日本の救貧制度のあゆみ~その1
日本が近代国家と呼べるようになったのは,明治以降です。
近世の日本は,徳川幕府を中心とした幕藩体制によって成り立っていたものを明治維新によって中央集権国家に生まれ変わったのです。
明治政府によって作られたのは,「恤救(じゅっきゅう)規則」(1874)です。
基本は相互扶助であり,誰も助けてくれない「無告の窮民」を国が救済するというものです。
救済方法は,米代の現金給付でした。
その後,第1回帝国議会の第1号法案として提出された窮民救助法案をはじめとしていくつかの法案がつくられましたが,いずれも廃案となっています。
驚くことに明治の初めに成立した恤救規則は,昭和まで存続します。
さて,昭和になって作られたのが「救護法」(1929)です。
恤救規則では施設は規定されませんでしたが,救護法では,居宅救護が原則ですが,救護施設として,養老院(現・養護老人ホーム),孤児院(現・児童養護施設)などが規定されました。
太平洋戦争が終結後は,GHQの指導によって福祉政策がすすめられていきます。
まず,「社会救済」(SCAPIN775)が発せられて,それに基づき,旧・生活保護法(1946)が成立しました。
その後,日本国憲法第25条の「生存権規定」に基づき,現・生活保護法(1950)が成立します。
発展過程を理解するのに必要な法制度は
恤救規則
救護法
旧・生活保護法
現・生活保護法
の4つだけです。
国試で問われるのは,それぞれの対象,欠格条項の有無,扶助の種類,民生委員(方面委員)の位置づけなどです。
各自で必ず整理しておきましょう。
それでは今日の問題です。
第23回・問題56 我が国の公的扶助制度の沿革に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 恤救規則(明治7年)では,生活に困窮する「無告の窮民」に対し米の現物給付を行った。
2 救護法(昭和4年)では,救護を受ける者は施設に収容することを原則とした。
3 救護法(昭和4年)では,救護の対象となる者について,扶養義務者が扶養できる場合には,急迫した場合を除き救護しないとされた。
4 旧生活保護法(昭和21年)では,能力があるにもかかわらず勤労の意思のない者は,急迫した場合を除き保護の対象から除外された。
5 旧生活保護法(昭和21年)では,日本国憲法に基づく健康で文化的な最低生活保障の考え方を導入した。
勉強が足りない人は,おそらくぜんぜん分からないはずです。
勉強が進んでいる人は,比較的簡単かもしれません。
国試で合格基準点を上回るためには,このようなことを一つひとつ積み上げていくことが極めて重要です。
勘を頼りに解ける問題は,限られています。
それでは,解説です。
1 恤救規則(明治7年)では,生活に困窮する「無告の窮民」に対し米の現物給付を行った。
恤救規則が救済にしたのは「無告の窮民」で正しいですが,救済の方法は米の現物給付ではなく,米代の現金給付です。
よって間違いです。
2 救護法(昭和4年)では,救護を受ける者は施設に収容することを原則とした。
救護法に限らず,現在も原則は,居宅保護です。よって間違いです。
3 救護法(昭和4年)では,救護の対象となる者について,扶養義務者が扶養できる場合には,急迫した場合を除き救護しないとされた。
救護法は,扶助の種類を定めるなど恤救規則よりもかなり進化しましたが,扶養義務者が扶養できる場合には,急迫した場合を除き救護しない,欠格条項として,能力があるにもかかわらず勤労の意思のない者は救護しないと定められました。
よって正解です。
4 旧生活保護法(昭和21年)では,能力があるにもかかわらず勤労の意思のない者は,急迫した場合を除き保護の対象から除外された。
旧・生活保護法は,GHQの指令書「社会救済」(SCAPIN775)で示された「無差別平等」が規定されましたが,実際には,能力があるにもかかわらず勤労の意思のない者は保護しないと定められました。急迫していても保護しません。よって間違いです。
5 旧生活保護法(昭和21年)では,日本国憲法に基づく健康で文化的な最低生活保障の考え方を導入した。
旧・生活保護法はSCAPIN775に基づいて成立しています。よって間違いです。
日本国憲法第25条に基づいて成立したのは,現・生活保護法です。
細かい話をすると,旧・生活保護法は1946年,日本国憲法が公布されたのは1946年ですが,施行されたのは1947年です。
<今日の一言>
日本の救貧制度は,恤救規則,救護法,旧・生活保護法,現・生活保護法を整理して覚えておきましょう。
たった4つだけです。
最新の記事
ノーマライゼーションの国家試験問題
今回は,ノーマライゼーションに取り組みます。 前説なしで,今日の問題です。 第26回・問題93 ノーマライゼーションの理念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 1 すべての人間とすべての国とが達成すべき共通の基準を宣言した世界人権宣言の理念として採用された。 2...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
バートレットは,ソーシャルワークの共通基盤として 「価値」「知識」「介入(技術)」 を挙げています。 ソーシャルワーカーなら,フィールドが違えど,共通してもっているもの,という意味です。 3 つの中のうち「 価値 」は,「相談援助の基盤と専門職」で中心的...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ノーマライゼーションとは,「ノーマル(普通)」の派生語で「ノーマル化する」という意味です。 「ノーマル化する」のは,障害者の生活です。 世界で最初にノーマライゼーションを提唱したのは,デンマークのバンク-ミケルセンです。 1950年代のデンマークでは,保護の名のもとに...
-
社会福祉士の国家試験には,何度か「PIE(Person-in-Environment)」というものが出題されています。しかし,これは何なのでしょうか。 ネットで調べても,ほとんどヒットしません。 目ぼしいものとしては,相川書房「PIEマニュアル 社会生活機能における問題を記述、分...
-
繰り返しになりますが,ソーシャルワークは欧米生まれです。 なじみのない外国語がたくさん使われますが,苦手だと思うととても損です。 さて,今日のテーマは「ジェネラリスト・アプローチとは何だろう?」です。 まずは前回の復習からです。 ソーシャルワークは,ケースワーク,...
-
国試での出題実績のあるアプローチは以下の12種類です。 出題基準に示されているもの ・心理社会的アプローチ ・機能的アプローチ ・問題解決アプローチ ・課題中心アプローチ ・危...
-
社会福祉士は,相談援助の専門職です。 心理職が行うカウンセリング技法は,ソーシャルワーク場面でも活用できます。 参考書には,たくさんの技法が書かれていますが,特に気をつけたいのは,感情の反映です。 感情の反映は,クライエントの発言の情緒的な面を言葉にして返す技法です。 事例問題が...