毎年国試は,少しずつ形を変えて出題されます。
同じようには出題してくれません。
そこが難しいところです。
第31回の問題を紹介します。
第31回・問題23 福祉社会づくりに関わる次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ポランニー(Polanyi,K.)の互酬の議論では,社会統合の一つのパターンに相互扶助関係があるとされた。
2 ブルデュー(Bourdieu,P.)が論じた文化資本とは,地域社会が子育て支援に対して寄与する財のことをいう。
3 ホネット(Honneth,A.)が論じた社会的承認とは,地域社会における住民による福祉団体に対する信頼と認知に関わる概念である
4 デュルケム(Durkheim,E.)が論じた有機的連帯とは,教会を中心とした共助のことをいう。
5 バージェス(Burgess,E.)が論じた同心円地帯理論は,農村の村落共同体の共生空間をモデルにしている。
この問題でのいわゆる一見さんは,「ポランニーさん」と「ホネットさん」です。
常連さんであるデュルケムさんを出題してくれているので,そこを手掛かりにすると,第31回国試の特徴である「すべての選択肢の入れ替え問題」ではないことがわかります。
有機的連帯は,違った性質をもった個人の集まりです。時には共助もあるでしょう。
しかし「教会を中心とした」であれば,信者の集まりと考えられるので,どちらかと言えば「機械的連帯に違いのでは?」と見当をつけられます。
入れ替え問題ではないと考えられるので,人名を取って,問題を作り変えます。
1 互酬の議論では,社会統合の一つのパターンに相互扶助関係があるとされている。
2 文化資本とは,地域社会が子育て支援に対して寄与する財のことをいう。
3 社会的承認とは,地域社会における住民による福祉団体に対する信頼と認知に関わる概念である。
4 有機的連帯とは,教会を中心とした共助のことをいう。
5 同心円地帯理論は,農村の村落共同体の共生空間をモデルにしている。
このようにみると,選択肢1の答えはわからないので,▲。
文化資本は,過去に数回出題されているように,家が持っている文化的財,たとえば「親の知識」,「家にある本」,「優雅な所作」などをいいます。親から子,子から孫へと受け継がれていきます。
社会的承認の意味はわからなくても,福祉団体に対するものだけを指すとは思えません。
同心円地帯理論は,都市が発展していくときの様子です。都心を中心として,そこからの距離が大体同じ地帯では,同じような人たちが居住する,といったものです。
現行カリキュラムではほとんど出題されていませんが,旧カリキュラムの「社会学」では,同心円地帯理論,スプロール現象などシカゴ学派の理論がよく出題されたものです。
同心円地帯理論がわからなくても,アメリカ人が農村の村落共同体に興味をもつことはあまり考えられないと思います。
そんなことで,よくわからないけれど,選択肢1が残るのです。
改めて,選択肢1をよく見てみると,ソーシャルキャピタルの基盤である「互酬性」「信頼性」,そこから生まれる紐帯(ちゅうたい)を述べているのではないかと思います。
<今日の一言>
こんな問題は,小さなヒントを手かがりにして考えることの重要性を実感した問題です。
ただし,この問題のようなものは正解率が低いと考えられるので,正解できなくても気にすることはありません。
因みに理論系の問題で人名を出しているのは,人名を入れないと,問題の正確性が担保できないという理由もあります。
たとえば,限界集落の提唱者は出題されたことはありませんが,大野晃先生という方です。
限界集落は大野先生の定義で固まっているので名前がなくてもあってもそれほど問題はありません。
しかし,理論は言ったもの勝ち。様々な人が様々なことを言います。絶対に覚えておきたいのは,人名ではなくその内容です。つまりポランニーさんやホネットさんではなく,述べた内容を特に意識して勉強することが大切です。
ただし,この人たちが出題されるのは,第32回ではなく,近くても数年先でしょう。
第30回で出題された人物(外国人)
https://fukufuku21.blogspot.com/2018/02/blog-post_18.html
一見さんが第31回で出題されていないことがわかります。
最新の記事
消費者契約法
契約を取り消すことができる制度として,クーリング・オフ制度があります。 しかし,利用できるのは,訪問販売や電話に勧誘などによって契約したものに限られます。 消費者契約法は,以下のような場合に取り消すことができます。 出典:消費者庁「知っていますか? 消費者契約法―早わかり!消費...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
診断主義は,1920年代に登場して,現在は,心理社会的アプローチに発展しています。 機能主義は,機能主義の批判的な立場で,1930年代に登場して,現在,機能的アプローチに発展しています。 それでは,今日の問題です。 第32回・問題101 ソーシャルワーク実践理論の基礎に関する次...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
様々なアプローチが第31回国試までに出題された回数を整理すると以下のようになります。 アプローチ名 出題回数 ・心理社会的アプローチ 9 ・機能的アプローチ 4 ・問題解決アプローチ ...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...
-
歴史が苦手な人は多いですが,イギリスの歴史は覚えておきたい歴史の代表です。 今回のテーマは,ブース,ラウントリーの貧困調査です。 第34回国家試験までの出題回数を調べてみると ブース 12回 ラウントリー 16回 どちらの出題頻度も高いですが,ラウントリーのほうがより出題頻度が...
-
ソーシャルワークは, ケースワーク グループワーク コミュニティワーク(コミュニティオーガニゼーション) とそれぞれの専門領域で発展していきました。 ソーシャルワークの統合化とは,それらのソーシャルワークとしての共通基盤を明確にすることを意味しています。 そのきっかけとなったのが...