第32回国試の試験委員は,試験委員長も含めて,ガラッと変わります。
試験委員が変わったら,出題傾向が変わる,といった不安をあおる人がいるみたいです。
そのような根拠のないことを言うのはやめましょう。
学習部屋では,現行カリキュラムの問題を中心に紹介しています。
文字数の変化はありますが,古い問題と最近の問題では,問題の内容が変わっているように見えますか?
はっきり言うと,目に見える大きな変化はありません。
第30回から第31回国試にかけて,問題の文字数は4,000字近く少なくなりましたが,そんな変化でさえ,ほとんどの人は気がつかないはずです。
それよりも重要なことは,試験問題を作っているのは,ロボットではなく人であるということです。
AI(人工知能)ではありません。慎重に読めば,ほころびを生じていることに気がつくこともあると思います。
今までの傾向では,「福祉サービスの組織と経営」は,問題として破綻しているものが最も多い科目だと言えます。
それでは,今日の問題です。
第27回・問題124 福祉サービスの苦情対応,事故対応及び事故防止に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 社会福祉事業の経営者は,利用者からの苦情の解決を行政機関にゆだねなくてはならない。
2 運営適正化委員会は,福祉サービスに関する苦情について,事業者に改善を命じることができる。
3 介護保険制度上の居宅介護事業者は,利用者に対するサービス提供により事故が発生した場合に,市町村の指示があるまでは,必要な措置を講じてはならない。
4 介護保険施設は,事故が発生した場合又はそれに至る危険性がある事態が生じた場合に,その分析を通じた改善策を従業者に周知徹底する体制を整備しなければならない。
5 介護保険施設における事故防止のための従業者に対する研修は,必ずしも定期的に実施することは求められていない。
受験当日は,この内容に関連した勉強をしてこの問題に臨んだ人は皆無だったと思います。
受験に失敗する人には,2つのタイプがあります。
①じっくり勉強した人。
②勉強不足の人。
再受験を目指すとき,ちょっと苦労するのは「①じっくり勉強した人」です。
なぜなら,実力を発揮できなかったことには理由があるからです。
それに比べて,「②勉強不足の人」は勉強すれば,突破口が開けるでしょう。
国試は,一定程度,勉強したことがない問題が出題されます。
その比率は,毎年ほとんど一定しています。
今日の問題の答えは,選択肢4です。
4 介護保険施設は,事故が発生した場合又はそれに至る危険性がある事態が生じた場合に,その分析を通じた改善策を従業者に周知徹底する体制を整備しなければならない。
解説本は見ていませんが,こういったものに,〇〇法の〇〇条に規定されている,といった解説をつけているのではないかと思います。
解説するのには,根拠が必要ですが,そういった知識がなくても,この選択肢は当然のものだと思いませんか?
過去問を使って勉強する意味はそこにあります。
3年間の過去問では,絶対に絶対に合格できる知識は身につきません。
断言します。
合格するために,過去問を活用して勉強することの意味は,問題に慣れることだと考えています
それでは,ほかの選択肢も確認していきましょう。
1 社会福祉事業の経営者は,利用者からの苦情の解決を行政機関にゆだねなくてはならない。
そんな義務はないです。
2 運営適正化委員会は,福祉サービスに関する苦情について,事業者に改善を命じることができる。
そんな権限はないです。
3 介護保険制度上の居宅介護事業者は,利用者に対するサービス提供により事故が発生した場合に,市町村の指示があるまでは,必要な措置を講じてはならない。
そんな義務はないです。というか,指示を待っていては対応が遅くなります。
夜間はどうするのでしょう?
5 介護保険施設における事故防止のための従業者に対する研修は,必ずしも定期的に実施することは求められていない。
求められていないものを出題する意味はありません。
この中で迷うのは,運営適正化委員会の業務かもしれません。
運営適正化委員会は,2000年の社会福祉法によって規定されたもので,都道府県社会福祉協議会に設置され,苦情の解決に向けたあっせんなどを行います。
改善命令を行うような権限はありません。
<今日の一言>
国試問題を作っているのは,人です。
作問センスが大きく関連します。
センスが良い問題は難敵になりますが,実際にはそんなに簡単に良い問題は作れません。
そのために,丁寧に読めば,文章的に問題の解答につながる糸口を見つけですことができる可能性があるのです。
過去問を使って勉強する時には,こういったことに気をつけるとよいと思います。
「①じっくり勉強した人」で,受験に失敗した経験のある人は,特に意識してほしいと思います。
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