生活保護には,原理・原則があります。
原理と原則の違いは,
原理 → 例外のないルール
原則 → 例外のあるルール
こんな押さえ方で十分でしょう。
基本原理
①国家責任の原理
②無差別平等の原理
③最低生活の原理
④保護の補足性の原理
基本原則
①申請保護の原則
②基準及び程度の原則
③必要即応の原則
④世帯単位の原則
それでは,今日の問題です。
第20回・問題22 生活保護法の原理・原則等に関する次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。
1 保護の目的は,最低限度の生活保障ではなく,自立の助長である。
2 保護は,性別,社会的身分,信条,人種等を問わず,自立意欲を有しているかどうかによって,無差別平等に行う。
3 民法の扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,原則として保護に優先して行われる。
4 保護は,申請行為が前提とされ,申請によらない保護は行われない。
5 保護は,個人又は世帯の必要に即応して,画一的に行われる。
この問題は,旧カリ時代の問題です。
この科目については,旧カリキュラムでも現行カリキュラムでも出題のされ方は,ほとんど一緒です。
それでは解説です。
1 保護の目的は,最低限度の生活保障ではなく,自立の助長である。
保護の目的は,最低限度の生活保障と自立の助長です。
よって間違いです。
2 保護は,性別,社会的身分,信条,人種等を問わず,自立意欲を有しているかどうかによって,無差別平等に行う。
原理は,例外のないルールです。
無差別平等の原理は,困窮に至った理由は問わず,困窮の事実に基づいて保護を実施します。自立意欲の有無は問われません。
よって間違いです。
いろいろなことを出題してきますが,無差別平等の原理なのですから,例外はないのです。
3 民法の扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は,原則として保護に優先して行われる。
これが正解です。
「保護の補足性の原理」です。
4 保護は,申請行為が前提とされ,申請によらない保護は行われない。
「申請保護の原則」に関する出題です。
原則は,例外のあるルールです。申請保護が原則ですが,急迫している場合は,申請によらない保護である「職権保護」が行われます。
よって間違いです。
5 保護は,個人又は世帯の必要に即応して,画一的に行われる。
「必要即応の原則」に関する出題です。
③必要即応の原則
保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うものとする。
国試では,「必要即応の原則」に関しては,その言葉の印象から「保護は急いで行わなければならないので,画一的に行う」といったように出題されます。
これがその問題です。
この原則を定めている理由は,保護は画一的に行ってはならない,ということを明らかにするためです。
よって間違いです。
原理・原則の内容を簡単にでも覚えておけば,そんなに難しくはないと思います。
第●条 =●●の原則
といった覚え方は,まったく意味がありません。
必要なのは何条の規定なのか,ではなく,その内容です。
それではもう一問です。
第21回・問題24 生活保護法の基本原則に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 保護は,要保護者とその扶養義務者の申請にもとづいて開始することを原則とし,それ以外の同居の親族等による申請は認められない。
2 無差別平等が原則なので,個々の世帯状況に配慮して保護の種類や方法の決定を行うことは許されない。
3 保護基準は,最低限度の生活水準を超えるものでなければならない。
4 生活保護の要否や程度の決定は,原則として世帯を単位として行うが,ここでいう世帯とは,同じ住居で居住し,生計を一つにしている親族を意味している。
5 保護基準には,保護の要否を判定するとともに,保護費の支給の程度を決定するという2つの機能がある。
これも旧カリ時代の問題です。第20回の問題を解けても,この問題は解けません。
原理・原則全体を理解していることが必要です。
過去問をちょこっと解いたくらいで国試合格できないのは,今始まったことではなく,過去にさかのぼれば第19回国試からはっきりその意図が見えてきています。
3年間の過去問を3回解けば合格できるよ
という都市伝説は,第18回国試以前のものであると言えます。
さて,解説です。
1 保護は,要保護者とその扶養義務者の申請にもとづいて開始することを原則とし,それ以外の同居の親族等による申請は認められない。
申請保護の原則についての問題です。
①申請保護の原則
保護は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基いて開始するものとする。但し,要保護者が急迫した状況にあるときは,保護の申請がなくても,必要な保護を行うことができる。
保護申請は,要保護者,その扶養義務者又はその他の同居の親族が行うことができます。
よって間違いです。
2 無差別平等が原則なので,個々の世帯状況に配慮して保護の種類や方法の決定を行うことは許されない。
「無差別平等の原理」と「必要即応の原則」のミックス問題です。
無差別平等の原理とは,困窮に至った理由を問わず,困窮の事実に基づいて保護を行うという原理です。
必要即応の原則は,保護は,要保護者の年齢別,性別,健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して,有効且つ適切に行うという原則です。
まったくのでたらめ問題です。
よって間違いです。
3 保護基準は,最低限度の生活水準を超えるものでなければならない。
基準及び程度の原則に関する問題です。
保護基準は,最低限度の生活水準を超えたらだめです。よって間違いです。超えても超えなくてもだめです。
4 生活保護の要否や程度の決定は,原則として世帯を単位として行うが,ここでいう世帯とは,同じ住居で居住し,生計を一つにしている親族を意味している。
「世帯単位の原則」についての問題です。
世帯は親族だけではなく,同じ住居で居住し,生計を一つにしていると同一世帯になります。また,同居していなくても,出稼ぎなどをしている親族は,同一世帯となります。
よって間違いです。
5 保護基準には,保護の要否を判定するとともに,保護費の支給の程度を決定するという2つの機能がある。
これが正解です。
保護基準は,最低限度の生活を送るための金額を設定するものです。
要保護者の所得を調査し,それよりも下回っていれば保護を決定します。
それよりも上回っていたら保護しません。
また,最低限度の生活を送るための金額よりもいくら下回っているか,によって,その不足している金額を支給します。
言い回しは面倒ですが,設問にある2つの機能は,保護基準の中にあります。
最新の記事
子ども・子育て支援法
子ども・子育て支援法は,これまでにも出題されてきましたが,正式に出題基準に含まれたのは,第37回国家試験です。 子ども・子育て支援制度は,市町村が実施主体になっています。 支給申請は,市町村に対して行います。 児童福祉法には,入所系があるので都道府県の役割がありますが,子ども...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...