我が国の社会保険制度は5つ
社会保障制度審議会50年勧告で述べられたように日本の社会保障の中心は,社会保険です。
今見てきている「社会保障」は,5つある我が国の社会保険制度のすべてを学ぶ科目です。
先日「社会保障を制する者は国試を制する」と書いたように,この科目はとても重要です。
ほかの科目とつながる内容も多いため,勉強を積み重ねていれば,ほかの科目でも点数が取れていくようになるでしょう。
さて,今日の問題で取り上げるものは我が国最初の社会保険となった医療保険です。
戦前にはその原型が出来上がっています。
1922年にブルーカラーを対象とした健康保険法,1938年に農林水産業等従事者などを対象とした国民健康保険法が成立しています。
健康保険法は労働争議対策,国民健康保険は屈強な兵士を送り出すためにできたものです。
年金保険と同じく複数の制度で国民皆保険を実現しています。制度は複雑ですが,おそらく相談援助職にとって最も身近で使う知識だと思います。
また自分自身でも使うことも多いことでしょう。ゼロからの知識の積み上げでないので,知っていることを手掛かりに覚えていきましょう。
それでは今日の問題です。
第26回・問題55
健康保険の給付に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 健康保険組合は,人間ドックなどの健康診査を療養の給付の対象とすることができる。
2 受診時の自己負担の額は,被保険者本人については3割であるが,被扶養者である義務教育就学前の児童については1割となっている。
3 高額療養費は,1年間に被保険者が支払った健康保険と介護保険の自己負担額の合計が基準額を超えた場合に支給される。
4 薬事法上は承認されたが,薬価基準に収載されておらず医療保険が適用されない医薬品を用いて治療を行う場合,保険外併用療養費が支給されることがある。
5 被保険者本人が出産した場合には,出産手当金が支給されるため,出産育児一時金は支給されない。
日本の平均寿命が延びてきた理由の一つは,国民皆保険があるからと言えます。
皆保険ではなかった時代には,病院にかかることは容易ではなかったことでしょう。
日本の医療保険は,保険証を提示すれば保険指定の医療機関ならどこでも自由に診療を受けることができるフリーアクセスが特徴です。
そのために国民医療費が年々上昇することにもつながっています。
しかし国際比較では日本のGDP比は決して高い部類ではありません。
さてこの問題は医療保険の中の健康保険制度に関する問題です。
健康保険制度は,中小企業の従業員が加入する協会けんぽ。主に大企業の従業員が加入する健康保険組合(健保組合)。公務員等が加入する共済組合があります。
それでは詳しく見ていきましょう。
1 健康保険組合は,人間ドックなどの健康診査を療養の給付の対象とすることができる。
健保組合は,先述のように主に大企業の従業員が加入する制度です。
協会けんぽと違って,法定給付のほかに付加給付を設けることができる,保険料は組合独自に決める,などがあります。
療養の給付とは,被保険者が業務以外で病気やけがをしたとき,健康保険で治療を受けることです。
ここで「被保険者が業務以外」と書いたのは,業務上で病気やけがをした場合は,労災により給付を受けるためです。
健康保険よりも労災保険の方が優先されるので,労災なのに健康保険を使ってはなりません。
ところが労災保険にはメリット制があるため,事業場では労災を起こしたくありません。保険料が上がってしまうためです。
そこで行われるのが労災隠しです。労災隠しは犯罪です。
話を戻します。
療養の給付の範囲は以下のように定められています。
・診察
・薬剤または治療材料の支給
・処置・手術その他の治療
・在宅で療養する上での管理,その療養のための世話,その他の看護
・病院・診療所への入院,その療養のための世話,その他の看護
健康診査は療養の給付には含まれません。
よって×。
ただし,健保組合は療養の給付以外にも自由に付加給付を定めることができます。
そのため,組合によっては検診も付加給付するところもあるかもしれません。
協会けんぽには付加給付がありません。
2 受診時の自己負担の額は,被保険者本人については3割であるが,被扶養者である義務教育就学前の児童については1割となっている。
子どもがいないからこういう問題は不利だと思う人もいるかもしれません。
しかし制度をしっかり知らず中途半端な知識だったらこの手の問題は引っ掛けられてしまいます。そのため子どもがいてもいなくてもそんなに変わらないと感じます。
義務教育就学前の児童の自己負担の額は,現在は2割です。
よって×。
なぜ子どもがいると引っ掛けられてしまいやすいかというと,子育て支援は自治体の重要な施策であるため,中学生までの医療費の自己負担分の給付,義務教育就学前の児童の自己負担の1割分を補助,など自治体によってさまざま実施されていることがあるからです。
3 高額療養費は,1年間に被保険者が支払った健康保険と介護保険の自己負担額の合計が基準額を超えた場合に支給される。
高額療養費制度は,この科目よりも「保健医療と福祉」の出題範囲です。
高額療養費制度は,1か月の自己負担額が基準額を超えたとき,超えた分が償還払いされるものです。多数該当や世帯合算などがあります。
健康保険と介護保険の自己負担額の合計が基準額を超えた場合に支給されるのは,高額介護合算療養費です。
よって×。
4 薬事法上は承認されたが,薬価基準に収載されておらず医療保険が適用されない医薬品を用いて治療を行う場合,保険外併用療養費が支給されることがある。
保険外併用療養費もどちらかと言えば「保健医療と福祉」の出題範囲です。
ほかの科目と緊密に関連しあっているのがわかるでしょう。
保険外併用療養費には「評価療養」「選定療養」「患者申出療養」があります。
評価療養は,先進医療や治験にかかる診療です。
選定療養は,差額ベッド代,予約診療などです。
患者申出療養は,未承認薬等を将来的に保険適用するデータ,科学的根拠を集積することを目的としたもの。基礎部分は保険給付ですが,特別料金の部分は自己負担です。評価療養が行われていないなどで,被保険者が申し出ることで行われる意味で,患者申出療養と呼ばれます。
薬価基準に収載されておらず医療保険が適用されない医薬品を用いて治療を行う場合は,評価療養になる場合があります。
よって正しいことになります。
5 被保険者本人が出産した場合には,出産手当金が支給されるため,出産育児一時金は支給されない。
出産手当金は,被保険者本人が出産のために会社を休んだ場合に給付されるものです。しかし,事業主から給料が支払われる場合は,その金額によって減額あるいは給付されないこととなります。
一方,出産育児一時金は,被保険者本人あるいはその被扶養家族が出産した場合,給付されるものです。双子を出産した場合は2倍となります。
出産手当金は所得補償,出産育児一時金は出産費用支援,というように給付目的が違います。併給されないのはつじつまが合わないことになってしまいます。
もちろん併給できます。
よって×。
出産・育児支援は子ども・子育て支援新制度よりも以前から存在していますが,今の社会保障制度改革は全世帯対応型を掲げているだけに重要です。