今回から科目は「心理学理論と心理的支援」に移ります。
「心理学理論と心理的支援」と「社会理論と社会システム」を苦手としている人が多いようです。人名がたくさん登場することもその理由の一つでしょう。
しかしそのうち心理学理論について言えば人名を覚えておかなければならない問題はほとんどありません。
そこに力点を入れた勉強法は間違いです。もしそうしていたら,今すぐやめましょう。
必要なのは,人名ではなく,その内容です。
今日の問題は,感覚・知覚に関するものです。
過去を振り返ると
第22回
第24回
第27回
第29回
に出題されています。出題頻度は多い方でしょう。
しかも内容は繰り返し率が高いです。
これを読むと・・・
しっかり押さえれば得点できる確率が高い領域です。
と言うと思うでしょう。
実際にこういうことを書いてある解説が多いと思います。
しかし私たちチームfukufuku21は,国試はそう単純ではないことを良く知っています。
国試は単純ではない!!
国試は単純ではない!!
国試は単純ではない!!
それを今日の問題を使って分析します。
そのうえで,どうしたら,得点力が上がるのかを一緒に考えていきましょう。
それでは今日の問題です。
第27回・問題8 感覚・知覚に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 目や耳などの感覚器には,光や音以外にも「眼球をおすと光が見える」などの感覚を生じさせる刺激があり,こうした刺激を適刺激という。
2 網膜像から対象物の形を知覚するには,認識対象の形を背景から浮き立たせる「図と地の分離」が必要である。
3 錯視は感覚器の生理学的な構造の影響で生じており,脳の中枢での推論過程などの影響や,刺激の物理的要素による影響はない。
4 網膜に映る大きさが同じであれば同じ大きさに見えることを,大きさの恒常性という。
5 パターン認知における特徴分析とは,認知対象を部分に分けることなく全体としての特徴をとらえて認識する過程のことである。
社会福祉士の国試の基本は・・・
少しずつ同じ(重なって)で,少しずつ違う
このことは常に頭に入れておいてください。
これを意識していると,少しひねられた問題でも混乱することなく,国試会場の独特の雰囲気の中でも,普段通りの得点できる可能性が高くなります。
今日の問題も,少しずつ同じ(重なって)で,少しずつ違っています。
1.適刺激
2.図と地の分離
3.錯視
4.大きさの恒常性
5.パターン認知による特徴分析
の組み合わせです。
この時点で初めて出題されたものは,
2.図と地の心理
5.パターン認知による特徴分析
の2つです。
「3.錯視」は,出題回数は多いですが,第27回の国試の内容が出題されたのはこれが初めてです。
つまり,この時に受験した人が勉強していたのは,「1.適刺激」,「4.大きさの恒常性」のたった2つしかありません。
この2つを武器にこの問題を解くことになります。
足りないものは,想像力を最大限に働かせて解くことが必要
ここが,点数が取れるか,取れないかの分かれ道です。
これを意識した勉強を行うことが得点力につながります。
どれだけ勉強しても知らないものが出題されます。
基本的な知識プラス推理力が合格に必要なのです。
再受験を目指す方は特に意識してみてください。
私たちが国試は単純ではない,と思う理由はここにあります。
まさしく「あと数点の壁」です。
それでは詳しく見ていきましょう。
1 目や耳などの感覚器には,光や音以外にも「眼球をおすと光が見える」などの感覚を生じさせる刺激があり,こうした刺激を適刺激という。
「眼球をおすと光が見える」(眼球圧迫)というのは,どのような機序で起きるのかは分かりません。
しかし,適刺激は,目は光,耳は音,を感じることを言うので,この選択肢は間違いです。
これとそっくりな問題は実は過去に出題されています。
第22回・問題8・選択肢1 口を閉じた状態で,眼球を軽く圧迫すると明るさの変化を感じるのは,眼球圧迫が視覚に対する適刺激だからである。
視覚にとっての適刺激は光です。この時も適刺激は間違い選択肢として出題されています。
2 網膜像から対象物の形を知覚するには,認識対象の形を背景から浮き立たせる「図と地の分離」が必要である。
これは分かりません。こんな時は冷静に▲をつけましょう。
あとから解説します。
3 錯視は感覚器の生理学的な構造の影響で生じており,脳の中枢での推論過程などの影響や,刺激の物理的要素による影響はない。
錯視は,地平線に近い月は,空中に近い月よりも大きく見えるといった,同じものでも違って見えるものです。
刺激の物理的要素によるものが錯視に大きく関連します。
よって間違いです。しかしかなり難しい問題です。
「○○は○○だが,○○は○○ではない」といった出題は,ほとんどが間違い選択肢となります。
内容が分からない時には,なるべく正解にしないように気を付けてください。
この後の第29回では,以下のように出題されています。
中空にある月より地平線に近い月の方が大きく見える。これは錯視による。
これは正解です。
第27回の国試問題をしっかり理解しているとこれが正解にできます。
しかし,物理的要素とはどういうものか,を理解しないと解けないでしょう。
「脳の中枢での推論過程などの影響」による錯視には,例えば,隠れているものは見えている部分を推論するといったものがあります。これを使えば,体をスリムに見せることもできます。女性ならコーデで活用しているのではないでしょうか。
4 網膜に映る大きさが同じであれば同じ大きさに見えることを,大きさの恒常性という。
大きさの恒常性は,網膜に映る大きさが違っても,同じものだと知覚することです。よつて間違いです。
