今更ながらですが,社会福祉士の国家試験の科目は19科目あります。
出題は,例年150問です。
第3回の国家試験は170問もありました。第1・2回の国試は公表されていませんが,第3回が170問ということは,第1・2回もおそらく170問だったと思われます。
第4~30回は,150問出題されています。
さて,科目ごとに見ると出題数が違います。
<10問科目>
・現代社会と福祉
・地域福祉の理論と方法
・高齢者に対する支援と介護保険制度
<7問科目>
・人体の構造と機能及び疾病
・心理学理論と心理的支援
・社会理論と社会システム
・福祉行財政と福祉計画
・社会保障
・障害者に対する支援と障害者自立支援制度
・低所得者に対する支援と生活保護制度
・保健医療サービス
・権利擁護と成年後見制度
・社会調査の基礎
・相談援助の基盤と専門職
・福祉サービスの組織と経営
・児童と家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度
<21問科目>
・相談援助の理論と方法
<4問科目> ※2科目で1群
・就労支援サービス
・更生保護制度
このように分類されます。
第21回以前の国試(つまり旧カリキュラム)では,13科目のうち,相談援助2科目に当たる「社会福祉援助技術」が30問,それ以外は10問ずつの点数配分となっていました。
10問と7問科目では,出題傾向に大きな違いがあります。
国試の出題範囲は広いので,たくさんのことを出題しなければなりません。7問科目はそれほど余裕がないので,細かい出題はできません。逆に言うと,10問科目は余裕があります。
今取り組んでいる「権利擁護と成年後見制度」は,旧カリ時代の法学に変わって現行カリキュラムで登場した科目です。
この科目は出題に余裕のない7問科目です。
法が成立したばかりのもの,まだ施行されていない制度は,ほとんど出題されません。
第30回には,先日紹介した2016年改正民法が出題されていましたが,法改正の内容を知らなくても解ける問題でした。
この時期になると,
新しい制度も覚えなければならない
模試に出ていた報告書も覚えなければならない
などなど心配になることが多いと思います。
しかし
参考書に書いていないことはほとんど無視して良いです。
出るか出ないか分からないものに時間をかけるよりも,基礎をしっかり押さえることが大切です。
基礎を繰り返し繰り返し勉強していけば,必ず問題は解けるようになります。
ただし3年間の過去問だけでは知識量が足りないことは今まで主張してきたとおりです。
特に7問科目は3年分でも21問しかありません。それだけの知識で合格できるような試験ではないことは間違いないです。
前置きが長くなりました。
現在取り組んでいる科目は「権利擁護と成年後見制度」です。科目名に「成年後見制度」とついているとおり,この科目の中心は,成年後見制度です。とはいうものの7問科目なので成年後見制度が出題されるのは,2~3問にすぎません。そのために出題できることはとても限定されます。
基礎を覚えていけば実力が上がりますが,3年間の過去問では足りないのです。
ここで皆さんを混乱させることを言います。
国試は,4年前のところから出題されることが多い傾向があります。
第28回 → 第24回
第29回 → 第25回
第30回 → 第26回
第31回 → 第27回
といったパターンです。昨年は第26回を使って解説しました。
しかし,これは他の回と比べると4回前の回が多いということだけで,それを完璧にやっても数点分です。
4回前というのが実に悩ましいのは,多くの人が手にする過去問は直近3年分なので,4年前の問題は目にする人が少ないことです。
だからといって,今更手に入れる必要は一切ありません。
今持っているものをひたすら繰り返し行うことが大切です。
それでは今日の問題です。
第27回・問題80 法定後見における補助に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 補助開始の審判には,本人の同意は必要とされない。
2 補助の開始には,精神の状況につき鑑定が必要とされている。
3 被補助人は社会福祉士になることができない。
