社会福祉士の国家試験は,平成元年から実施されて,平成31年2月現在までに31回実施されています。
年度によって,若干の上下はありますが,合格率は25~30%の範囲です。
国家試験の実施機関である「公益財団法人社会福祉振興・試験センター」は,合格基準点の根拠を明らかにしていません。しかし合格率が合格基準点を決めるときのファクターになっていることは間違いありません。
そこで,今回は合格率の視点で合格できる勉強方法を考えてみたいと思います。
合格率を25%と考えてみると,受験者の4人に1人が合格する試験です。
倍率で言い換えれば,約4倍ということになります。
第31回国試は,第30回に比べて速報値では受験者数が2,000人ほど減少しています。第30回もその前年に比べると2,000人減少しています。
2年連続で2,000人ずつ減少していることになります。
福祉系大学の定員充足率がどうなっているのはわかりませんが,受験者の減少は充足率や社会情勢の変化によって,受験者数が減少したというよりも,第30回からの受験料値上げなどが影響しているように思います。
勉強しないで受験するいわゆる記念受験組が受験を避けている結果だと考えられます。
さらに,第30回国試では,第29回よりも2,000人合格者が増えていることから,例年の合格率なら不合格になって第31回に再受験することになっていた人がいなくなったと考えられます。
上位25%が合格するという構図が変わらなければ,問題の難易度が同じであれば,受験者数が減った分,間口は小さくなります。
そのため合格基準点も上がる可能性もあります。
しかし,合格が難しくなるかと言えば,そうでもありません。
なぜなら世の中には「10月から過去問を3回解けば合格できる」といった情報にあふれているからです。
「10月から過去問を3回解けば合格できる」と思っている人は,不合格組に入る確率が高いです。
なぜなら,第31回国試問題の文字数は若干多くなったといえども,日本語的な言い回しの不自然さで消去できる問題は少ないので,基礎力がないと高い得点が取れないのです。
さて,今日の問題です。
第31回・問題67 社会福祉法に定める福祉に関する事務所(福祉事務所)の組織と業務に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 福祉事務所の指導監督を行う所員及び現業を行う所員は,都道府県知事又は市町村長の事務の執行に協力する機関である。
2 現業を行う所員は,援護,育成又は更生の措置を要する者の家庭を訪問するなどして,生活指導を行う事務をつかさどる。
3 厚生労働大臣の定める試験に合格しなければ,社会福祉主事になることができない。
4 福祉事務所の長は,福祉事務所の指導監督を行う所員の経験を5年以上有した者でなければならない。
5 福祉事務所の指導監督を行う所員及び現業を行う所員は,社会福祉主事でなくてもよい。
正解は2です。
この問題の難易度はそんなに高くはないかもしれませんが,正解にたどり着くのはいわゆる消去法を使った人が多かったと思います。
つまり答えがすぐ分かりにくい問題であるということです。
国試問題150問のうち,7割程度がその手の問題です。
こういった問題は,試験委員が仕掛けたトラップにはまらないことが何よりも大切です。
試験委員が仕掛けるトラップとは,見間違い,勘違いを誘うことです。
人によっては「引っ掛け」と呼ぶ人もいるでしょう。
この問題にもトラップが仕掛けられています。
選択肢1は「協力」がトラップです。。
参考書には「協力機関」「補助機関」と書かれています。この問題では「機関」はついていません。
たった2文字がついていないだけで,うっかりミスを誘います。
何度も繰り返して勉強したはずなのに間違います。
どんなに勉強しても,国家試験の独特の緊張感の中では,うっかりミスは起きます。
もともと国家試験はそのように作られているので,当たり前だと言えます。
<今日の一言>
国家試験は,成績の上位25~30%が合格できる試験であるとするなら,今日の問題のようなタイプの問題でミスすることは致命的となりかねません。
日常生活でも,何かあるとあわててしまうような人は要注意です。
試験委員の仕掛けたトラップにはまらないように,慎重に慎重に問題を読むことが大切です。
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