不法行為とは,他人の利益を侵すことです。
損害賠償請求の対象となるのは,故意もしくは過失による場合です。
損害賠償請求の対象とならないのは,不可抗力による場合です。
業務中の不法行為があった場合には,使用者,監督者も使用者責任を問われることもあります。
これまでは前回書いたことと同じです。
前回の最後に書いたように,公務員はまた別の話です。
それは国家賠償法です。
国家賠償法第一条
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。
国家賠償法は,公務員の公務中の不法行為については,国または地方公共団体に損害賠償請求してね。本人には損害賠償でできませんよ。と規定しているのです。
それでは今日の問題です。
第29回・問題80 国家賠償法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 公立の福祉施設の職員の過失により加えられた利用者への損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
2 公務員の違法な公権力行使により損害を被った者は,国家賠償責任に加えて,公務員個人の民法上の不法行為,責任も問うことができる。
3 公務員が適切に公権力を行使しなかったことによる損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
4 公務員が家族旅行に行った先で,誤って器物を損壊したことに対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
5 非番の警察官が制服を着用して行った行為による損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
この問題を解く時のポイントは,公務中か公務中でないかです。
1 公立の福祉施設の職員の過失により加えられた利用者への損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
これは間違いです。
過失によって被った損害は,国家賠償法により,設置者に損害賠償することになります。
2 公務員の違法な公権力行使により損害を被った者は,国家賠償責任に加えて,公務員個人の民法上の不法行為,責任も問うことができる。
これも間違いです。
本人には,民法上の不法行為による責任は問われることはありません。その代わりに故意又は重大な過失があった場合は,国家賠償法によって,国又は地方公共団体が本人に賠償請求を行うことができます。
3 公務員が適切に公権力を行使しなかったことによる損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
これも間違いです。
もちろん,国家賠償法によって,損害賠償請求ができます。
4 公務員が家族旅行に行った先で,誤って器物を損壊したことに対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
これが正解です。
公務中ではありませんので,国家賠償法の対象ではありません。必要な場合は,民法によって損害賠償請求を行うことになります。
5 非番の警察官が制服を着用して行った行為による損害に対して,国家賠償法に基づく損害賠償請求はできない。
これは間違いです。
公務中であることは4と同じです。違うのは制服を着用していることです。
このような場合は,公務中であろうとなかろうが,公務中だとみなします。見た目が大切であるということです。
人は見た目です。
制服を着ていたら,周りの人は公務中であるかどうかは判断できません。そのため面倒なので公務中でなくても,制服を着ていたら公務中とみなされて,国家賠償法の対象となります。
<今日の一言>
今日の問題は,
・・・できない。
・・・できる。
・・・できない。
・・・できない。
・・・できない。
と語尾がそろっていません。
問題の内容が分からないと,ほかと一つだけ違う「・・・できる」を文章的に選択しがちです。
実際に,かつてはそういったものが正解になっていることが多くありました。
しかし今はそういったことに気がついたみたいで,極力そうならないように意識して作られているようです。
勘の良い人がその勘を活かして正解できる問題はほとんどないと言っても良いかと思います。
<理想的な国試>
勉強した人は解ける。
勉強が足りない人は解けない。
<最低な国試>
勉強した人でも解けない。
勘の良い人は勘を働かせると解ける。
「国家試験は日本語の問題だ」と言った人がいます。
それは過去のこと。
今は,勘の良し悪しで解ける問題ではありません。
たとえ勘で解けたとしてもそれはほんの数問です。
国試は決して難しい試験ではありませんが,勉強不足でも合格できるような試験ではなくなっています。
逆に地道に勉強してきた人は,高い得点ができるようになっています。
国の方針が変わったとしても,国試で合格できる秘訣はたったの一つしかありません。
出題基準で示されている内容をひたすら勉強することです。
合格には遠回りはいくらでもできますが,近道はありません。
努力は報われるのが今の国試です。模試の結果が届き始めていると思います。
模試で良い成績だった人は,それは今までの努力の結果です。自信を持って良いです。
国試を解く勘も必要ですが,それは基礎力を養ってこそ活きます。
最新の記事
児童手当法と児童手当
今回は児童手当法と児童手当を学びます。 児童手当法,児童扶養手当法,特別児童扶養手当法は,児童扶養手当法(1961年),特別児童扶養手当法(1964年),児童手当法(1971年)の順で成立していきました。 児童手当法の児童の定義は,18歳に達する日以後の最初の3月31日までの...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
今回は,ピンカスとミナハンが提唱したシステム理論を取り上げたいと思います。 システム 内容 クライエント・システム 個人,家族,地域社会など,クライエントを包み込む環境すべてのも...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...