前回から任意後見制度を取り上げています。
任意後見制度が現行カリキュラムで出題されたのは,第23,26,30回の3回のみです。
前回取り上げた問題が第26回,今回取り上げる問題は第30回の国試です。
第26回はこんな問題でした。
1 任意後見契約は,事理弁識能力喪失後の一定の事務を委託する契約書が当事者間で作成されていれば効力を有する。
2 任意後見契約では,本人の事理弁識能力が不十分になれば,家庭裁判所が職権で任意後見監督人を選任する。
3 任意後見人と本人との利益が相反する場合,任意後見監督人があっても特別代理人を選任しなければならない。
4 任意後見人の配偶者は任意後見監督人になることができないが,兄弟姉妹は任意後見監督人になることができる。
5 任意後見監督人の選任後,任意後見人は,正当な理由がある場合,家庭裁判所の許可を得れば任意後見契約を解除できる。
それでは今日の問題です。
第30回・問題79 任意後見契約に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 任意後見契約は,任意後見契約の締結によって直ちに効力が生じる。
2 任意後見契約の締結は,法務局において行う必要がある。
3 任意後見契約の解除は,任意後見監督人の選任後も,公証人の認証を受けた書面によってできる。
4 任意後見人と本人との利益が相反する場合は,特別代理人を選任する必要がある。
5 任意後見人の配偶者であることは,任意後見監督人の欠格事由に該当する。
試験委員は,明らかに第26回・問題81を下敷きにして作成していることがうかがわれます。
第26回と重なっていない問題は,選択1のみです。
しかし,第30回国試が下敷きにしたと思われる第26回国試は,4回前のものなので,一般的に使っている過去3年分の問題では学びきれないものです。なかなか憎いですね。
それでは,解説です。
1 任意後見契約は,任意後見契約の締結によって直ちに効力が生じる。
これは間違いです。
任意後見制度の特徴は,任意後見監督人が選任された時点で効力を生じることです。
任意後見契約を締結は本人が元気な時に行うので,このようなスタイルが必要なのです。
2 任意後見契約の締結は,法務局において行う必要がある。
これも間違いです。
契約の締結は,公証人役場で公正証書によって行われる必要があります。これは毎回出題されているものです。
法務局は,後見契約を登記する場所です。法定後見,任意後見ともに共通です。
3 任意後見契約の解除は,任意後見監督人の選任後も,公証人の認証を受けた書面によってできる。
これも間違いです。
契約解除は,正当な理由があって,家庭裁判所の許可が必要です。そのうえで法務局の任意後見契約終了の登記をします。
4 任意後見人と本人との利益が相反する場合は,特別代理人を選任する必要がある。
これも間違いです。
法定後見制度では,成年後見監督人は必ずしも選任されていません。そのために法定後見制度では特別代理人の選任が必要です。
一方,任意後見制度では,必ず任意後見監督人が選任されます。任意後見監督人が本人側につくので,改めて特別代理人を選任する必要はありません。
5 任意後見人の配偶者であることは,任意後見監督人の欠格事由に該当する。
これが正解です。
任意後見監督人になれないのは,後見人の配偶者,直系血族,兄弟姉妹です。
第26回が間違いで,第30回が正解になっています。
この問題自体の難易度はそれほど易しいものではありません。しかし第26回での出題実績があるので,欠格事由を正解選択肢にすることができたと考えます。
<今日の一言>
初めて出題したものを正解選択肢にすることはかなりの冒険です。極端に正解率が低下するからです。
本試験では,0点科目になると不合格になってしまいます。
模擬試験は,0点が続出したとしても別に不合格になるわけではありません。
本試験で科目0点の人が多いとおそらく試験センターでは大きな問題となります。場合によっては内定取り消しになるからです。
勉強不足の人が不合格になるのは致し方ないところです。
しかし,勉強をコツコツ行ってきた人でも解けない問題を出題したために,0点科目で不合格になってしまうのは極めて不適切な国試です。
しっかり勉強した人は解ける,勉強が不足している人は解けない。
これが理想の国家試験です
<おまけ>
現行カリキュラムは第22回から実施されています。
第22~25回 模索期
第26~30回 充実期
第31回~ 転換期
第25回は,合格基準点が最も低くなった回です。
第30回は,合格基準点が最も高くなった回です。
第31回は,第30回と大きく変わることはないと思いますが,今後予定されているカリキュラム改正に向けた新しい段階に突入していくことは間違いありません。
5年後にどんな分析ができるのか,今から楽しみです。
最新の記事
障害者総合支援法における相談支援
今日のテーマは,「障害者総合支援法における相談支援」です。 同法に規定される相談支援機関の中心は,基幹相談支援センターです。 〈基幹相談支援センターの業務〉 ・総合的・専門的な相談の実施 ・地域の相談支援体制強化の取組 ...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
模擬試験を受験するとその場で解答をもらえることが多いので,すぐ自己採点する人も多いことと思います。 しかし,ここで気を付けなければならないのは,模擬試験は,実際の国家試験よりも点数が取りにくい傾向にあることです。 そこを押さえておかないと「あれだけ勉強したのに点数が取れな...
-
まずは戦後の社会保障制度の変遷を考えてみたいと思います。 昭和 20 年代 は,国民全体が貧しく,救貧の時代です。救貧の中心的制度は,公的扶助です。 昭和 30 年代 に入ると,高度経済成長の時代になり,防貧の時代になります。防貧の中心的制度は,社会保険で...
-
社会保障制度審議会は,かつて内閣総理大臣の諮問機関として,社会保障制度を審議していたもので,現在は廃止されています。 国家試験に出題されている同審議会の勧告は,1950年勧告,1962年勧告,1995年勧告の3つです。 〈1950年勧告〉 1950年勧告は,社会保障の範囲と方法を...
-
今日から福祉事務所に取り組んでいきたいと思います。 福祉事務所は,「低所得者に対する支援と生活保護制度」だけではなく,ほかの科目でも出題されます。 福祉事務所は,保護を実施しますが,そのほかの法も取り扱っているからです。 福祉事務所は,社会福祉法では「福祉に関する事務...
-
今回は,グループワーク(集団援助技術)の主な理論家を学びます。 グループワークの主な理論家 コイル セツルメントやYWCAの実践を基盤とし,グループワークの母と呼ばれた。 また,「グループワーカーの機能に関する定義」( ...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...