行政手続法は,平成5年に制定された法です。
法の目的は,
処分,行政指導及び届出に関する手続並びに命令等を定める手続に関して,共通する事項を定めることによって,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることで,国民の権利利益の保護に資することを目的としています。
ただし,他法で定められているときは,その定めが優先されます。
旧カリキュラムの時代にはかなり出題頻度が高いものでしたが,現行カリキュラムで出題されたのは,第27回の一回のみです。
今回はその行政手続法について学びましょう。
行政手続法の用語
行政処分
行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為
行政指導
行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内で,特定の者に一定の作為(行うこと)又は不作為(行わないこと)を求めるための指導,勧告,助言その他の行為。行政指導は行政指導に該当しない。
不利益処分
行政庁が,法令に基づいて,特定の者に義務を課すこと,又はその権利を制限する処分
さて,それでは今日の問題です。
第21回・問題68 行政手続に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 行政手続法は,国及び地方公共団体が法律や条例などに基づいて行う処分や行政指導などに関し,共通事項を定め,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的としている。
2 裁判の執行としてされる処分は,行政手続法の適用除外とされているが,不服申立てに対する行政庁の裁決,決定その他の処分には,行政手続法が適用される。
3 意見公募手続は,行政機関が命令等を制定するに当たって,事前に命令等の案及び関連資料を公示し,広く一般の意見を求めるために,行政手続法の改正によって導入された制度である。
4 不利益処分をする場合の意見陳述のための手続きには,「聴聞」と「弁明の機会の付与」とがあり,いずれの場合も口頭で行われることを原則としている。
5 行政庁が申請に対する処分の「審査基準」と不利益処分に対する「処分基準」を作成し公表することは,努力義務ではなく法律上の義務である。
旧カリキュラムの「法学」という科目で出題された問題です。かなり言い回しの難易度が高い問題ですね。
しかし言い回しが難しくなればなるほど,文章にほころびが出るのも事実です。
現在はこれほど難易度が高い言い回しの問題は出題されません。だからといって,問題自体の難易度が下がっているわけではないことに注意が必要です。
それでは解説です。
1 行政手続法は,国及び地方公共団体が法律や条例などに基づいて行う処分や行政指導などに関し,共通事項を定め,行政運営における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的としている。
これは間違いです。
しかし,難しすぎです。出題当時はこれを正解にした人も多かったと考えられます。
どこが間違いかと言えば,行政手続法は,行政処分等を定めたものであることは正しいですが,ほかの法に定めがある場合は,その法の定めにしたがうからです。
2 裁判の執行としてされる処分は,行政手続法の適用除外とされているが,不服申立てに対する行政庁の裁決,決定その他の処分には,行政手続法が適用される。
これも間違いです。
行政手続法の適用は,裁判所の処分,不服申立ても適用除外です。
文章のほころびというのは,この選択肢を指しています。
裁判の執行としてされる処分は,行政手続法の適用除外とされているが,不服申立てに対する行政庁の裁決,決定その他の処分には,行政手続法が適用される。
●●は。●●だが,●●は●●ではない
というスタイルの文章です。
このスタイルの文章による出題は避ける傾向にあります。
3 意見公募手続は,行政機関が命令等を制定するに当たって,事前に命令等の案及び関連資料を公示し,広く一般の意見を求めるために,行政手続法の改正によって導入された制度である。
これが正解です。
意見公募手続とは,いわゆるパブリックコメント(パブコメ)のことをいいます。
平成17年の改正で法制化されました。
4 不利益処分をする場合の意見陳述のための手続きには,「聴聞」と「弁明の機会の付与」とがあり,いずれの場合も口頭で行われることを原則としている。
これも間違いです。
聴聞は「聴聞」ということば通り,口頭によってその言い分を聴きます。
弁明の機会は,文書で行うのが原則です。
5 行政庁が申請に対する処分の「審査基準」と不利益処分に対する「処分基準」を作成し公表することは,努力義務ではなく法律上の義務である。
これは間違いです。
審査基準を定めることは努力義務,処分基準は義務規定となっています。
<今日の一言>
今日の問題はとても難しいレベルのものだったと思います。
しかし,正解選択肢となったのは,意見公募手続(パブリックコメント)でした。
正解選択肢には,メッセージ性があります。
この問題で伝えたかったのは,この制度だったと思われます。
ここに気がつくようになると,国家試験の得点力は格段に上がります。
それが,正解選択肢がキラキラして見えてくるということです。
最新の記事
地域共生社会とは
今回は,地域共生社会を学びます。 地域共生社会とは・・・ 制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて,地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し,人と人,人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながることで,住...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
人は,一人で存在するものではなく,環境の中で生きています。 人と環境を一体のものとしてとらえるのが「システム理論」です。 人は環境に影響を受けて,人は環境に影響を与えます。 人⇔環境 この双方向性を「交互作用」と言います。 多くのソーシャルワークの理論家が「人...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
歴史が苦手な人は多いですが,イギリスの歴史は覚えておきたい歴史の代表です。 今回のテーマは,ブース,ラウントリーの貧困調査です。 第34回国家試験までの出題回数を調べてみると ブース 12回 ラウントリー 16回 どちらの出題頻度も高いですが,ラウントリーのほうがより出題頻度が...
-
バートレット は, ソーシャルワーク実践の共通基盤 として「 価値 」「 知識 」「 介入(技術) 」を挙げています。 ソーシャルワーカーなら,フィールドが違えど,共通してもっているもの,という意味です。 3つの中のうち「価値」は,「ソーシャルワークの基盤と専門職」で中心的に学ぶ...