2018年9月2日日曜日

日本の救貧制度のあゆみ~その1

日本の救貧制度のあゆみ~その1

日本が近代国家と呼べるようになったのは,明治以降です。

近世の日本は,徳川幕府を中心とした幕藩体制によって成り立っていたものを明治維新によって中央集権国家に生まれ変わったのです。

明治政府によって作られたのは,「恤救(じゅっきゅう)規則」(1874)です。

基本は相互扶助であり,誰も助けてくれない「無告の窮民」を国が救済するというものです。

救済方法は,米代の現金給付でした。

その後,第1回帝国議会の第1号法案として提出された窮民救助法案をはじめとしていくつかの法案がつくられましたが,いずれも廃案となっています。

驚くことに明治の初めに成立した恤救規則は,昭和まで存続します。

さて,昭和になって作られたのが「救護法」(1929)です。

恤救規則では施設は規定されませんでしたが,救護法では,居宅救護が原則ですが,救護施設として,養老院(現・養護老人ホーム),孤児院(現・児童養護施設)などが規定されました。

太平洋戦争が終結後は,GHQの指導によって福祉政策がすすめられていきます。

まず,「社会救済」(SCAPIN775)が発せられて,それに基づき,旧・生活保護法(1946)が成立しました。

その後,日本国憲法第25条の「生存権規定」に基づき,現・生活保護法(1950)が成立します。

発展過程を理解するのに必要な法制度は

恤救規則
救護法
旧・生活保護法
現・生活保護法

の4つだけです。

国試で問われるのは,それぞれの対象,欠格条項の有無,扶助の種類,民生委員(方面委員)の位置づけなどです。

各自で必ず整理しておきましょう。

それでは今日の問題です。

第23回・問題56 我が国の公的扶助制度の沿革に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 恤救規則(明治7年)では,生活に困窮する「無告の窮民」に対し米の現物給付を行った。

2 救護法(昭和4年)では,救護を受ける者は施設に収容することを原則とした。

3 救護法(昭和4年)では,救護の対象となる者について,扶養義務者が扶養できる場合には,急迫した場合を除き救護しないとされた。

4 旧生活保護法(昭和21年)では,能力があるにもかかわらず勤労の意思のない者は,急迫した場合を除き保護の対象から除外された。

5 旧生活保護法(昭和21年)では,日本国憲法に基づく健康で文化的な最低生活保障の考え方を導入した。

勉強が足りない人は,おそらくぜんぜん分からないはずです。

勉強が進んでいる人は,比較的簡単かもしれません。

国試で合格基準点を上回るためには,このようなことを一つひとつ積み上げていくことが極めて重要です。

勘を頼りに解ける問題は,限られています。

それでは,解説です。

1 恤救規則(明治7年)では,生活に困窮する「無告の窮民」に対し米の現物給付を行った。

恤救規則が救済にしたのは「無告の窮民」で正しいですが,救済の方法は米の現物給付ではなく,米代の現金給付です。

よって間違いです。


2 救護法(昭和4年)では,救護を受ける者は施設に収容することを原則とした。

救護法に限らず,現在も原則は,居宅保護です。よって間違いです。


3 救護法(昭和4年)では,救護の対象となる者について,扶養義務者が扶養できる場合には,急迫した場合を除き救護しないとされた。

救護法は,扶助の種類を定めるなど恤救規則よりもかなり進化しましたが,扶養義務者が扶養できる場合には,急迫した場合を除き救護しない,欠格条項として,能力があるにもかかわらず勤労の意思のない者は救護しないと定められました。

よって正解です。


4 旧生活保護法(昭和21年)では,能力があるにもかかわらず勤労の意思のない者は,急迫した場合を除き保護の対象から除外された。

旧・生活保護法は,GHQの指令書「社会救済」(SCAPIN775)で示された「無差別平等」が規定されましたが,実際には,能力があるにもかかわらず勤労の意思のない者は保護しないと定められました。急迫していても保護しません。よって間違いです。


5 旧生活保護法(昭和21年)では,日本国憲法に基づく健康で文化的な最低生活保障の考え方を導入した。

旧・生活保護法はSCAPIN775に基づいて成立しています。よって間違いです。

日本国憲法第25条に基づいて成立したのは,現・生活保護法です。

細かい話をすると,旧・生活保護法は1946年,日本国憲法が公布されたのは1946年ですが,施行されたのは1947年です。


<今日の一言>

日本の救貧制度は,恤救規則,救護法,旧・生活保護法,現・生活保護法を整理して覚えておきましょう。

たった4つだけです。

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