ある車が自分に近づいてくるときのことを考えてみます。
遠い時は,網膜には小さく映っています。それが自分に近づくと大きく映ります。
網膜に映る大きさが違っても,同じ車だと知覚します。これが大きさの恒常性です。
知覚の恒常性には,大きさの恒常性のほかに「形の恒常性」も出題されています。
形の恒常性は,網膜に映る形が違っても,同じものだと知覚することです。
5 パターン認知における特徴分析とは,認知対象を部分に分けることなく全体としての特徴をとらえて認識する過程のことである。
パターン認知における特徴分析は,まったくわかりません。こういったものを見ると混乱します。そして早まってこれを選んでしまうこともあるかもしれません。そうなると試験委員の思うツボです。
こういう選択肢を入れることで,問題の正解率を下げているのです。
焦らず,▲を付けましょう。
さて,残ったのは,
2 網膜像から対象物の形を知覚するには,認識対象の形を背景から浮き立たせる「図と地の分離」が必要である。
5 パターン認知における特徴分析とは,認知対象を部分に分けることなく全体としての特徴をとらえて認識する過程のことである。
の2つです。しかし知識がないので,答えを判別することはできません。
こんな時は
日本語的に読む
というテクニックを使います。
着目すべきなのは,
5 パターン認知における特徴分析とは,認知対象を部分に分けることなく全体としての特徴をとらえて認識する過程のことである。
のうちの,
認知対象を部分に分けることなく全体としての特徴をとらえて
という部分です。
この文章が正しいものだとすれば,
認知対象の全体の特徴をとらえて
という文章で済むはずです。
そうしないで,わざわざ
認知対象を部分に分けることなく
という表現をつけているのは,本来は
認知対象を部分に分けて
というのが正しいと考えられます。
これは
人は嘘をつくとき,饒舌になる
という解答テクニックです。
そこで,これを間違いにして,2を正解にします。
答えは2です。
「図と地の分離」のうちの「図」とは,ある形を見たとき,形だと認識されるもの,「地」はその背景だと知覚されることを言い,「図と地の分離」は,それを統合した知覚です。
「図と地の分離」を表す「ルビンの杯」は,「図」と「地」を逆転して知覚すると別なものに見えるものです。
一枚の絵なのに,老女に見えたり若い娘に見えたりする絵も有名ですね。
感覚,知覚がこの国試でよく出題される理由は,人によって,ものの見方・考え方は違う,ということを心理学的に分かってほしいという意味だと捉えています。
同じものを見ても,人によって見え方が違うということが,今日の問題を通して強く感じられたことでしょう。
〈今日の確認ポイント〉
選択肢5をもう少し整理してみます。
正しい文章は以下のようになります。
パターン認知における特徴分析とは,認知対象を部分に分けたそれぞれの特徴をとらえて認識する過程のことである。
これを間違った選択肢にすると
パターン認知における特徴分析とは,認知対象を部分に分けることなく全体としての特徴をとらえて認識する過程のことである。
という文章が出来上がります。
この文章は,正しい文章に比べて,何となく違和感があるのが分かるのではないでしょうか。
その理由は,先述のように,これが正解なら「認知対象を部分に分けることなく」の部分が余分だからです。
「心理学理論と心理的支援」や「社会理論と社会システム」などは理論を学ぶ科目です。
そのため現場ではなじみがないので感じるかもしれません。しかし,今日の問題のように間違い選択肢を作るときにほころびが出やすいものです。
多くの方は,理論系よりも法制度の方が覚えやすいと感じているでしょう。
しかし,実際に国試で出題されたときに間違いやすいのは,圧倒的に法制度です。
なぜなら,市町村を都道府県に変えるなどすれば,簡単に間違い選択肢を作れます。
そのため間違い選択肢のほころびが出ないので,日本語的に読むことができません。
難しそうに見えて,実は解きやすい。
簡単そうに見えて,実は解きにくい。
こんなところが,国試の難しさです。
ソーシャルワークには答えはありません。自分で考えていかなくてはなりません。
国試は,社会福祉士に期待されるされる力を求めて出題されます。
参考書に書かれているものだけを出題するのであれば,知っているものから答えを選べば正解できます。
しかし,そうはなっていません。
新しいもの,出題されたことがあるものでも切り口を変えて出題するのは,社会福祉士に求める力を養うためだと考えられます。
そのため,国試は単純なものではない,のです。
足りないものは,想像力を最大限に働かせて解くことが必要
これから第31回国試まで,これに対応する方法を提案していきますので,一緒に考えていきましょう。
最新の記事
児童手当法と児童手当
今回は児童手当法と児童手当を学びます。 児童手当法,児童扶養手当法,特別児童扶養手当法は,児童扶養手当法(1961年),特別児童扶養手当法(1964年),児童手当法(1971年)の順で成立していきました。 児童手当法の児童の定義は,18歳に達する日以後の最初の3月31日までの...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
今回は,ピンカスとミナハンが提唱したシステム理論を取り上げたいと思います。 システム 内容 クライエント・システム 個人,家族,地域社会など,クライエントを包み込む環境すべてのも...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...