福祉事務所は,都道府県・市には設置義務があり,町村は任意で設置できます。
全国に約900町村ありますが,そのうち福祉事務所を設置しているのは,43町村です。
とても数が少なく感じると思いますが,2000年以前はわずか2町村でした。
その後設置数が増えてきています。
都道府県別にみると島根県と鳥取県の町村が多く設置しています。
逆に都道府県の設置する福祉事務所は減少しています。
なぜなら平成の大合併によって,郡部の町村の中で市になったところがあるからです。
それはさておき,福祉事務所は町村の任意設置なので,大半の町村は設置していません。
第27回と第29回で,福祉事務所を設置していない町村に関する選択肢が続けざまに出題されました。
第30回ではとうとう一問丸ごと福祉事務所を設置していない町村が出題されています。
試験委員は意識しているのか,していないのか分かりませんが,鳥瞰してみると,毎回の国試に何らかのつながりがあるように思います。
さて,それでは第30回国試問題です。
第30回・問題66 福祉事務所を設置していない町村の役割・機能に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 町村は,社会福祉主事を置くことができる。
2 町村は,生活保護法における保護の変更の申請を受け取ったときは,保護の変更を決定することができる。
3 保護の実施機関は,町村に対し被保護者への保護金品の交付を求めることはできない。
4 町村は,被保護者に対し必要な指導又は指示をすることができる。
5 保護の開始の申請は,町村を経由して行うことができない。
保護の実施機関は,都道府県知事,市長,福祉事務所を設置する町村長です。
保護の実施機関と福祉事務所を設置していない町村長では明らかに違うことがあります。
保護の実施機関は,決定権を持つ
保護の実施機関ではない町村長は,決定権を持たない
しっかりその点は押さえておきましょう。
つまり・・・
機関とは,決定権を持つもの,という意味です。
この問題は,第30回国試ではありますが,その割に洗練されていない印象があります。
とてもマニアックな話ですが,それは以下の理由によります。
①表現がそろっていない。
②問題文の長さがバラバラ。
問題文によって,統一するのは難しいとは思いますが,せめて「できる」と「できない」は混在させず,
1 できる
2 できる
3 できる
4 できない
5 できない
に並べ替えるだけで,問題文としては少し整って見えます。
このことによって,勉強不足の人は,混乱しやすくなります。
同じリズムの文章を見ると,それに〇×をつけるのは,かなり難しくなります。
それでは,解説です。
1 町村は,社会福祉主事を置くことができる。
これが正解です。
福祉事務所を設置していなくても,任意で社会福祉主事を置くことができます。
2 町村は,生活保護法における保護の変更の申請を受け取ったときは,保護の変更を決定することができる。
福祉事務所を設置していない町村長は,決定権を持ちません。
よって保護の決定も変更もすることができません。
間違いです。
3 保護の実施機関は,町村に対し被保護者への保護金品の交付を求めることはできない。
これも間違いです。
「保護の実施機関又は福祉事務所長から求められた場合において,被保護者等に対して,保護金品を交付すること」と規定されています。
4 町村は,被保護者に対し必要な指導又は指示をすることができる。
これも間違いです。
指導又は支持をすることができるのは,保護の実施機関です。
5 保護の開始の申請は,町村を経由して行うことができない。
これも間違いです。
「保護の開始又は変更の申請を受け取った場合において,これを保護の実施機関に送付すること」と規定されています。
<今日の一言>
国試会場は,とにかく緊張します。
平静心を保つのは本当に難しいです。
実は,この問題は実はちょっとしたほころびがあります。
2 町村は,生活保護法における保護の変更の申請を受け取ったときは,保護の変更を決定することができる。
5 保護の開始の申請は,町村を経由して行うことができない。
この2つの選択肢です。
申請と変更という違いはありますが,町村が申請及び変更申請を受け取ることがテーマになります。
受け取ることができれば,選択肢5は間違いになります。
受け取ることができなければ,選択肢2は間違いになります。
このように,他の選択肢から類推できる問題は,問題文としての質はあまり高いとは言えません。
国試会場でこのような問題を見たとき,「問題を作るのが下手」と心の中で笑いましょう。それによって,気持ちがかなり楽になるはずです。
実力通りの力を国試で発揮するのは決して簡単なことではありません。
雰囲気に呑まれないのは,言うほど簡単ではありません。
後から落ち着いて読めば解けた,ではだめなのです。
しっかり勉強した人なら,合格点に到達できなくても,その後に落ち着いて読めば,合格点に到達できる点数が取れる方が多いはずです。
それだけ国試会場で実力を発揮するのは,簡単ではないということなのでしょう。
試験委員を笑えるくらいの気持ちをもって,国試に臨みたいものです。
最新の記事
障害者総合支援法に規定される障害福祉サービスの実施主体
障害者総合支援法に規定される障害福祉サービスの実施主体は,市町村です。 同法における都道府県の役割は,障害福祉計画の作成,地域生活支援事業の実施,障害福祉サービス事業者等の指定などに限られます。 なお,自立支援医療には,育成医療,更生医療,精神通院医療の3種類がありますが,このう...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回は,ロールズが提唱した「格差原理」を学びましょう。 格差原理とは,格差(社会的や経済的に不平等があること)は,最も恵まれない人に用いられる場合にのみ認められること。 格差があることを認めないのではなく,格差があっても,それがその社会の中で最も恵まれない人の利益になるような仕組...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
歴史が苦手な人は多いですが,イギリスの歴史は覚えておきたい歴史の代表です。 今回のテーマは,ブース,ラウントリーの貧困調査です。 第34回国家試験までの出題回数を調べてみると ブース 12回 ラウントリー 16回 どちらの出題頻度も高いですが,ラウントリーのほうがより出題頻度が...
-
コミュニティはさまざまな人が定義していますが,ヒラリーの研究によって,それらに共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが示されました。 しかし,現代では,空間が限定されないコミュニティが広がっています。それをウェルマンは,「コミュニティ開放論」と...
-
1990年(平成2年)の通称「福祉関係八法改正」は,「老人福祉法等の一部を改正する法律」によって,老人福祉法を含む法律を改正したことをいいます。 1989年(平成元年)に今後10年間の高齢者施策の数値目標が掲げたゴールドプランを推進するために改正されたものです。 主だった...
-
システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。 それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。 エコロジカルアプローチを提唱したジャーメインとギッターマンが,エコロジカル(生態学)の視点をソーシャルワークに導入したものです。 生活モデルでは,クライエントの...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
診断主義は,1920年代に登場して,現在は,心理社会的アプローチに発展しています。 機能主義は,機能主義の批判的な立場で,1930年代に登場して,現在,機能的アプローチに発展しています。 それでは,今日の問題です。 第32回・問題101 ソーシャルワーク実践理論の基礎に関する次...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...