4 補助監督人がいない場合で利益相反するときには,補助人は臨時補助人の選任を請求しなければならない。
5 複数の補助人がいる場合,補助人は共同して同意権を行使しなければならない。
現行カリキュラムは第22回から実施されていますが,補助が単独で出題されたのは,この問題のみです。
冒頭で長々と述べたのは,第31回国試にとって,第27回国試は重要なものなので,そこから考えると「補助」は特にしっかり覚えてほしいからです。
ヤマを張ったところで1点は1点ですが,傾向を考えた場合は,やっぱりしっかりと押さえておきたいです。
補助は,成年後見と保佐とちょっと違うところがあります。
それでは解説です。
1 補助開始の審判には,本人の同意は必要とされない。
これは間違いです。
前回紹介したように,開始の審判に際して,本人の同意が必要なのは補助のみです。成年後見と保佐は,本人の同意は必要とされません。
2 補助の開始には,精神の状況につき鑑定が必要とされている。
これも間違いです。
精神状況の鑑定は,補助の開始には必要とされません。成年後見と保佐は原則として必要です。
3 被補助人は社会福祉士になることができない。
これも間違いです。
国家資格には,欠格条項があるものが多いです。
社会福祉士の場合は,成年被後見人と被保佐人が欠格条項となります。
4 補助監督人がいない場合で利益相反するときには,補助人は臨時補助人の選任を請求しなければならない。
これが正解です。
利益相反する場合
成年後見 → 特別代理人の選任
保佐 → 臨時保佐人の選任
補助 → 臨時補助人の選任
「特別」と「臨時」はどのような使い分けをしているのか分かりませんが,特別の方が難しい問題を取り扱う感じがします。
5 複数の補助人がいる場合,補助人は共同して同意権を行使しなければならない。
これは間違いです。
成年後見人,保佐人,補助人ともに複数選任することができます。複数選任される場合は,役割分担することが多いようです。
<今日の一言>
今日の問題は第27回で,前回の問題は第29回のものです。
前回の問題は,難易度が極めて高いものでした。なぜそんなに難しく複雑な問題の出題することができたかというと,実は今日の問題が下敷きにあったからだと考えています。
国家試験の出題形式は固定されているものではありません。
そのため新しい出題形式の問題を見るとびっくりするでしょう。
しかし,出題形式が違うだけで,必ずその中でも突破口はあります。
びっくりさせることでふるいにかけているのです。
このブログ読者はそんなこけおどしに負けないでほしいと思います。
チームfukufuku21がびっくりした近年の国試問題を紹介します。選ぶものは,正しいものでも間違っているものでもありません。
第27回・問題23 社会的リスクに関する次の記述のうち,「ベヴァリッジ報告」で想定されていなかったものを1 つ選びなさい。
1 疾病により労働者の収入が途絶えるおそれ
2 勤務先の倒産や解雇により生計の維持が困難になるおそれ
3 老齢による退職のために,稼働収入が途絶えるおそれ
4 保育や介護の社会化が不充分なため,仕事と家庭の両立が困難になるおそれ
5 稼得者の退職や死亡により被扶養者の生活が困窮するおそれ
実に,旧カリ時代の「社会福祉原論」ではなく,現行カリキュラムの「現代社会と福祉」らしい問題です。というのは,過去と現在をつなげる問題だと思うからです。
歴史は昔の出来事としかとらえていない人は,ここでふるいにかけられます。
過去は歴史の出来事ではなく,現代を知るヒントであることを覚えておきましょう。
この問題は,国試史上1・2を争うくらいのエクセレントな問題だと思います。
間違った内容やでたらめな内容を書かずに問題を成立させています。
因みに答えは4。現代の社会構造が1940年代とどのように変化しているのか,受験生は想像力・発想力を発揮して考えなければなりません。
この後に出版される参考書などでは,この問題を前提にした内容が加わります。しかしそれを学んだところで,おそらく同じ問題は出題されないと思います。
受験生の想像力・発想力を高めることを意図して出題しているので,同じものを出題する意義がないからです。
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