国家試験に合格するためには,応用力が必要である,という人がいます。
「応用力」とは,基礎的な知識をその場に合わせて展開することをいいます。
丸暗記勉強している人は,そういった意味では,「応用力」が必要なのかもしれません。
しかし,それは勉強方法自体が間違っています。
覚えたものと同じ文章では出題されることはないのですから,その意味を押さえた勉強が欠かせません。
丸暗記勉強は,百害あって一利なし
そういった意味では,穴埋め式の参考書がありますが,完成された文章の意味が理解できていなければ,そういった参考書は危険です。
それでは,「どの参考書を使って勉強したらよいのか」という疑問はあると思いますが,何を使うかはそれほど重要ではありません。
重要なのは「どのように勉強するか」です。
最も多く使われているものが良いのか,ということではありません。
社会福祉士の国家試験の合格率は,約30%です。
最も多く使われている参考書は,「最も不合格者を出しているものである」と考えることもできます。
応用力が必要だと本気で思うなら,勉強方法を見直したほうがよいです。
それでは,今日の問題です。
第30回・問題10 思考や知能に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 拡散的思考とは,問題解決の際に,1つの解答を探索しようとする思考方法である。
2 洞察とは,問題解決のための方法を1つひとつ試して,成功する手法を探していく思考方法である。
3 知能指数(IQ)は,知能検査から得られる生活年齢と暦年齢の比によって計算される。
4 結晶性知能とは,過去の学習や経験を適用して得られた判断力や習慣のことである。
5 成人用知能検査であるWAISは,フランスのビネー(Binet,A)によって開発された。
この時の国試を受けた人は,この問題を見て「何,これ難しい」と思ったことでしょう。
これが国試です。
応用とかではなく,基礎的知識で十二分に通用しますが,丸暗記の人は太刀打ちすることができないでしょう。
なぜなら,正解は選択肢4
4 結晶性知能とは,過去の学習や経験を適用して得られた判断力や習慣のことである。
だからです。
この文章を見て,しっくりこない人は,覚え方を考えたほうが良いです。
結晶性知能が出題された時,瞬時に思い起こさなければならないのは,「流動性知能」です。
選択肢4の「結晶性知能」のところに「流動性知能」をあてはめてみます。
流動性知能とは,過去の学習や経験を適用して得られた判断力や習慣のことである。
これは違うだろうと判断できそうです。
この感覚が何よりも大切です。
こう思えることで,選択肢4はとりあえず間違いではなさそうだと判断できそうなので,▲をつけます。
それでは,それ以外の選択肢も見てみましょう。
1 拡散的思考とは,問題解決の際に,1つの解答を探索しようとする思考方法である。
余談ですが,国家試験で,「思考」について出題されたのは,この時が初めてです。出題基準にあっても出題されていないものが実はまだあります。
これから今のカリキュラムのラストに向けて,穴埋めしていくように出題されることでしょう。
拡散的思考は,収束的思考とセットになるものです。
拡散的思考は,思考を広げていくもの。
収束的思考が,この選択肢のように,さまざまな事象を通して,一つの結論を見出す思考法です。
今は参考書に書いてあることですが,参考書に書いていないものが出題された時は,決して焦らないことです。なぜなら多くの場合,そこには正解は配置されないからです。
これが国試当日実践できれば,無駄なミスは防ぐことができるでしょう。
2 洞察とは,問題解決のための方法を1つひとつ試して,成功する手法を探していく思考方法である。
これを消去するためには,学習理論を理解していなければなりません。
洞察は知らなくても「洞察学習」は勉強したはずです。チンパンジーの実験でおなじみですね。
チンパンジーは,試行錯誤せずとも,高いところにあるバナナをたたき落とすことができました。
洞察も同じように「試行錯誤しない」と推測することができます。洞察は,別な言い方をすると「ひらめき」です。
試行錯誤しながら,解決策を見出すのはネコの実験で有名な試行錯誤です。
3 知能指数(IQ)は,知能検査から得られる生活年齢と暦年齢の比によって計算される。
知能指数の計算方法は,ほんとうに久々の出題です。
第10回では以下のような出題がありました。
問題110 知能指数に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
精神年齢(知能年齢)8歳6か月,生活年齢(暦年齢)7歳8か月の子どもの知能指数はいくらか。
1 90
2 91
3 110
4 111
5 上記の資料からは,算出できない。
知能指数をどのように計算するかは,知らなくても精神年齢が高ければ知能指数が高そうなことは推測できそうです。
しかし,この問題はとてもいじわるです。
精神年齢102か月
生活年齢(暦年齢)92か月
102÷92は,110.9となります。
四捨五入して111,つまり選択肢4が正解です。時間のない中で計算される問題で,さらに計算ミスは許されないという問題です。
今のカリキュラムではこんないじわるな問題は出題されません。
さて,今日の問題に戻ります。
生活年齢と暦年齢の比
となっていますが,第10回国試問題でわかるように,生活年齢と暦年齢は同じものです。
正しくは,精神年齢と生活年齢(暦年齢)の比です。
5 成人用知能検査であるWAISは,フランスのビネー(Binet,A)によって開発された。
ビネーは,正解で初めて知能検査を開発して人物として知られます。
それがビネー式知能検査です。日本版の田中ビネー知能検査が知られます。これによって算出されるのが知能指数(精神年齢÷生活年齢)です。
成人用知能検査であるWAIS(ウェイス)は,ウェクスラーが開発したものです。
対象年齢は,16歳から90歳11か月です。AはAdultを意味しています。
児童用知能検査は,WISC(ウィスク)です。
対象年齢は,5歳から16歳11か月です。Cは,Childrenを意味しています。
低年齢児用知能検査は,WPPSI(ウィプシ)です。
対象年齢は,2歳6か月から7歳3か月です。Pは,Preschool&Primaryを意味しています。
WPPSIは,乳児には使えません。社会福祉士の国家試験には出題されたことがありませんが,乳児にも使える知能検査として,
遠城寺式乳幼児分析的発達検査
新版K式発達検査
があります。これらはいずれも日本で開発されたものです。
もう想像はついているかと思いますが,WAIS,WISC,WPPSIのいずれにもWがついていますが,このWは,Wechslerを意味しています。
知能検査はビネー式に比べるとウェクスラー式のほうが,内容が高度です。
ビネー式は,単に知能指数を算出するのに対して,ウェクスラー式は,「言語理解」「知覚推理」「ワーキングメモリ」「処理速度」の4つの指標と,そこから全検査知能指数(FSIQ)を算出することができます。
全体知能指数の平均は90~109ですが,各指標の数値にばらつきがある場合は要注意です。
第33回では以下の出題がありました。
第33回・問題13 心理検査に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 特別支援学級への入級を検討したい子どもの知能検査を学校から依頼されたので,ロールシャッハテストを実施した。
2 改訂長谷川式簡易知能評価スケールの結果がカットオフポイントを下回ったので,発達障害の可能性を考えた。
3 10歳の子どもに知能検査を実施することになり,本人が了解したので,WAIS-Ⅳを実施した。
4 投影法による性格検査を実施することになったので,矢田部ギルフォード(YG)性格検査を実施した。
5 WISC-Ⅳの結果,四つの指標得点間のばらつきが大きかったので,全検査IQ(FSIQ)の数値だけで全知的能力を代表するとは解釈しなかった。
正解はわかりますね。選択肢5が正解です。
なお,カットオフポイントとは,判断するための基準の点数です。
たとえば,改訂長谷川式簡易知能評価スケールのカットオフポイントは,20点です。この点数を下回ると,認知症が疑われます。