第31回国試は,平成31年2月3日に実施されました。
社会福祉士の国家試験は平成元年に始まったので,社会福祉士は平成時代とともに歩んできた国家資格だと言えるでしょう。
第31回国試では,問題84でアクション・リサーチが正解となりました。
第31回・問題84 社会調査に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 統計調査とは,社会事象を質的に捉えることを目的とした社会調査である。
2 市場調査とは,行政の意思決定に役立てることを目的として市場の客観的基礎資料を得るための社会調査である。
3 世論調査とは,自治体の首長の意見を集約するための社会調査である。
4 アクションリサーチとは,特定の状況における問題解決に向けて調査者が現場に関与する社会調査である。
5 センサスとは,企業の社会貢献活動を把握することを目的とした社会調査である。
正解は,選択肢4です。
アクションリサーチが今まで出題されていたのは,出題基準では「6.質的調査の方法」でした。
それが今回は,「1.社会調査の意義と目的」で出題されました。
ここに試験委員のメッセージ性があるように感じます。
「社会調査の基礎」を苦手にしている受験生は多いです。
現場実践になじみがないからでしょう。
「社会調査はソーシャルワークと親和性があることに気が付いてほしい」というメッセージ性があったのではないでしょうか。
国試で「1)社会調査の意義と目的」から出題されたのは,第29回と第31回の2回のみです。
第29回では,
社会踏査とは,社会的な問題を解決するために行われる調査である。
が正解となっています。
第29回と第31回の正解選択肢には共通するものがあるように感じます。
ソーシャルワークの一手法にはケースワーク(個別援助技術)があります。
ケースワークは,COS(慈善組織協会)の友愛訪問の活動から,リッチモンドが科学性を追求したところから発展してきたものです。
しかしソーシャルワークはケースワークだけではありません。
そのために,「ソーシャルワークのグローバル定義」では,マクロレベル(政策レベル)を重視しました。
そこにコミットするための手法が,アクション・リサーチや社会踏査などを通じたソーシャルアクションです。
<今日の一言>
国試には,メッセージ性が存在します。
メッセージ性があるのは,ズバリ「正解選択肢」です。
そういった視点で国試問題を眺めてみると別な一面が見えてくることがあります。
メッセージ性とは,その問題を出題する意義です。
社会福祉士の国家試験は,社会福祉士に必要な知識,能力を問います。
もちろん基礎的な知識は欠かせませんが,記憶力に優れた社会福祉士を養成しようとしているわけではありません。
柔軟な思考と豊かな発想力も必要です。
最新の記事
働者災害補償保険制度
日本の社会保険は,5種類あります。 年金保険制度と医療保険制度は,従来あった制度を利用して,国民皆保険・皆年金を構成しているため,制度が複雑です。 それに比べると,戦後にできた労働保険(労災保険と雇用保険)は,制度がシンブルです。 今回は,そのうちの労災保険(労働者災害補償保険...
過去一週間でよく読まれている記事
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
まずは戦後の社会保障制度の変遷を考えてみたいと思います。 昭和 20 年代 は,国民全体が貧しく,救貧の時代です。救貧の中心的制度は,公的扶助です。 昭和 30 年代 に入ると,高度経済成長の時代になり,防貧の時代になります。防貧の中心的制度は,社会保険で...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
コミュニティはさまざまな人が定義していますが,ヒラリーの研究によって,それらに共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが示されました。 しかし,現代では,空間が限定されないコミュニティが広がっています。それをウェルマンは,「コミュニティ開放論」と...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...
-
今回は,ベヴァリッジ報告を取り上げたいと思います。 ベヴァリッジは,5大巨悪(5つの巨人)を以下の方法で根絶することを考えました。 窮乏 ➡ 社会保険制度 疾病 ➡ 保健・医療制度 無知 ➡ 教育・科学制度 不潔 ➡ 住...