生活保護法には,基本原理と基本原則という軸があるので,国試問題を解く時にもそれを軸にすれば解きやすいと思います。
生活保護法の基本原理・基本原則
https://fukufuku21.blogspot.com/2018/09/1_9.html
じっかり押さえたところで,今日の問題です。
第29回・問題69 生活保護の決定と実施に関する次の記述のうち,正しいものを2つ選びなさい。
1 他の法律に定める扶助は,生活保護法による保護に優先して行われる。
2 生活に困窮していても借金がある場合は,保護を受けることができない。
3 資力調査等に日時を要する場合は,保護の開始の申請から60日まで保護の決定を延ばすことができる。
4 急迫した状況にある場合は,資産等の調査を待たずに保護を開始することができる。
5 生活保護法による生活扶助は,居宅よりも保護施設において行うことが優先される。
問題自体は,そんなに難易度は高くはないと思いますが,「2つ選ぶ」という大きな落とし穴があるので気を付けなければなりません。
それでは解説です。
1 他の法律に定める扶助は,生活保護法による保護に優先して行われる。
これは正解です。保護の補足性の原理です。何のひねりもありません。
2 生活に困窮していても借金がある場合は,保護を受けることができない。
これは間違いです。
無差別平等の原理です。原理は,例外のないルールです。
困窮に至った理由は問われず,困窮の事実をもって保護します。
3 資力調査等に日時を要する場合は,保護の開始の申請から60日まで保護の決定を延ばすことができる。
これは間違いです。
「通知は,申請のあった日から十四日以内にしなければならない。ただし,扶養義務者の資産及び収入の状況の調査に日時を要する場合その他特別な理由がある場合には,これを三十日まで延ばすことができる」と規定されています。
通知の期限については,「はじめまして」です。今までは出題されていません。
しかし,60日は長すぎると感じることでしょう。待つ身は長いです。
60日と言えば,かつては国試が終わってから合格発表まで約60日でした。
今は約1か月半です。それでも長いです。
4 急迫した状況にある場合は,資産等の調査を待たずに保護を開始することができる。
これは正解です。
申請保護の原則です。
原則は,例外のあるルールです。
原則は「申請保護」,例外は「職権保護」です。
5 生活保護法による生活扶助は,居宅よりも保護施設において行うことが優先される。
これは間違いです。
生活扶助を目的とする施設は,救護施設と更生施設の2つがあります。
しかし,原則は,居宅での保護です。
<今日の一言>
「魔の第25回」以降,正解を2つ選ぶ問題が出現しました。
事例問題は,2つ選ぶのは結構難しいですが,一般的な一問一答式の問題はそれほど難しくはありません。
しかし,注意すべきなのは,突然2つ選ぶ問題が出てくるので,見落としがちであることです。
特に今日の問題のように,選択肢1が正解なら,そのあとの選択肢はしっかり見ないで答えを記入してしまうおそれがあります。
2つ選ぶ問題は,全体では10~15問程度なので,注意しないと見逃してしまいがちです。
模擬試験を受験するなどして,自分なりの対策を立てて実践するのも一つの手です。
国試会場は,とにかく冷静になるのは難しいので,事前の練習は欠かせません。
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