2018年12月11日火曜日

成年後見制度の徹底理解~その2

成年後見制度には,法定後見制度と任意後見制度,そして未成年後見制度があります。

後見人には,「善良なる管理者としての注意義務(善管注意義務)」があります。

義務には

自己の財産におけるのと同一の注意の義務(自己同一注意義務)
善良なる管理者としての注意義務(善管注意義務)

がありますが,善管注意義務の方が重い責任を負っています。

自己同一注意義務は,「ごめんごめん」で済まされる程度の責任ですが,善管注意義務はそれでは済まされません。場合によっては損害賠償請求の対象にもなります。

同居の親族が後見人になったとしても善管注意義務を負うことになります。

それでは今日の問題です。

第24回・問題74 後見人の責務に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 成年後見人は,被後見人の身上に関する事務を遂行するに当たっては,被後見人本人の意思を尊重する義務は負わない。

2 成年後見人は,不適切な事務遂行行為によって第三者に損害を与えた場合,被後見人に事理弁識能力があるときには,その第三者に対して損害賠償責任を負わない。

3 未成年後見人は,被後見人に対する事務を遂行するに当たっては,善良な管理者としての注意義務を負う。

4 成年後見人は,財産のない被後見人に対する事務を遂行するに当たっては,善良な管理者としての注意義務は負わない。

5 未成年後見人は,被後見人たる児童が同居の親族に該当する場合,未成年後見人が被後見人の財産を横領したとしても刑を免除する親族間の特例が適用される。

このような問題は今はほとんど存在しません。日本語的に解けてしまうからです。

間違い選択肢をそれっぽく作るというのはとても難しいことです。

それでは解説です。


1 成年後見人は,被後見人の身上に関する事務を遂行するに当たっては,被後見人本人の意思を尊重する義務は負わない。

これは間違いです。

成年後見人は財産管理と身上監護を行います。

そのうち,身上監護とは,生活や医療・介護などに関する法律行為です。本人の意思を尊重しないのであれば,何のための後見人なのかわからなくなってしまいます。もちろん本人の権利擁護が目的です。


2 成年後見人は,不適切な事務遂行行為によって第三者に損害を与えた場合,被後見人に事理弁識能力があるときには,その第三者に対して損害賠償責任を負わない。

これも間違いです。

問題文は「今は判断する能力(事理弁識能力)があるから,後見人は事務を遂行しなくて良いですよ」という意味です。だれがそのジャッジをするのでしょうか。無理です。無理なことを法が定めるわけがありません。

被後見人は「精神上の障害により判断能力を欠く常況にある者」です。いつも判断能力がないということではありません。

一時的に判断能力が回復したとしても,後見人の事務が変わるわけではありません。


3 未成年後見人は,被後見人に対する事務を遂行するに当たっては,善良な管理者としての注意義務を負う。

これが正解です。後見人には,自己同一注意義務よりも重い善管注意義務が課せられます。


4 成年後見人は,財産のない被後見人に対する事務を遂行するに当たっては,善良な管理者としての注意義務は負わない。

これも間違いです。

被後見人に財産がなくても後見人には善管注意義務があります。


5 未成年後見人は,被後見人たる児童が同居の親族に該当する場合,未成年後見人が被後見人の財産を横領したとしても刑を免除する親族間の特例が適用される。

これも間違いです。

前説のように,後見人になれば,同居の親族ではなく,後見人としての責務を負います。
親族間の特例とは,本人が訴えなければ,立件されないということを言います。


<今日の一言>

このような問題は今はないと書きました。

「このような問題」とは,「否定」と「肯定」が混ざっているものを指しています。

「否定」と「肯定」が混在すると,「否定」は正解になりにくくなります。。

今日の問題では,それに気が付くと問題はかなり易しく見えてきます。

残念ですが,このような問題は出題されないでしょう。しかしうっかりして出題されないとも限らないので,覚えておいて損はありません。

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