第31回国試の出題傾向
国試問題の文字数は,第24回の約57,000字をピークとして,その後毎年どんどん減らしてきましたが,やっぱり無理があったのでしょう。第31回国試問題の文字数は,前回よりも約4,000字増えました。
問題を読むだけで精いっぱいだった,という感想が聞かれるのはこの理由もあるでしょう。
極端な増加ではないですが,言い回しの工夫ができるので,試験委員は問題を作りやすくなったのは間違いないでしょう。
文字数を制限された中で間違い選択肢をそれっぽくつくるのは極めて難しいことです。
実際に自分で問題をつくってみるとわかります。
文字数が長い問題は,慎重に読まなければ引っ掛けられる率が高くなります。
近年出題されていた「セット入れ替え作問法」はほとんど見られませんでした。
その反面,近年の社会福祉士の国試ではほとんど見られなかった,すべての選択肢を入れ替える問題が復活しています。
「セット入れ替え手法」よりもすべての選択肢を入れ替える問題の方が,問題の難易度が下がります。そして試験委員は問題をつくるのが楽です。
問題の文字数を増やして難易度を上げて,すべての選択肢を入れ替えることで難易度を下げる
という2つの戦略が取られています。
文字数だけに着目すると,第31回とほぼ同じ文字数だったのは,第28回です。
第28回は,2つ選ぶ問題が今までの中で最も多い20問でしたが,第31回ではほぼ同じ21問です。第30回は11問しかなかったので,実に10問も増えたことになります。
2つ選ぶ問題は1つ選ぶ問題より正解率は半分となります。
第28回問題と違う点は,第28回ではほとんど見られなかったすべての選択肢を入れ替える問題が多く見られることです。
このように,国試は意図的に様々な要素を取り入れて出題しています。
ボーダーラインの予測は決して単純なものではありません。そしてそこに試験センターの恣意が加わります。
果たして,第31回の合格基準点はどのようになるでしょうか。
さて,第32回に限らず,国試に合格するための基本です。
丸暗記法は国試では思うようなパフォーマンスが発揮できないので,要注意です。
丸暗記の勉強法とは,参考書の文章をノートに書き写すといったものです。
国家試験問題は,法制度の知識が求められる問題と理論の知識が求められる問題に大別されます。
法制度は,丸暗記でも対応可能ですが,書いて覚えるということができるほど覚える量は少なくないので,すべてを書いて覚えることはできません。おそらく途中で挫折します。
この辺りの勉強は,多くの方が語っているので,それを参考にしながら,早い時点で自分なりの勉強法を確立するようにしましょう。
理論系は,必ず自分の頭で理解することが必要です。
前回話題にした問題です。
第31回・問題98 ケンプ(Kemp,S.)らによる「人―環境のソーシャルワーク実践」に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 環境を「知覚された環境」,「自然的・人工的・物理的環境」など5種に分類した。
2 ソーシャルネットワークの活用に対し,一定の制限を加えた。
3 クライエントが抱える欠損の修正による問題解決に主眼を置いた。
4 クライエントの環境よりもクライエント自身のアセスメントを強調した。
5 支援者とクライエントは,それぞれ異なる基盤に存在するものと捉えた。
こんなものは勉強したことがない,困った,と思った人もいるでしょう。
無力感にさいなまれるかもしれません。
ケンプは知らなくても,「人―環境のソーシャルワーク実践」という著書名(?)が明示されているので,システム理論のことを述べているものだと想像することが必要です。
システム理論は,クライエントは独立した存在ではなく,クライエントとクライエントを取り巻く環境との交互作用に着目するものです。
正解は,選択肢1ですが,これを正解にするのはとても難しいです。
しかし,システム理論を理解していれば,選択肢1以外の選択肢は消去できるでしょう。その結果として選択肢1が残ります。
<今日の一言>
初めて出題されるものは,深掘りしません。深掘りした問題を出題するなら,多くの人が解けない問題として計算したうえでの問題です。
第31回国試では,問題26「ヘイトスピーチ解消法」などがその例です。
このような問題があると「どんな勉強をしたら合格するのだろう」と不安になるかもしれません。しかし,基本をしっかり押さえていけば必ず合格基準点を超えます。
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