第31回国家試験の合格発表はまだですが,第32回のボーダーラインを考えてみたいと思います。
合格基準は,60%程度だと示されています。
実際のボーダーラインは,上に振れたり,下に振れたりしています。
最も上に振れたのは,第30回の99点。
最も下に振れたのは,第25回の72点。
この違いは,問題の難易度によるものです。
試験センターは難易度の根拠を示していませんが,試験センターが持っているデータから難易度を割り出していることは想像できます。
チームfukufuku21が予測しているのは,受験者全体の正答率は60%を基準と考えているのではないかということです。
あらかじめ問題1問ごとにも予測正答率が想定されていて,平均正答率が60%になるように難しい問題と易しい問題,そして中くらいの問題を適度にちりばめて出題しているのではないかと考えています。
解ける人が誰もいない難易度が高い問題があっても,全員が解ける問題が同じ数だけあれば,それらは相殺されます。
なお,難易度のばらつきを測るには,分散や標準偏差が用いられます。
豊富なデータから,予測正答率を出していても,実際の観測値,つまり受験者の正答率にはずれが生じます。
そのずれを補正したものが実際のボーダーラインとなります。
実際には,合格率30%にもこだわりがあるようなので,もう少しボーダーラインを割り出す作業は複雑になっていることでしょう。
さて,第32回国試のボーダーラインを考えてみます。
試験センターが最も理想とする国試の難易度は,受験者の30%が90点以上,と考えられます。
今までと同じようなスタイルで出題すれば,おそらく想定した正解率とそれほど変わらないと思います。しかし現在のカリキュラムになった時に国試の出題スタイルは新しいものを混ぜていくことが決められていることもあり,同じようなスタイルばかりを出題することができません。
試験センターは,「受験者の30%が90点以上」を理想としながらも,ずれが生じてしまうのはそんなところに要因があるように思います。
第32回のボーダーラインに限らず,そして第32回以降もボーダーラインは90点ラインを基準とすることでしょう。
試験センターは問題ごとの正答率は発表していませんが,正答率60%程度の問題は,決して難易度が高い問題ではありません。
しっかりした知識があれば解ける問題です。
<今日の一言>
国家試験問題には難しいものから簡単なものがあります。
分類すると以下のようになります。
①極めて難しい
②やや難しい
③普通
④比較的簡単
⑤簡単
④比較的簡単
⑤簡単
とはいうものの結果的にそうなっているだけで,実際に受験する人は簡単だとは思わないでしょう。
以下のようなバランスで出題されていたとします。
<例1>
①極めて難しい 5問
②やや難しい 20問
③普通 100問
④比較的簡単 20問
⑤簡単 5問
<例2>
①極めて難しい 10問
②やや難しい 15問
③普通 100問
④比較的簡単 15問
⑤簡単 10問
どちらも平均正答率が60%だとしても,受験者は<例2>の方が難しく感じるでしょう。
分散や標準偏差でも,<例2>の方が大きな数字となります。
しかし,<例1><例2>ともに普通の問題が大半です。
国試攻略には,このような問題を確実に得点できる基礎力と問題を読み解く力が必要です。
国試のボーダーラインは常に60%程度です。
誰も解くことができない問題を正解することよりも,国試の大部分を占める「しっかり勉強したら正解できる問題」でいかに点数を積み上げられるのかが大切です。
何度も受験している人は,「③普通」の問題を取りこぼしていないか,確認してみることが大切です。
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