2020年11月8日日曜日

成熟優位説と環境優位説

今回は,発達心理学のうち,成熟優位説と環境優位説を中心に学んでみたいと思います。


成熟優位説は,成長には遺伝が関係しており,発達には適切な時期がある,と考えます。

ゲゼルが一卵性双生児の研究を通して提唱したものです。


一卵性双生児は,同じ遺伝子情報を持っています。

別々の環境で育てられても,成長はほぼ同じ時期をたどるとするのが,成熟環境説の根拠となっています。


たとえば,ひらがなを書けるようになる時期は,人それぞれです。

それは,遺伝子の影響を受けていると考えます。

成熟環境説では,遺伝子的に体が準備している「レディネス」を重視します。

勉強成績でも早い時期から高い力を発揮する人もいます。

それに対して,最初はそれほどでもなくても,徐々に実力を発揮する人もいます。

これは,後者の人は,学習を始めた当初はレディネスが整っていなかったかもしれません。


他者のかかわりとして重要なのは,その人のレディネスの状態を見極めて,それに合わせた支援を行うことです。

具体的には,適切な学習環境を与えることでレディネスを促進するようにかかわっていきます。


それに対して,環境優位説は,人は環境によって,どのようにも育つと考えます。

ワトソンという人が提唱しています。

ワトソンは,「人は学者にも医者にも育て方次第でなれる」と述べました。

彼は,そこでやめておけば良かったのですが,さらに「どろぼうにも乞食にも育てることができる」と述べて,社会から反感を買ったようです。


親として,子どもをどろぼうなどに育てたいと思う人はいないでしょう。


もう一つ,成熟優位説と環境優位説をミックスしたような「輻輳説(ふくそうせつ)」というものもあります。


人の成長にはさまざまな要因が関与すると考えるものです。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題12 遺伝と環境に関する学説として,正しいものを1つ選びなさい。

1 成熟優位説では,学習を成立させるために必要なレディネスを重視する。

2 環境優位説では,周囲への働きかけや環境及び出生前の経験を重視する。

3 輻輳説では,発達は遺伝的要因と環境的要因の引き算的な影響によるとした。

4 環境閾値説では,心理的諸特性が顕在化するには固有の人格特性があるとした。

5 行動遺伝学では,遺伝と環境の関係を地域環境の側面から統計的手法で見積もる。


前説では紹介しなかった「環境閾値説」と「行動遺伝学」を含んだ問題です。


このような問題を目にすると「勉強しなかった。困った」と思う人も多いと思います。


しかし,多くの場合,そういったものが正解になることはめったにあるものではないです。


焦って,冷静さを失うことの方が怖いです。


ということで,選択肢4と5のようなものはよっぽど自信がない限り,正解として選ばないことが大切です。


まずは,▲をつけておきましょう。


そのうえで,慎重に問題を読みます。


4 環境閾値説では,心理的諸特性が顕在化するには固有の人格特性があるとした。


「何,これ」って感じです。考えてもわかりません。

勉強したこともなく,内容を読んでもわからないものを正解にするのは,かなりのチャレンジャーでしょう。


環境閾値説とは,心理的諸特性が顕在化するには,情報が適切に与えられ続けることが必要だと考えます。


具体的には,優秀なピアニストになれる素養を持っている子が,その能力を発揮できるのは,小さな時からの訓練が必要である,と考えます。


例えば,優秀なピアニストとしての能力を発揮するために必要な情報量が「10」だとすると,10に達するまでの情報が足りないとその能力を発揮できません。


10を超えたときに,初めてその能力を発揮できるようになります。


この説によると,人はどんな素養を持っているのかわからないので,子にはたくさんの経験をさせることが適切だということになるのでしょう。


5 行動遺伝学では,遺伝と環境の関係を地域環境の側面から統計的手法で見積もる。


行動遺伝学とは,遺伝と環境が行動にどのように影響しているのかを研究する学問領域です。


この選択肢の文章は,違和感がありませんか?

ムリに作った文章なのでおかしなものになってしまっています。

違和感のあるものの多くは,正解にはなりなくいものだということも覚えておきましょう。


さて,残るのは,次の3つです。


1 成熟優位説では,学習を成立させるために必要なレディネスを重視する。

2 環境優位説では,周囲への働きかけや環境及び出生前の経験を重視する。

3 輻輳説では,発達は遺伝的要因と環境的要因の引き算的な影響によるとした。


正解は,選択肢1ですが,レディネスが出題されたのは,第18回とこの時の第28回のたった2回だけです。


一般的な人にとって,過去問で対応することは難しいものです。


それを想定して,あとの2つの選択肢を見てみます。


2 環境優位説では,周囲への働きかけや環境及び出生前の経験を重視する。


「周囲への働きかけや環境」までは正解ですが,「出生前の経験」は誤りです。

出生前の体験とは,生まれる前のことです。


「胎教」というものもあるので,正解だと認識する人もいるかもしれませんが,ワトソンが提唱した環境優位説では,生まれた後の育て方や周りの環境を重視したものです。


3 輻輳説では,発達は遺伝的要因と環境的要因の引き算的な影響によるとした。


料理をする人なら,わかると思いますが,料理は足し算することはできますが,引き算することはできません。


引き算とは,全体から何かを取り去ることです。


人も同じです。足し算や掛け算をすることはできますが,引き算することは困難です。


おそらく,この選択肢のもともとの文章は,以下のようなものだったと考えられます。


輻輳説では,発達は遺伝的要因と環境的要因の足し算的な影響によるとした。


ほら,とても自然な文章になるでしょ?

最新の記事

児童手当法と児童手当

  今回は児童手当法と児童手当を学びます。 児童手当法,児童扶養手当法,特別児童扶養手当法は,児童扶養手当法(1961年),特別児童扶養手当法(1964年),児童手当法(1971年)の順で成立していきました。 児童手当法の児童の定義は,18歳に達する日以後の最初の3月31日までの...

過去一週間でよく読まれている記事