行政手続法は,現行カリキュラムでは出題が少ないので,それよりも前に出題されたものを整理してみました。
第7回・問題127 我が国の行政手続法に関する次の記述のうち,誤っているものを一つ選びなさい。
1 行政不服審査法と異なり,行政処分が行われた後に,国民の権利・利益の救済を図る事後救済に関する手続法である。
2 行政事件訴訟法と異なり,行政処分が行われる前に,国民の権利・利益の救済を図る事前救済に関する手続法である。
3 行政庁の処分,行政指導及び届出に関する手続法である。
4 行政運営における公正の確保と透明性の向上を―図るための手続法である。
5 国民の権利・利益の保護に資するための手続法である。
現行カリキュラムではなくなった「誤っているもの」を選ぶ問題です。
その時その時で国家試験は難しいものですが,誤っているものを一つ選ぶ問題の難易度は,正しいものを一つ選ぶ問題よりも何倍も難しくなります。
なぜなら明らかに間違っているものを見つけることができたら,それがすぐ答えになるからです。正しいものを一つ選ぶのは,間違っているものを一つ見つけても消去できるのはたった一つだけ。すべてが正しく見えてきますし,すべてが間違って見えてきます。
こういう出題があったため,口の悪い人は「社会福祉士の問題ではなく,国語の問題だ」と言ったりもしました。
しかしそれは過去のこと。
勉強が足りない人が解ける問題はほんのわずか。ラッキーで合格できることは絶対になくなっています。
この問題の答えは,選択肢1です。
選択肢1と選択肢2は,比較している法は違いますが,内容は行政手続法は事前救済か事後救済かという逆のことを述べています。
そうなると,どちらかが間違っている可能性が高くなります。
その視点で問題を読むと,行政手続法の内容は分からなくても,不服申立ては行政処分に対する不服申立てなので,行政処分の事後に行うものだということは分かります。不服申立ては事前救済ではないので,その部分で既に間違っています。
この問題が初登場です。初登場のものが難しいと誰も解けなくなります。
第7回国試ということは,法が成立してすぐの出題だということもあるのでしょう。こんな法律ができました,というお披露目をするには国家試験はうってつけです。次の年の参考書に載るので,受験生はみんな勉強してくれるからです。
しかし,現在は7問しか出題がないので,そのような意図では出題する余裕はありません。
昔の国試しか知らない人は
新しく変わったところが出題される
と言います。
今はめったにそんなことはありません。むしろ変わった直後は出題しない傾向にあります。
制度改正の直後に出題されるとすると,定義の変更,法制度の根幹の変更に関連するものです。現場レベルで振り回される小さな制度改正は大局から見ると国試に出題する優先度が低いと言えます。
さて,その次に出題されものをみましょう。今度は第7回に出題された内容を踏まえて出題することができます。
第8回・問題123 行政手続法に関する次の記述のうち,誤っているものを一つ選びなさい。
1 行政手続法は,専ら国民の権利保護に資することを目的として制定されたものである。
2 行政指導とは,行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において,一定の行政目的を実現するため,特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導,勧告,助言その他の行為であって,処分に該当しないもののことをいう。
3 行政手続法は,処分手続として,「申請に対する処分」手続と「不利益処分」手続との二つの手続を認めている。
4 行政手続法は,行政庁の「不利益処分」手続について,通知と聴聞の要件を課している。
5 行政手続法は,行政指導を行う者が,行政指導の相手方から,その趣旨,内容などについて書面の交付を求められた場合には,これを交付しなければならないとしている。
内容はものすごく難しいです。しかしこれも日本語的に答えることができます。
選択肢1が間違いです。「専ら」ではないからです。
中途半端に勉強した人よりも勉強しない人の方がおそらく正解率が高くなる問題でしょう。
そんなのは国試としては絶対におかしいです。
次の出題です。
第13回・問題69
3 行政手続法は,行政手続を定めた一般法であり,処分,行政指導及び届出に関する手続に関して他の法律に特別の定めがある場合は,その定めるところに従って手続が進められることになる。
これは正解です。今まで学んできたとおりです。
第14回・問題69
行政手続法では,行政指導はあくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されることが求められており,また相手方が行政指導に従わなかったことを理由として,不利益な取扱いをしてはならないとされている。
これも正解ですね。今まで学んできたとおりです。
この当時は,出題数は各科目10問だっために,法ができた直後に1問丸ごとその法制度を出題する余裕があったのです。
旧カリキュラム時代の「法学」は最も難しい科目でした。
そのため,0点にならないように,すべての問題に同じ数字「3」あるいは「4」を塗りつぶすように対策したものです。変に考えると0点を取る可能性がありますが,それだと3点程度が取れたのです。
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