社会福祉士の国家試験の合格率は,約20~30%の間で推移しています。
合格ラインは,問題の難易度による調整だけではなく,合格率を上下させることで調整していることがわかります。
前回紹介したように,問題には難しいものから簡単なものがあります。
分類すると以下のようになります。
①極めて難しい
②やや難しい
③普通
④比較的簡単
⑤簡単
合格ラインを超えるためには,出題の大部分を占める
②やや難しい
③普通
④比較的簡単
を攻略が欠かせません。
社会福祉士の国試には,精神保健福祉士の国試でも出題される「共通科目」と社会福祉士だけに出題される「専門科目」があります。
大学によっては,介護福祉士,社会福祉士,精神保健福祉士の3つの受験資格が得られるところもあります。
3つの国試を受験する人のために,介護福祉士は別日程,精神保健福祉士の専門科目は土曜日の午後,社会福祉士と精神保健福祉士の共通科目は日曜日の午前,社会福祉士の専門科目は日曜日の午後に実施されています。
共通科目と専門科目の内容が重なって出題されることはほとんどみられません。
しかし第31回国試では,そのような出題が一問ありました。
今回は,ここから基本を押さえることの重要性を考えたいと思います。
第31回・問題42 福祉行政における都道府県の役割に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 老人福祉法の規定により,特別養護老人ホームに入所させる権限を持つ。
2 介護保険法の規定により,介護保険の保険者とされている。
3 「障害者総合支援法」の規定により,介護給付の支給決定を行う。
4 児童福祉法の規定により,障害児入所施設に入所させる権限を持つ。
5 知的障害者福祉法の規定により,障害者支援施設に入所させる権限を持つ。
第31回・問題136 医療型障害児入所施設に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 医療法に規定する病院として必要な設備を設けることとなっている。
2 環境上の理由により社会生活への適応が困難になった児童が入所対象である。
3 児童の遊びを指導する者を配置しなければならない。
4 障害児入所給付費に関する事務は市町村が行っている。
5 虐待を受けた児童ではないことが入所の要件となっている。
問題42は「福祉行財政と福祉計画」,問題136は「児童と家庭に対する支援と児童・家庭福祉制度」で出題されたものです。
「②やや難しい」ものに分類されるのではないでしょうか。
問題42の正答は,選択肢4
問題136の正答は,選択肢1
障害児に関する役割は
入所支援 → 都道府県
通所支援 → 市町村
とても複雑で覚えにくいものなので,共通科目でも専門科目でも出題されたのでしょう。
理解がしっかりできていた人は2点ゲットできました。逆に理解できていないと2問とも落としてしまいます。
問題136は,医療型障害児入所施設の出題です。医療型障害児入所施設のサービス内容がわかっていないと正解できないように見えますが,選択肢4を消去できると,
1 医療法に規定する病院として必要な設備を設けることとなっている。
が残ります。
問題136を正解できるためには,選択肢4を消去することが必要です。
そうすれぱ,医療型障害児入所施設がわからなくても,正解選択肢が残ります。
障害児入所支援が都道府県の役割でなければならない理由があります。
通所は親と一緒にいることができます。入所は親と引き離されることを意味します。
そのため,通所に比べて,入所判定はより高い専門性が求められます。
専門性の高いものは,広域的自治体である都道府県の役割です。
<今日の一言>
都道府県の役割と市町村の役割は,法制度に関連する科目では,必ず出題されます。
こういったところを正確に押さえていくことで,得点力は上がります。
国試では,理解しにくいところがねらわれます。
国試合格に欠かせないのは,確実な知識です。
基礎力を備えることが合格の決め手になるのは,いつも同じです。
時事問題のようなものが出題されると何をどのように勉強したらよいかわからなくなるかもしれません。
もちろんそのような問題でも,正解できないよりも正解できるほうが良いです。
しかし,合格には,今日の問題のような問題で確実に得点できる基礎力をつけることが何よりも大切です。
国試の大部分を占めるのは,
②やや難しい
③普通
④比較的簡単
です。
これらの攻略が欠かせません。
最新の記事
精神保健福祉法に規定される入院形態
精神保健福祉法は,社会福祉士の国家試験ではあまり出題されて来なかった法制度です。 近年になってようやく出題されるようになってきています。 今日のテーマは「精神保健福祉法に規定される入院形態」です。 ① 任意入院 任意入院は,看護職員によって入院患者が殺された宇都宮病院...
過去一週間でよく読まれている記事
-
診断主義は,1920年代に登場して,現在は,心理社会的アプローチに発展しています。 機能主義は,機能主義の批判的な立場で,1930年代に登場して,現在,機能的アプローチに発展しています。 それでは,今日の問題です。 第32回・問題101 ソーシャルワーク実践理論の基礎に関する次...
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
模擬試験を受験するとその場で解答をもらえることが多いので,すぐ自己採点する人も多いことと思います。 しかし,ここで気を付けなければならないのは,模擬試験は,実際の国家試験よりも点数が取りにくい傾向にあることです。 そこを押さえておかないと「あれだけ勉強したのに点数が取れな...
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
ソーシャルワークは,外国生まれです。 これから社会福祉士を目指そうと思う人は,カタカナの言葉が多いので,覚えるのがとても大変だと思うでしょう。 しかし,それらをうまく使いこなすことができれば,とてもかっこよいと思いませんか? ただし,かっこよいから使うのではありません。専門用語は...
-
社会保障制度審議会は,かつて内閣総理大臣の諮問機関として,社会保障制度を審議していたもので,現在は廃止されています。 国家試験に出題されている同審議会の勧告は,1950年勧告,1962年勧告,1995年勧告の3つです。 〈1950年勧告〉 1950年勧告は,社会保障の範囲と方法を...