスよりも,各職員の経験と勘に頼ったサービスの方が,業務改善や事故の原因の特定が行いやすい。
3 より質の高いサービスを提供することによって多くの事故が未然に回避できる,という考え方で危機管理に取り組むべきである。
4 利用者の状況や施設環境等の個別性が高いため,各施設において十分な検討と創意工夫が必要である。
5 リスクマネジメントは職員全体で取り組むべきことなので,経営者の強いリーダーシップは不要である。
前回と同じ「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針~」からの出題です。
これを知らないと解けないのかと言えば,決してそんなことはありません。
こういったものは,中途半端に知っていると,逆に度忘れした場合に焦ることにつながります。
どこから出題しているのか,ということを明らかにしているだけで,冷静に読めば,別な言い方をすれば,常識の範囲内で正解できます。
正解は,
3 より質の高いサービスを提供することによって多くの事故が未然に回避できる,という考え方で危機管理に取り組むべきである。
4 利用者の状況や施設環境等の個別性が高いため,各施設において十分な検討と創意工夫が必要である。
言われてみれば,当然の内容だと思います。
この問題で確実に正解するためには,ほかの選択肢を確実に消去する必要があります。
そのポイントです。
1 利用者の自立的な生活を重視するほどリスクは高まるため,利用者の自由を制約するのはやむを得ない。
国の指針なので,やむを得ないというスタンスはあり得ない。
「やむを得ない」は,あきらめムードの退廃化した組織の考え方です。
2 標準化されたサービスよりも,各職員の経験と勘に頼ったサービスの方が,業務改善や事故の原因の特定が行いやすい。
経験と勘に頼ったサービスが良いのなら,国は指針を出すことはしないでしょう。
5 リスクマネジメントは職員全体で取り組むべきことなので,経営者の強いリーダーシップは不要である。
リスクマネジメントに限らず,サービスの質向上に向けた取り組みには,経営者の理解とその方針を示すことが何よりも大切です。
この選択肢で大切なことは,不要なものを指針に示す必然性はないということです。
<今日の一言>
今日の問題のように,知識がなくても,常識の範囲内で解ける問題は要注意です。
なぜなら,多くの受験生が正解できるからです。
上位30%に入るためには,決して間違ってはならないものだと言えるでしょう。
解ける問題は確実に正解する
誰もが解ける問題とは,答えがわからなくて,なんとなく選んだものが結果的に正解になるというタイプであることが多いものです。
このような問題は,解いたときに「正解できた。わかった」という手ごたえはありません。
自己採点してみて,初めて正解できたことを知ります。
正解できるためには,消去できる力が必要なのです。
私たちはたくさんの問題を紹介しています。
その理由は,問題を読む力が必要だからです。
最後に結論です。
問題を解くときは,出題意図を考える
そんな余裕はない,という人もいるかもしれません。
そのために,訓練が必要なのです。訓練せずに急にそれをしようと思っても無理です。
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