福祉の歴史に関する問題の多くは,イギリスに関連するものです。
それは,イギリスが産業化の過程で経験してきた多くの失敗,成功の歴史は,現代に脈々と受け継がれているからにほかなりません。
歴史は苦手な人も多いと思いますが,イギリスを中心に据えて比較すると覚えやすいものもあります。
ぜひ工夫してみてください。
前回の労災保険について,一つ補足です。
建設現場や工場などで「安全第一」と書かれているものを見たことはないでしょうか。
労災保険は,労働者保護のためのものである,と何度も書きました。
もちろん労働者のための「安全第一」ですが,雇用者側にとっては保険料を上げないための意味があります。
前回の「国の役人は頭が良い」というのは,そのバランスを考えたシステムをつくったという意味で書きました。
さて,それでは今日の問題です。
第26回・問題54
事例を読んで,障害年金制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
〔事例〕
Lさんは,大学在学中に20歳となり国民年金の第1号被保険者となったが,学生納付特例制度を利用し,国民年金保険料の納付は行っていなかった。大学卒業後に民間企業に就職したが,入社1年後に精神疾患の診断を受け,療養のために退職した。Lさんは障害年金を受給したいと考えている。
1 Lさんが,国民年金法が定める障害等級2級に該当すると認定を受けたとしても,学生納付特例制度により納付を猶予された保険料を初診日の前に追納していなければ,障害基礎年金は支給されない。
2 障害認定日に障害の状態に該当しないとされた場合であっても,10年後に裁定請求し障害等級2級と認定されたときは,Lさんに対して障害基礎年金が支給される。
3 Lさんが障害厚生年金を受給するためには,精神疾患による障害認定日が厚生年金保険の被保険者期間内でなければならない。
4 精神疾患による障害が,国民年金法が定める障害等級2級に該当する場合,Lさんに支給される障害基礎年金の支給額は老齢基礎年金の満額の1.25倍となる。
5 Lさんの精神疾患が業務災害によるものであり,労災保険から障害補償年金が支給される場合,Lさんに対して障害基礎年金は支給されない。
我が国の5つの社会保険のうち,制度が複雑なのは,医療保険と年金保険だと思います。
制度は細かいですが,社会福祉士は社会保険労務士ではないので,細かい制度までは知る必要はありません。
制度の骨格を押さえておけば,何とか対応できるものが多いように思います。
ミクロの視点で見ていたらわかりにくいかもしれません。
社会保障はマクロの視点でとらえるのが大切です
今日の問題は,年金保険です。
年金保険の歴史を少し見ていきますね。
年金保険の始まりは,戦費調達のために,1941年のいわゆるブルーカラーを対象とした労働者年金保険法です。
1944年にホワイトカラー,女性に対象を拡大し,厚生年金保険法に改称し,現在に至ります。
農林水産業者や自営業者などに対する年金は,1954年に国民年金法が成立し,1961年に施行されました。これによって国民皆年金が実現しています。この時に公務員の恩給が共済年金に変わっています。
この当時は既に国民の平均寿命は長くなり始めていましたが,男女ともに70歳には至らず,定年後10年あまりで亡くなる時代。社会保障関係費の内訳では,なんと生活保護費が最も多い時代でした。
昭和60年に,基礎年金が導入され,各制度間の格差の均衡を図ります。
そして平成27年10月に共済年金が厚生年金に一元化されました。
それでは,詳しく見ていきましょう。
1 Lさんが,国民年金法が定める障害等級2級に該当すると認定を受けたとしても,学生納付特例制度により納付を猶予された保険料を初診日の前に追納していなければ,障害基礎年金は支給されない。
障害年金に関するものです。
年金保険には,老齢年金,障害年金,遺族年金があります。
老齢基礎年金と障害基礎年金・遺族基礎年金の大きな違いは,老齢基礎年金は40年間保険料を納付した場合に満額支給され,期間が短くなるにつれて減額制がとられているものに対し,障害基礎年金・遺族基礎年金は定額制で減額制は取られていないことです。
それでは話を戻します。
Lさんは,学生時代に「学生納付特例制度を利用し,国民年金保険料の納付は行っていなかった」とのことです。
その後,民間企業に就職しているので,その時に保険料を納付していると考えられます。
障害基礎年金は短い納付期間であっても,定額制なので満額支給されます。
よって×。
2 障害認定日に障害の状態に該当しないとされた場合であっても,10年後に裁定請求し障害等級2級と認定されたときは,Lさんに対して障害基礎年金が支給される。
これはちょっと難しいです。
とりあえず▲を付けておきます。
調べてみると,これは事後重症請求と言うそうです。65歳まではできるとのことです。
よって正解。しかし,この時点ではまだ確定していません。
3 Lさんが障害厚生年金を受給するためには,精神疾患による障害認定日が厚生年金保険の被保険者期間内でなければならない。
障害認定日とは,初診日から1年6か月です。
障害認定日ではなく,初診日なので×。
4 精神疾患による障害が,国民年金法が定める障害等級2級に該当する場合,Lさんに支給される障害基礎年金の支給額は老齢基礎年金の満額の1.25倍となる。
障害基礎年金が1級の場合は,老齢基礎年金の1.25倍となります。2級の場合同額です。これは厚生年金も同じです。よって×。
老齢年金と違い,障害年金に加算があるのは,老齢年金の場合は,若いうちには働いているので,蓄えはあると考えられることに対し,障害年金の場合は,中途障害でなければ,基礎年金がすべての収入であることが考えられます。
とても厳しい生活を強いられるのが想像つきます。
それにもかかわらず,障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)ができたときは,介護保険と同じように,サービス利用に対し,定率の利用者負担(応益負担)を課しました。
これが問題となり,応能負担に変わりました。
しかしこれだと実質的に措置制度の時代とそれほど変わりません。
権利として利用するという意識に変わるためには,応益負担は変えず,障害年金を上げるということを主張すべきだったのではないか,とも思ったりします。
これと同じように,生活保護の給付が最低賃金よりも高いということが問題となり,生活扶助の給付水準の引き下げを行いました。しかし,生活保護は,最低限の生活保障のわけですから,引き下げるのではなく,最低賃金を上げるようにすべきだったのではないでしょうか。
この時は,売れっ子芸能人の身内が生活保護を受けていることが社会的なバッシングを受け,その社会的な空気の中で引き下げが行われました。
世帯人数が多い場合は,逆転現象が起きますが,生活保護世帯の多くは,一人世帯です。
一人世帯では逆転現象は起きていませんでした。
国の役人はそのことは示さず,タイミングを図って引き下げを実施しました。ちょっと残念な出来事です。
5 Lさんの精神疾患が業務災害によるものであり,労災保険から障害補償年金が支給される場合,Lさんに対して障害基礎年金は支給されない。
労災保険は,労働者保護のためのものです。障害補償年金と障害基礎年金は併給できます。
この場合は,障害基礎年金は全額給付され,障害補償年金が減額調整されます。
よって×。
ただし,注意が必要なのは,20歳以前に障害があり,20歳になって障害基礎年金が給付されている場合,障害補償年金が給付されると障害基礎年金は全額停止となります。
なぜなら,20歳以前の障害で障害基礎年金の給付には所得制限があるからです。
年金保険は,制度が複雑なので覚えることが多く大変ですが,過去問や模擬問題などで慣れておきましょう。