2019年2月25日月曜日

グラウンデッド・セオリー・アプローチの基本手順

質的データを整理・分析する方法は,数多くあります。

社会福祉士の国試で,特に覚えておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。

まずは,こちらで基本手順を確認しましょう。

https://fukufuku21.blogspot.com/2019/02/blog-post_24.html


日本生まれのKJ法とアメリカ生まれのGTAは,とても似た手法です。

専門家は,全然違うものだ,というかもしれません。

しかし,あらかじめ分析軸をもたずに新しい発見をするということは,同じです。

それでは,早速今日の問題です。


第23回・問題83質的データの分析に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。

1 KJ法の目的は,集めた意見やデータの分類と集約を通して,新しい発想や仮説を創造することである。

2 会話分析は,発話者がいかにして相互行為を秩序立てて生み出すかを解明するために,会話の形式や構造ではなく,その内容に関心を向ける。

3 ソシオグラムでは,ある組織や集団の構成員同士の関係を,矢印のない無向グラフで表す。

4 グラウンデッド・セオリー・アプローチでは,データ収集とコーディングを繰り返した後,これ以上新しい概念やカテゴリーが出てこないと判断される状態を,現実的飽和という。

5 質的調査の信頼性と妥当性を高めるために,インタビュー,参与観察,質問紙調査など複数の調査法を組み合わせることを,エスノグラフィという。


聞いたことがないものが並んでいると思いますが,基本はKJ法とGTAです。

それでは解説です。


1 KJ法の目的は,集めた意見やデータの分類と集約を通して,新しい発想や仮説を創造することである。

これが正解です。

前回の問題では,GTAを正解にして,「これからこのように出題しますよ」と高らかに宣言しました。

今回は,KJ法を正解にしました。

この2回の出題で,質的データの整理と分析の基本が押さえられるようになりました。

KJ法はアイディアを発想するのにとても親和性があります。

具体的な進め方は,第29回で出題されていますが,付箋などを書き出したものを集約することで,新しいものを発見しようとするものです。


2 会話分析は,発話者がいかにして相互行為を秩序立てて生み出すかを解明するために,会話の形式や構造ではなく,その内容に関心を向ける。

これは間違いです。

会話分析は,内容ではなく,会話の文脈を分析するものです。
第30回にも会話分析が出題されていますが,その時も間違い選択肢です。

そこから,会話分析は,KJ法やGTAほど,優先的に覚えなければならないものではないことがわかります。

というか,絶対に覚えなければならないのは,KJ法とGTAです。

この文章は,注意深く読めば,正解にはなりなくい構造になっていることがわかります。

正解なら,

会話分析は,発話者がいかにして相互行為を秩序立てて生み出すかを解明するために,その内容に関心を向ける。

でよいはずです。

そうなっていないのは,間違い選択肢にするためです。

こういったところに気がつくセンスを養えば,得点力は確実に伸びます。
センスは,問題を解くことで養うことができます。


3 ソシオグラムでは,ある組織や集団の構成員同士の関係を,矢印のない無向グラフで表す。

これも間違いです。

ソシオグラムは,集団における人間関係を図式化したものです。

AさんとBさんという関係の中で説明すると・・・

AさんがBさんに好印象を持っているときは,AさんからBさんに向けた矢印でその関係を示します。

Bさんも好印象を抱いていれば,⇔ といった矢印が使われます。

関係が悪ければ, → に 「×」 をつけます。

刑事ドラマでは,被害者を中心として,被害者の周囲にいる人を関係をホワイトボードで示しているものを見たことがあるでしょう。

これがソシオグラムです。

矢印があることで関係性がわかります。

実際には,捜査本部に,そういったホワイトボードはないそうです。
視聴者にわかりやすく伝えるためのサービスらしいです。

捜査情報を捜査員が共有することもないそうです。

捜査員に先入観などを生じさせないためです。
あの捜査員が調べたから,自分は別なところを当たろう,といったことになれば,重要な事柄を見落とししまうことにもなりかねません。

それはさておき,「ソシオグラムは刑事ドラマのあれ」と覚えておけばよいと思います。


4 グラウンデッド・セオリー・アプローチでは,データ収集とコーディングを繰り返した後,これ以上新しい概念やカテゴリーが出てこないと判断される状態を,現実的飽和という。

これも間違いです。

前回既に紹介しましたが,これ以上何も出てこない状態は「理論的飽和」です。

データの収集と分析を繰り返して,ねずみも出てこないくらいになったら,「理論的飽和」といい,GTAではこの状態を目指します。

理論的飽和は,この時初めての出題でした。そのため,現在と違ってこの国試当時では,多くの参考書には載っていなかったと思われます。

しかし,これも注意深く考えると,消去できます。

「飽和」は,小学校の理科で習ったように,水の中の砂糖や,空気中の水分などかこれ以上,溶けない状態であることを指します。

そういったことを,思い出すことができれば,現実的飽和という用語は,GTAにはふさわしくないと思えるでしょう。

こういった想像力も得点力を高めることになります。


5 質的調査の信頼性と妥当性を高めるために,インタビュー,参与観察,質問紙調査など複数の調査法を組み合わせることを,エスノグラフィという。


これも間違いです。

知識が足りないと,何のことを言っているのかまったくわからないと思います。

エスノグラフィは,民族誌と訳されます。こういった言葉から,質的調査の原点が文化人類学にあることが感じられます。

エスノグラフィのエスノは,エスノチックやエスノ料理のエスノです。

一般的に,エスノチックやエスノ料理は,東南アジア系を指していうことが多いと思いますが,本来は「民族」を指す用語です。

観察法も原点は,文化人類学にあります。

現在のエスノグラフィは,文化人類学の意味から離れて,観察などで得られたデータを記述したものを指します。

トライアンギュレーションが,質的調査の信頼性と妥当性を高めるために,インタビュー,参与観察,質問紙調査など複数の調査法を組み合わせることです。

信頼性と妥当性は・・・

信頼性は,正しく測定できていること。
妥当性は,測定が安定していること。




<今日の一言>

社会福祉士の国試で出題される質的データの整理と分析は,KJ法とGTAが中心です。

繰り返しになりますが,この2つの理解は必須です。

これらを中心として,ほかの選択肢が配置されています。

軸をしっかり持っていれば,正解にたどり着く率はかなり高くなります。

別な言い方をするとあいまいにしか覚えていないと,今日の問題で出題されている「会話分析」「現実的飽和」なとが消去できないので,正解にたどり着くのは難しいです。

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